殺し屋×JKの恋

7,お別れしたくありません

約2,100字(読了まで約6分)



《待って、もうすこし日本にいてください! 私とデートしてください! せめて連絡先を交換してください!!》

《よ、よせ、ナミ……!》


 ジョットさんの背中にすがりついてお願いをすべて口にすると、ジョットさんはビクッとはねて、あわてた声を出す。
 クールな雰囲気だったのに、そうやって動揺(どうよう)しているところもかわいくて、ますます気持ちがふくれる。
 それなのに、ジョットさんは帰っちゃうんだ……日本人じゃなくて、イタリアの人だから。

 涙をこらえていると、ジョットさんは電話に向かってすこし声を落とした。


《あぁ……例の一般人に“好き”だなんて言われて、もうどうしたらいいのか……》

《連絡先を交換してくれたらいいんです!》

《やめろナミ、今はボスと……は、ボス!? でも、それは……! ボス!》


 ひときわ大きな声を出したジョットさんは、ゆっくりスマホを耳から離して、私に背中を向けたまま立ちすくむ。


《ジョットさん、お願い……!》

《……》


 Yシャツの背中をギュッとにぎりしめてお願いすると、ジョットさんは小さな声を落とした。


《ボスに、言われたからだ……だから、教えてやる》

「!」


 目を見開いてYシャツをにぎった手をゆるめれば、ジョットさんはしずかに振り返って、顔をそむけながら私にスマホを差し出す。
 明るく点灯(てんとう)した画面には、メールアドレスが一行だけ書かれていた。


《ジョットさん……! ありがとうございますっ!》


 ほおのゆるみが止まらない。
 涙の引いた目で画面を見つめ、一文字一文字まちがえないようにジョットさんのメールアドレスを自分のスマホに打ちこむと、私はスマホを抱きしめた。
 やった~~……っ! ジョットさんとメールができる!


《……れ、連絡をとるつもりは、ないからな》


 よろこびをかみしめていたら、ジョットさんにそんなイジワルを言われて、すこし口角が下がる。
 でも、返事をもらえるようにがんばれば いいや、と思いなおして、まだ顔をそむけているジョットさんを見た。


《ジョットさん、お付き合いしてる人や、好きな人は?》

《い、いるわけないだろう……俺はマフィアの殺し屋だ》

《それはよかったです!》


 私にもチャンスがある! とよろこびを笑顔に変える。
 ジョットさんはこれからイタリアに帰って、もう会えなくなっちゃうし……。
 大人の人に覚えててもらうためには、ちょっと背伸びをしたって、いいよね……?

 視線を落として考えこんだあとにチラッとジョットさんを見ると、顔をそむけたまま私を見ていたジョットさんと目が合った。
 あわてたように、バッと体ごとうしろを向いたジョットさんを見て、顔がにやける。
 私はジョットさんの前にまわりこんで、《ジョットさん》と呼びかけながら両手を彼の肩に乗せた。


《ごめんなさい、好きです》


 一応勝手にしてしまうことへの謝罪も口にして、かかとを上げる。
 細めた目で唇の位置を確認しながら、固まっているジョットさんに近づいて、チュッとキスをした。
 バクッバクッと心臓がさわぐのをしばらく聞き、かかとを地面に下ろすと、ジョットさんの顔が真っ赤になっているのが見える。


《イタリアに帰っても、私のこと忘れないでくださいね》

《っ……き、きみは……》


 目を細めて笑いかけると、ジョットさんは眉を八の字にして顔を片手でおおい、ごにょごにょと小さくなにか言った。
 やった……! これで、ジョットさんの忘れられない人になれたかな?
 さっきのよいんで ほおが熱くなっているのを感じながら、私も視線を落として、ぬくもりを感じた唇にふれる。


《……私、キスしたの初めてです》


 初めてのキスをジョットさんとできてよかった。
 じゅわりと、さらにほおが熱くなる感覚を覚えつつ、ほおがゆるむまま笑みを浮かべると、目の前から息を飲む小さな音が聞こえる。
 視線を上げれば、指のすきまから私を見ているジョットさんと目が合った。


《~~っ……帰る!》

《あ、待ってください! 空港まで案内しますよ!》


 バッと、私に背中を向けて早足で歩き出したジョットさんを追いかけ、私は閑静(かんせい)な道路を走った。


****

 あれから、ジョットさんは言葉を(たが)えることなくイタリアに帰ってしまったので、私は日々メールを送って、ジョットさんとの細いつながりを大事にしている。
 連絡をとるつもりはないって言ってたけど、なんだかんだ、ジョットさんは毎回短い返信をくれていた。

 長引いた夏の気配も遠のき、ようやく秋を感じるようになったころ、私は修学旅行でやって来た、とある街を見まわした。
 先生からもおなじ班のクラスメイトからも離れて、もうけっこう移動したかな。
 昼下がりの日差しを浴びて白く染まる石畳の道を進み、街のにぎわいを はるかうしろに置いていく。

 石造りやレンガ造りの建物を横目に、大きな洋館の前にたどり着くと、手に持ったスマホをにぎりしめて足を止めた。


「写真で見たのとおなじ……だよね?」


 スマホの地図と、画像フォルダに保存した写真を食い入るように確認して、私は笑みを浮かべる。
 ここでまちがいない!
 私は青空にスマホを向けて写真を撮ったあと、メールアプリを開いて、トットットッ、とキーボードをフリックした。


ありがとうございます💕

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