殺し屋×JKの恋

8,殺し屋さんが大好きです

約2,100字(読了まで約6分)



[こんにちは。空の写真を撮ったので送ります。ジョットさんがいるところの空は、どんな感じですか? よかったら、外に出て写真を撮ってみてほしいです]


 イタリア語で書いたメールを送信し、目の前の黒い扉を見つめる。
 修学旅行で行く先がイタリアだって聞いてから、ずっとこのときを楽しみに待っていた。
 朝のうちに、今日ジョットさんはカリアファミリーの本部にずっといるって聞き出しておいたし、すれちがうこともない。

 スマホを制服のポケットにしまって、しばらく待っていると、ガチャ、と目の前の扉が開いた。
 そして、視線を落としたジョットさんが、黒いスーツに身を包んだ姿で外に出てくる。
 バクッバクッと鼓動(こどう)が速くなって、大好きな人に視線が吸い寄せられたまま、動けなくなった。

 人の気配に気づいたのか、視線を上げて私を見たジョットさんは――目を丸く見開いて固まる。


《ジョットさんっ!》

《な……ナミ!? どうしてここに……!》


 いきおいよくかけ出して、ジョットさんに抱きつくと、なつかしいシトラスの香りがした。


《……っ。修学旅行でイタリアに来たので、会いに来ちゃいました》


 顔を上げて、えへ、と笑えば、ジョットさんは告白をしたあのときのように、眉をたがいちがいに上げ、口角を下げてたじろぐ。
 胸に顔を寄せてジョットさんを堪能(たんのう)すると、半開きの扉の奥から《なんだ?》とか《あのジョットが女に……》とかほかの人の声が聞こえた。


《おや、見慣れない子じゃないか。きみが日本で会ったっていうナミちゃんかい? よく来たねぇ、中でゆっくりしていきなさい》

《ボス!? 待っ――!》

《ありがとうございます!》


 低くつややかな声に名前を呼ばれて顔を上げると、茶髪をオシャレにあそばせたダンディなおじさまがこっちをのぞきこんでいた。
 この人がボスさんなんだ、と思いながら、笑顔を向ける。


《ジョットさんだけじゃなくて、ボスさんもいい人なんですね》

《はははっ。なんてかわいい子だ》


 ボスさんは楽しげに笑いながら洋館の奥に姿を消していった。
 そういえばジョットさんがメールアドレスを教えてくれたのも、ボスさんが言ったからなんだっけ。
 あとでそのことについてもお礼を言っておかなきゃ!


《ナミ、ここがどこだかわかっているのか!?》


 洋館のなかから顔をのぞかせているカリアファミリーの人たちにも笑顔を向けていると、ジョットさんに肩をつかまれる。
 私は目の前のジョットさんに視線をもどして《はい、カリアファミリーの本部ですよね》と答えた。


《ずっと会いたかったです。あの日から毎日、ジョットさんのことを考えていました。大好きです、ジョットさん》


 笑みを浮かべてジョットさんの茶色い瞳を見つめると、ジョットさんは顔を赤くして、逃げ場を探すように、ななめ上へ顔をそらす。
 ふふ、久しぶりに顔が見れてうれしいな。
 ギューッと抱きつくと、ジョットさんは体を硬くしてだまりこんだあとに、ボソッと、本当に小さな声を落とした。


《きみが……元気そうで、よかった》

「!」

《そ……そろそろ、離れてくれ……女に抱きつかれても、どうすればいいかわからない》


 グイッと肩を押されるまま、すなおに離れたのは、ジョットさんの言葉に心臓がギュンッとなったから。
 私はジョットさんの両手をつかんで、グッと顔を近づけた。


《私、大人になったらイタリアに引っ越します!》

《なっ!?》

《そうしたら、毎日でも会えますよね》


 笑って言うと、ジョットさんは言葉につまったように、眉根を寄せて赤い顔をそらす。
 これ以上好きになる余地(よち)があったんだ、と思うくらい、どんどん好きな気持ちがふくらんでいく。


《……ジョットさん、あれからほかの人とキスしたり、しました?》

《す、するわけないだろう……! 俺は、殺し屋だ》

《よかったです、安心しました。ジョットさんの唇は、私が永久予約します。だから、これからもほかの人で上書きしないでくださいね》


 ジョットさんは思わずと言ったようにおどろいた顔で私を見て、視線がからみ合うとまたすぐに顔をそらした。
 ふふふ、かわいい。


《俺を、“好き”だなんて言うのも……キスしようとするのも、ナミしかいない》

《え……》

《……勝手に、しろ》


 はくはくと口を開閉したジョットさんは、“ようやく”とつくくらいに時間をかけてその一言を発し、硬く目を閉じた。
 ……え。えっ……!
 それってつまり……!!


《~~っ、好きです、ジョットさん! 大好きです、愛してます!》


 ガバッと手を伸ばしてジョットさんの顔を捕まえると、おどろいたようにするどいつり目が開かれる。


《な、ナミ……!?》


 私はジョットさんに笑いかけて、グッと背伸びをした。
 (かさ)ねた唇から伝わる感触に、胸が甘くうずく。
 薄く目を開ければ、眉根を寄せて硬く目を閉じているジョットさんの真っ赤な目元が見えて、笑みがこぼれた。

 いばらの道だろうと、絶対にあきらめない。
 私はいつか、ジョットさんと付き合うんだ!
 そう心に決めて、私はもうしばらく、大好きな人に許された“特別”を味わった。


[終]
ありがとうございます💕

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