殺し屋×JKの恋

5,取り引き相手の人と交渉です

約2,200字(読了まで約6分)



《カリアファミリーのジョットだ。あんたと取り引きした男が渡したクスリは、我々から(ぬす)まれたもの。カリアファミリーにはそれを売買する意思はない》


 ジョットさんは中川(なかがわ)さんを見つめながら手短に話して、最後に《受け取ったクスリを返してもらいたい》と伝える。
 すこしあごを引いた中川さんは、レンズの奥からするどい刃物のような視線をジョットさんに返した。


《そちらから盗まれたものだろうと、彼との取り引きはもう成立しました。それなりの(がく)を渡したわけですから、タダで返すことはできませんね》

《……金は返す。あの男がいた、さびれた建物の付近(ふきん)を探せば見つかるだろう》

《なるほど……それで、彼はどうしたのです?》


 メガネのフレームを、広げた右手で押さえながら尋ねる中川さんは、ちょっと不気味。
 あの廃工場(はいこうじょう)に私を連れて行ったのはこの人だし……。


《殺した》

《ふむ……まぁ、金が返ってくるのなら、取り引きした品物をお返ししてもかまいません。しかし……》


 無表情でなんの感慨(かんがい)もなく言いきったジョットさんの横顔に見惚(みほ)れていると、「その女を拘束(こうそく)しろ」と中川さんの声がした。
 え、拘束? と思ってジョットさんの顔から視線を離したとき、グイッとだれかに二の腕をつかまれる。


「わっ!?」

《ナミ!》


 横に引っぱられるまま体勢をくずした私を引きずって、一番私の近くに座っていたヤクザさんが、私の両腕を背中側でひとまとめに押さえつけた。


《失礼、彼女を野放しにしておくことはできないもので》

《……離せ。その子は一般人だろう》


 私を引き止めそこねたジョットさんの右手がグッとにぎりこまれる。
 眉間(みけん)にシワを寄せたジョットさんに にらまれて、中川さんはツンとあごを上げた。


《だからですよ。こちらとしてもカタギに手を出すことはためらわれますが、すべてを聞かれた以上、タダで返すわけにはいきません》

「うぅ……」


 やっぱり私、どうあっても殺されちゃう運命に入ってるの~……?


《その子に、いったいなにをする気だ》

《日本のことはこちらで始末します。ジョットさん、あなたには関係のないことです》

《……そうか》


 私は眉を八の字に下げて、見納(みおさ)めになってほしくない、という気持ちで離れてしまったジョットさんを見つめる。
 ジョットさんは、ふぅ、と息を吐くように目を()せると、廃工場で最初に見たような冷酷(れいこく)な目つきに変わって――……。
 私……ううん、私のすこし上をねらうように、すばやくショルダーバッグから取り出したピストルをこっちに突きつけた。


「「……!」」


 ゾクッと鳥肌が立つような、ピリピリした空気が一瞬で広がる。
 無意識に息がつまった私に呼吸を許したのは、カラッといきおいよく開いた障子(しょうじ)の音だった。


「……やめねぇか」

「オヤジ……!」


 顔を上げて振り向くと、開いた障子の前には いかめしい顔つきをした、白髪交じりのおじいさんが立っている。


「お客さんも、そのぶっそうなもん、しまってくれや。……日本語、わかるか?」


 和服姿のおじいさんが視線を向けた先には、私たちのほうにピストルを突きつけたまま、チラリとおじいさんに視線を向けるジョットさんがいた。
 私はハッとして、イタリア語を話す。


《ジョットさん、その銃をしまってくれって言ってます》

《……あなたがこのファミリーのボスか、と聞いてくれ》


 ジョットさんは私と目を合わせると、ピストルを下ろすことなくそう言った。
 私は小さくうなずいて、いつのまにか私を見ていたおじいさんに顔を向ける。


「えぇと……あなたがこの組の組長さんか、と聞いています……」

「ふむ……(じょう)ちゃんが通訳か。そうだ」


 深くうなずいたおじいさんからジョットさんに視線を移して《そうみたいです》と伝えると、今度は中川さんの声が和室に落ちた。


「オヤジ、この男が……」

「おめぇら、いつから耳が遠くなったんだ? そのお嬢さんを離せ」

「……はい」


 おじいさんがピシャッと言えば、中川さんは眉間にシワを寄せつつもうなずく。
 その直後、パッと強めにつかまれていた腕が解放されたのを感じて、私はおそるおそる周囲のヤクザさんたちを見まわした。
 おじいさんふくめ、だれも私の行動を止める人はいなさそう……。

 私は早足でジョットさんのそばにもどって、彼のうしろ、左半身側に隠れながら、わき腹あたりのYシャツをキュッとつかむ。
 ジョットさんはおどろいたようにピストルをビクッとゆらすと、構えていた腕をゆっくり下ろして。
 そっと……ギリギリふれているのがわかるくらいそっと、左手を私の背中にそえてくれた。


「嬢ちゃん、おまえさんは?」


 ジョットさんが、私を抱きしめてくれてる……! とドックンドックンはねる心臓の音に負けて、おじいさんの声を聞き逃しそうになる。


「あ、朝生(あそう)穂波(ほなみ)です。中川さんが取り引きしたイタリアの人に道案内をたのまれたんですが、中川さんがいる場所まで送り届けたあと……」


 ジョットさんの陰から顔を出して、「イタリア語であぶないおクスリの話をしているのを聞いてしまって」と説明した。


郊外(こうがい)の廃工場に監禁(かんきん)されて、殺されちゃいそうになったんですけど……イタリアの人を追ってきたジョットさんが助けてくれたんです」


 ジョットさんの顔を見上げると、私がなにを話しているかわからないからか、じぃっと流し目で見つめられていることに気づいて、ドキッとする。
 加速する鼓動(こどう)が止まらない。
 ちょっとこわい思いもしたけど、結果ジョットさんにここまで近づけたし、ついてきてよかった……!


ありがとうございます💕

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