殺し屋×JKの恋
4,ヤクザのお屋敷です
《ジョットさん、日本語わからないんですよね。私、通訳しますよ!》
《……コズモと取り引きをした人間はイタリア語を理解しているはずだ》
ジョットさんは眉をひそめて顔をそむける。
たしかにあのお兄さんはイタリア語を話していたけど……。
《でも、その人を呼び出すためにも、日本語を話せたほうがいいんじゃないですか?》
《……》
ジョットさんは顔をそむけたまましばらく固まって、《……くっ》という小さい声をこぼしたあとに、片方の眉を下げて私を見た。
《……ナミは、こわくないのか? 銃を持ったこともない一般人なんだろう》
《はい、そうですけど……うーん、よくわかりません。今はこわいとかよりも、ジョットさんのお手伝いがしたくて》
《なぜそんなに……》
眉をひそめるジョットさんが疑問を言いきる前に、私たちの前にある木製の
視線を向けると、ジャケットを脱いだスーツ姿の、コワモテな男の人が門扉の向こうから出てきた。
「ん……? なんだ、おまえらは?」
「あ、こんにちは! 私たち、今日お取り引きしたあぶないおクスリを返していただきに来たんですけど……」
「あん!?」
話を終える前に、コワモテの男の人が
思わずビクッとはねた肩に大きな手が乗って、《お、おい》とジョットさんが私の顔をのぞきこんできた。
《なにをしゃべった?》
《あ、今日取り引きしたおクスリを返してほしいって言いました》
《いきなり言ったのか……!?》
《はい》
ジョットさんの顔を見て、すこし感じた
目を閉じ、手のひらでひたいを押さえるジョットさんの顔を視界のはしにおさめつつ、私はコワモテの人に視線をもどす。
「あの、イタリア語が話せるお兄さんを呼んでいただけますか? メガネをかけている人です」
《おい、ナミ、勝手にしゃべるな。……せめて通訳をしろ》
「……いいだろう」
コワモテの人は、眉間にシワをきざんだまま、ジョットさんをチラリと見てあごを引いた。
私はジョットさんに言われたとおり、《コズモさんと取り引きをした人を呼んでくれるみたいです》と笑顔で通訳する。
《なに……? ……ナミ、もう帰れ。あとは俺が1人で片をつける》
「入れ、客間に案内する」
「あ、はい!」
ジョットさんに返事をする前にコワモテの人から声をかけられて、これ幸いと一歩前に出ながらジョットさんに顔を向けた。
《中に入っていいそうです。客間に案内してくれるって言ってます》
《ナミ……!》
《私、役に立ちますよね》
ニコ、と笑いかければ、ジョットさんは眉根を寄せて私の前に出る。
《……俺から離れるな》
私に目を向けることもなく、歩きながら声量を落として言ったジョットさんの言葉に、心臓がはねた。
やっぱりジョットさん、好き……っ!
大きな背中に
くつ下の裏から伝わるたたみの感触と、「ここで待ってろ」というコワモテさんの声でハッと意識を取りもどす。
「あ、はい」
《ナミ、なんて言っている?》
《ここで待ってるように、って。座っていましょう》
私の返事を聞いて客間から出ていったコワモテさんを見送って、ジョットさんに笑顔を向けた。
和室単体はなじみがあっても、日本
なんだかそわそわしちゃうな、と思いながらローテーブルの前に移動すると、ジョットさんはとまどったように聞く。
《座る? どこにだ?》
《あ、和室は初めてですか? ここの座布団に座るんです》
振り向けば、ジョットさんは目をパチクリさせて、ものめずらしげに座布団や、和室のなかを見まわしていた。
新鮮がってる顔がかわいい……!
にやけながら用意されていた座布団の上に正座すると、ジョットさんもとなりに来て、私の足を見つつ、正座しようとする。
《外国の人はむずかしいみたいなので、あぐらでいいと思いますよ》
《……そうか》
ジョットさんはコクリとうなずいて、あぐらで座布団に座った。
それから、コズモさんと会っていたメガネにスーツ姿のお兄さんが、《お待たせしました》と部屋に入ってきたのは、数分後のことだった。
「きみは……!」
部下の人なのか、仲間の人なのか、3人ほど知らない顔ぶれの男の人を連れているお兄さんは、私に気づくと目を見開く。
車に押しこまれてこわい会話を聞いていたときのことを思い出して、私はすこし目を泳がせながら、
「えっと……こんにちは」
「……」
メガネの奥の瞳をするどく光らせつつも、お兄さんは銀ぶちのフレームにふれてメガネを押し上げ、私たちの向かいに座る。
3人のヤクザさんたちも、お兄さんのうしろにばらけて座った。
《初めまして、私は
口調こそ ていねいだけど、中川さんの表情に にこやかさはまったくない。
私はすこし背筋を伸ばしてから、ジョットさんの横顔に視線を向けた。
(※無断転載禁止)