殺し屋×JKの恋
3,殺し屋さんについていきます
《しかし、女がこんな危険なことに……》
“女”と呼ばれて、そういえばまだ名乗ってなかったなぁ、と気づく。
あ、それに助けてもらったことへのお礼も言ってない!
《私、
《あ、あぁ……オナミ?》
《いえ、穂波……あ、“ほ”ってイタリアの方には発音しづらいですよね。うーん……そうだ、ナミって呼んでください!》
ジョットさんだけの特別な呼び名!
呼んでもらえるのが楽しみだなぁ、と思ってニコニコしていたら、ジョットさんはクイッと片方の眉を上げ、こまったように口角を下げた。
《……ナミ》
《はい!》
胸がドキドキと音を立てるのを聞きながら、前のめりになってジョットさんの顔を見つめる。
ジョットさんは両手を胸の高さに上げてたじろぐように一歩下がり、無言でしばし私と見つめ合った。
《……。あ、いや、女はこんなことに首を突っこむものじゃない。早く家に帰れ》
《あっ。待ってください!》
《私も一緒に行きます、ジョットさん!》
《ダメだ、帰れ》
ジョットさんは太陽の下に出ると、ズボンのポケットからスマホを取り出し、数回タップしたあと耳に当てる。
なんとなくの時間を知るために、空を見上げて太陽の位置を確認すると、地球を照らす
《……ジョットです。コズモは片付けましたが、例のブツは取り引きされたあとでした》
だれに電話してるんだろう……。
カリアファミリーのボスさんかな?
割りこんじゃいけないと思って、ジョットさんの背中に近づき、“絶対についていく”という意思を、キュッとYシャツのすそをつかむことで伝える。
ジョットさんはすこし振り向いて流し目で私を見たあと、パッパッと私の手を振りはらった。
《はい、
《む……私も手伝わせてください!》
《おい。……あー、コズモに捕まっていた日本の一般人です。なぜか手伝うと言い出して……》
眉根を寄せて私に注意したあと、ジョットさんは顔をそらして電話の相手に説明する。
なぜかじゃないもん!
《お役に立てるからです!》
《ナミ、すこししずかに……は、ボス!?》
ジョットさんは体の向きを変えて、耳に当てたスマホを両手で持った。
しかし通話が切れたのか、すぐにスマホを耳から離して、空をあおぐように、ひたいに手を当てる。
《ジョットさん? なんて言われたんですか?》
《……教えない》
はぁ、とため息混じりに返されて、なんだったんだろう? と首をかしげた。
ジョットさんは ひたいから手を離してスマホに視線をもどすと、トットッと画面を操作する。
人のスマホをのぞき見るなんてマナー違反だけど、チラッと見えた画面に地図が表示されていて、思わずジョットさんの腕をつかんだ。
どこかに移動するつもりなのかも! そう思って、目的地を知るためにジョットさんのスマホをのぞきこむ。
《あ、ここならわかるかも。道案内しますよ! ここがどこかがわからないけど、まぁナビを使えばたどりつけるはずです!》
《おい。……はぁ、ナビくらい俺も使える》
ジョットさんは私に背中を向けなおして、トン、と目的地までのルートを表示させた。
背のびをして、チラッと青い線がどこに伸びているか確認し、もう使われていなさそうな工場や倉庫がならぶ
《あ、ジョットさん! そっちは逆ですよ》
《……》
スマホを見ながら歩いているはずなのに、ジョットさんは止まることなく反対方向へ進んでいた。
もしかして……方向
離れてしまった背中にかけ寄ると、ジョットさんから小さな声が聞こえる。
《……たのむ》
《はい?》
《……近くまで、案内を……たのむ》
感情を押し殺したような、
《はいっ!》
****
私にホテルまでの道を聞いて、ジョットさんに“片付け”られたイタリア人さん……コズモさんが取り引きしていたのは、
あの廃工場からけっこう歩いたけど、無事バスが走っている通りまでもどり、街中に帰ってきた私たちは、ナビを見て和久津組のお屋敷にたどり着いた。
ちなみに、取り引き相手が和久津組というのも、和久津組のお屋敷の場所を突き止めたのも、イタリアにいるカリアファミリーの人たちらしい。
国外のことなのに、すごいなぁ……。
《助かった……もういい、帰れ。家族も心配しているんだろう?》
《え。いやです! お母さんにはちゃんと、さっきの電話で帰りが遅くなるって説明しておきましたから》
すっかりお母さんへ連絡するのを忘れていたけど、さっきお母さんから電話がかかってきたんだよね。
だから、ちゃんと話しておいた。
「いろいろあって好きな人ができたから、帰るのは遅くなる」って。
お母さんも〈あらそう~、19時までには帰ってくるのよ〉って笑ってたから、大丈夫!
(※無断転載禁止)