3,心の友へ、ありがとう
「友だちって言うか、クラスメイトだけど……」
“たったひとりの友だち”が頭によぎって小さく言い換えたものの、
僕はため息混じりに藤乃を部屋へ招き入れる。
僕の部屋には、勉強机のイスとベッドぐらいしか座れる場所がない。
だから、藤乃にもベッドへ座るよう
「初めまして、私は
「初めまして。僕は
とつぜん僕のプレゼンをし始めた藤乃に、杉中がにこりと笑って答えるのを見て、目をそらす。
……杉中は、友だちじゃない。
僕の友だちはたったひとり、コウタだけだから。
(ね、そうでしょ、コウタ?)
頭のなかに意識を集中させて、いつものようにコウタへ話しかける。
けれど、どれだけ待ってもコウタの返事がない。
最後にコウタと話したのは、何日前のことだっただろうか。
杉中と仲良くなるにつれて、コウタと話す機会がずいぶんと減った。
それに気づいて、意識的にコウタへ話しかけるようになってから、僕の胸には不安とあせりがうず巻いている。
――コウタの声が、聞こえなくなったから。
「……が、サイン本です」
「ありがとう。……かったんだ」
2人の会話に、意識が向かない。
どうしてコウタは返事をしてくれないんだと奥歯をかんで、さらに集中するために目をつぶった。
(コウタ。ねぇ、コウタ。聞こえてないの? おねがいだから、返事をしてよ)
頭のなかには、僕の思考しか浮かばない。
コウタのしゃべり声が浮かんでこない。
(なにか、怒らせちゃった? ごめん、ごめんね。僕はコウタと仲直りしたい。だから、返事をして)
きっとそういうことではないと、頭のどこかではわかっている。
けれど、認めたくない。
「……で、ずっとそばにいた友だちの幽霊が消えちゃうんですよね」
コウタが消えてしまったかもしれない、なんて。
「うん。もう二度と会えなくなってしまうんだけど、生きる力をもらって、晴れやかな気持ちで別れを告げるんだよね」
「……友だちが、消えて。晴れやかな気持ちになんて、なるもんか……!」
「「え?」」
心をゆさぶられて思わずこぼした言葉が、2人を振り向かせる。
「大事な友だちなんだ……たったひとりの……!」
声をしぼり出して、僕は両手で頭を抱えた。
幻のように消えてしまった友だちを追い求めて、にじみ出す
自分の内側、その奥深くへと入りこむことに必死な僕に、杉中と藤乃を気にかける よゆうは なかった。
****
僕がまたひとりぼっちになれば、あのころのように切実に求めれば。
そう考えて、学校にも行かず、部屋からも出ず、ずっとコウタへ呼びかけるようになってから、どれくらいの日数が経過したのだろう。
ぼうっとする頭では、なにもわからない。
コウタを失うくらいなら、ふつうの友だちなんていらない。
杉中と、他のクラスメイトと仲良くなりたいなんて、もう思わない。
だから。
(だから、お願いだよ。返事をしてよ、コウタ……消えたりなんてしないで。いなくならないで)
瞳からあふれ出す涙が、まくらに しみこんでいった。
杉中と話すようになって、あっさりと大事な友だちをないがしろにした僕に、コウタは
わからない。コウタが今なにを考えているのか、わからなくなってしまった。
こんな僕だから、コウタは……。
「――梓。元気を出してくれないか」
ギュッと目をつぶると、部屋の外からくぐもった声が聞こえて、心臓が大きくはねた。
「コウタ……?」
「人間、ご飯を食べないと死んでしまうぞ。俺は、梓が心配だ」
聞こえるはずがない声。
けれどたしかに、“コウタ”がしゃべっている。
僕は急いで布団のなかから出て、もつれる足で部屋の扉にかけ寄った。冷たいドアノブをにぎって、内側に扉を引く。
僕が期待したのは、どんな姿だったのだろう。
「……藤乃?」
――そこに立っていたのは、藤乃だった。
「あ……お兄ちゃん。ごめんね、よけいなことかもしれないけど……そういえば昔、おじいちゃんがこうやって しゃべってたなって……」
なにを言っているのか、理解できなかった。
けれど、一拍遅れて飲みこむ。
「コウタくん……私も、好きだった」
あれは、藤乃の声だったんだ。
胸に
たしかにコウタなら、こんな僕のことも心配してくれるんだろうな、と思えたから。
もし、今の藤乃の言葉をコウタが聞いていたなら、きっと――。
(さっきの、俺のまねか? なかなか似ていたなぁ。なぁ、梓!)
「え……コウタ?」
「え?」
藤乃がきょとんとした顔で僕を見つめる。藤乃がしゃべったんじゃない。
(どうした、梓。そんな、ぽかんとした顔をして)
……たしかに聞こえる。
コウタが、しゃべっている。僕のなかで。
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