2,心の友へ、ありがとう
「はあ……」
(おつかれ。よく がんばったな)
(ありがとう……次からは、
クラスメイトがバイトしてるんじゃ、今後この本屋には行きづらくなる。
マンガの続きが買えるのはいつになるか。
(まぁ、せっかくショッピングモールに来たんだ。気持ちを切り替えて、他の場所も見て行かないか?)
(……そうだね。そうしよっか)
僕は力なく答えて、コウタと話をしながら本屋を離れた。
コウタとまた話せたと口にしたとき、父さんと母さんは
電話でもしたのか、家にかけつけたおばあちゃんは、僕と扉を1枚へだてた向こう側で「おじいさんのせいで……」と父さんたちに あやまりたおしていて。
おじいちゃんもコウタも、決してわるい存在なんかじゃないのに、と
だから僕はそれ以来、二度とコウタの存在を口にせず、彼と日々を過ごしていることが周りの人に知られないよう、細心の注意をはらっている。
翌週の月曜日、いつもどおり予鈴の5分前に教室へ来た僕は、ゲームをして時間をつぶすために、ポケットからスマホを取り出した。
「おはよう、
「……え、あ、おは、よ……」
横からかけられた声にびっくりして、どもったあいさつを返す。
顔を向けた先にいたのは
(ほう、学校でも声をかけてくるとは。
(えぇ……
土曜日にぐうぜん会ったからって、教室でも話しかけてくるとは、僕も思ってなかったけど。
「広田くんって、いつもスマホで何してるの?」
「え……ゲーム、だけど」
「へぇ、そんなにおもしろいの? よかったら僕にも教えてくれない? なんていうアプリ?」
杉中は友だちに向けるような笑顔を浮かべて、ズボンのポケットからスマホを取り出す。
ぎょっと目を
どうして杉中が僕に話しかけてくるのかわからない。
「ごめん……あの、ただのまちがい探し……」
「まちがい探し? 僕も好きだよ。広田くんって頭を使うゲームが好きなの?」
「う……ん」
こういうのなら、コウタともあそべるから、とは言えないし。
言葉をにごすと、杉中は僕にスマホの画面を見せてくる。
「このアプリは知ってる? 電車を待ってるときとか、僕、よくやってるんだけど」
「や……知らない」
「じゃあ ためしにやってみる? かんたんに言えば、一筆書きってやつなんだけど」
杉中はスマホを引っこめてから、もう一度僕に見せてきた。
ステージ1と書かれた画面を見て、ためらいながらスマホを受け取る。
「2つの星をつなぐんだ。このボックスのなかを全部埋めるように」
「ん……」
説明を聞いて、チュートリアルステージと思わしき かんたんな問題を解いた。
横から“次のステージへ”というボタンを押す杉中によって、僕は次々と問題を解くことになる。
「広田くんって頭いいね。僕、このステージから詰まるようになったんだ」
「そう、なんだ……」
口下手な返答でも気にすることなく、杉中はよくしゃべった。
おかげで、気づいたら予鈴が鳴っていて。
「あ、そういえば けっきょく、まちがい探しアプリの名前聞いてなかったね。あとで教えてくれる?」
「あぁ、うん……」
また話す約束をして、自分の席にもどる杉中を見送ってから、すこし心が
クラスメイトとこんなに話しこんだのは何年ぶりだろう。
それも、授業とか、委員会の仕事とか、必要にせまられた会話じゃない。
ただの雑談。楽しむためだけの、意味のないもの。
そんな会話を、コウタや家族以外の人としたのは、ひさしぶりだった。
****
杉中と話すようになって、2週間ほどが経った。
僕は学校で声を出す機会が増えて、帰りに杉中とおなじ電車に乗ったり、今までより5分くらい早く登校するようになったりと、日常に変化が出ている。
学校に行くのが楽しくなった。それは、一見いいことに思えるかもしれない。
でも、今の僕には なやんでいることがあって……。
「梓? 大丈夫?」
「……え? あ、あぁ、ごめん、ちょっとぼーっとしてた……」
いつかのタイミングで、“呼び捨てでいいよ”と言ったら名前で呼んでくるようになった杉中が、僕の顔をのぞきこんでくる。
前よりずいぶんとまともな返答ができるようになった僕は、目の前に現れた顔にびっくりしつつ、自分の部屋のなかに意識を戻した。
今日は、バイトが休みだと言う杉中を家に連れて来ている。
その目的は、藤乃が持っているサイン本を杉中に見せること。
本屋でバイトをしているのも、本好きが
「お兄ちゃん、持ってきたよ」
部屋の扉がコンコンとノックされたのを聞いて、イス代わりにしていたベッドから立ち上がる。
扉を開けに行くと、部活から帰ってきたばかりの藤乃が、青い表紙の本を持って
「ありがとう」
「ううん。……ね、お兄ちゃん、私もお兄ちゃんの友だちと話していい……っ!?」
茶色いフレームのウェリトンメガネをかけた藤乃は、声をひそめながら僕を見つめる。
ボブヘアにかこまれた瞳はらんらんと輝いていた。
僕がクラスメイトを家に連れて来ることなんてなかったから、父さんや母さんのように僕を心配していた藤乃は、この状況がうれしいのかもしれない。
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