禁断の想いを、演技に隠して。

6,葛藤(かっとう)、そして

約2,000字(読了まで約6分)



「それくらいのこと、分かってます……それでもがまんできないくらい、祐介(ゆうすけ)先生のことが好きなんです――!」


 それなのに。
 いつから俺は、彼女の気持ちに(こた)えてあげたいと、これ以上悲しい顔をさせたくないと思ってしまうようになったんだ?


「――生徒に対して、こんな気持ちになってはいけないのに……」


 ためらい、自責。
 “彼女”のことを深く知って、いつのまにか彼女を愛してしまった“祐介先生”がこぼした言葉に、俺の気持ちがリンクする。


「どんな気持ち、ですか?」

「ふ、藤田(ふじた)さん……!?」

「もしかして、祐介先生も、私のこと……」

「っ、いえ、違います!」


 切なく期待するまなざしを見て、強く否定しすぎてしまったことで、藤田さんがショックを受けた顔になった。
 とたんに、傷つけてしまったという後悔(こうかい)が心をおそう。


「いや、違う……ごめん、“こたえ”られないんだ。俺……僕は、藤田さんよりも年上で、教師だから。応えてしまったら、すべてが終わる」

「どれだけ年の差があったって、先生と生徒だからって、私の気持ちはなくならないんです! 恋愛って、理屈じゃないでしょう?」

「藤田さん……僕はきみを傷つけたくない。その気持ちに応えてあげたい。これが今の本音だよ。だけど、それは許されないことなんだ」


 演技だったはずの言葉が、俺の本音に変わる。
 演劇(えんげき)という幕に包んで、本当の気持ちを明かしてしまっている。
 歯がゆい気持ちを、ぐっと心の奥に押しこむと、藤田さんが初めて抱きついてきて、心臓が止まった。


「祐介先生、好きです……! 祐介先生からも、おなじ言葉が聞きたい。許されないなら、ぜったいに隠し通します。だから……」


 顔を上げた藤田さんが、切なく、熱く、見つめてくる。
 赤い唇が開いて、「2人のときだけは、本当の気持ちを聞かせて」と()がれる気持ちをしぼり出したような声で懇願(こんがん)された。
 頭のどこかで、グラリとかたむいて落ちたものは、きっと手放してはいけないものだった。
 それを自覚しながら、藤田さんを抱きしめ返して、許されない本音をこぼす。


「藤田さんが、好きだ。俺はきみを愛してしまった」


 演技をしている今なら、隠せると思った。
 ドッドッと早い鼓動(こどう)が体に伝わる。
 藤田さんは大きく開いた瞳をうるませて、熱くとろけた視線を俺に向けた。
 一途な気持ちに応えたら、藤田さんはそんな顔をするのかと、顔が緩む。

 愛おしく思う気持ちが止められない。
 でも、“2人のときだけは”それでもいいんだと、開き直る気持ちが生まれた。


「祐介先生……私と、付き合ってもらえませんか? みんなに秘密で、ぜったいにバレないよう、隠し通します」

「……ふつうのデートも、できないよ。恋人らしくできる時間だって、ほんのわずかだ。それでもいいの?」

「はい……! 祐介先生と、両想いのままいられるなら」


 藤田さんの笑顔が、今までで一番かわいくて、この結末が“間違い”なんてことはないんだと、自信が持てる。


「それじゃあ、僕と付き合ってください。藤田さん」

「よろこんで……! ――祐介さん。好きです」

「僕も、好きだよ」


 熱い想いを宿した瞳に見つめられて、俺もほほえみながら藤田さんを見つめ返した。
 愛してしまったものは、しかたない。
 周りには気づかれないように、彼女を大切にしよう。

 何度もくり返した演劇を通して、俺の気持ちはそんなふうに着地した。


****
Side:藤田愛(ふじたあい)

 台本読(ほんよ)みをした回数は、数えきれないほど。
 それでも、頭のなかに、そして胸のなかに、強烈に残っている“1回”がある。
 そのとき、佐々木先生の演技はずば抜けてリアルで、私は思わず抱きついてしまった。
 私の背中に回った腕の力が、佐々木先生の熱い声が、愛しいものを見つめるようなやさしいまなざしが、本当に両想いになれたと錯覚(さっかく)させた。

 佐々木先生を見るたび、ドキドキする気持ちがやまない。
 “僕”と“俺”の違いが気になってしょうがなくて、“練習”以上に、台本読みをねだった。


「すみません、遅くなりました」

「あぁ、佐々木先生。いえ、それじゃあお時間を取らせるのもわるいので、さっそく始めてもらえますか。説明はしてあるので」

「はい」


 職員室で事件があったあの日から、ちょうど1週間後の今日。
 いよいよ演劇部みんなの前で台本読みをすることになって、緊張(きんちょう)が体を支配する。
 劇部の集合からすこし遅れて部室に入ってきた佐々木先生は、私の向かいに移動すると、こっちを見てやさしくほほえんだ。



「藤田さん、リラックスしてください。肩の力を抜いてやりましょう」

「は、はい……っ!」


 大好きな佐々木先生に言われたら、がんばってリラックスするしかない。

 でも、これ、公開告白みたいなものだし~……っ!
 顔に熱が集まるのを感じながら、床に座っている劇部のみんなと、小林先生を見る。
 いつでもいいぞ、と言わんばかりに小林先生からうなずき返されたのもあって、私は深呼吸をしてからいつものセリフを口にした。


ありがとうございます💕

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