禁断の想いを、演技に隠して。
4,役に飲まれる
「――
ただのセリフが、俺自身に向けられた言葉に思えてしまって、思わず罪悪感を抱いてしまった。
“彼女”が本気で好意を寄せてくれているのに、俺はそれに
と、そこまで考えたところでハッとした。
違う、これはあくまでも
演技に戻ろうと、台本に目を向けた。
ぐうぜんにも、“祐介先生”もこの彼女の言葉に罪悪感を抱き、ここでいつもよりやさしい言葉をかける。
「……苦しい思いをさせてすみません。僕はかなり年上で、教師という立場なのに……好きになってくれてありがとう。藤田さんの気持ちはうれしいよ」
藤田さんに“本当の先生だったらどう答えるか”と聞かれて、なまじ、もし俺が彼ならと考えてセリフを修正したのがよくなかった。
“祐介先生”の心情の変化が、俺を引きずりこむ。
なにがあっても、教師が生徒に気を許しすぎてはいけない。
それはぜったいの
****
Side:
それでも私は、“まだ自信がない”とわがままを言って、佐々木先生に台本読みをしてもらっている。
だって、最近の佐々木先生は、演技にみがきがかかっているから。
特に、“とまどい”がリアルなほどに表現されていて、本当に佐々木先生と
告白は、一番最初にことわられた。
それでも、何度も台本読みをするうち、あきらめられない気持ちがふくらんできて、本当に佐々木先生と両想いになりたいと願ってしまっている。
「佐々木先生~」
今日も昼休みにノートを持って職員室へ訪れると、そこのようすはいつもと違っていた。
佐々木先生はデスクの前に立っていて、こまったような顔で目の前に立っている先生と話している。
「いえ、あれは演劇の練習で……あぁ、藤田さん! よかった、ちょっと台本を貸してもらってもいいですか?」
「へ?」
パチクリと、目を丸くしてまばたきすると、きびしい顔をした数学担当の先生が振り返って「台本?」といぶかしげに言った。
な、なにこの状況……。
周りの先生の視線もあって、肩をすくめながらそぉっと職員室に入った私は、佐々木先生に近寄ってノートを渡す。
「あの、佐々木先生、これは一体……?」
「通りすがりに台本読みを聞いた先生に問い詰められていまして……この台本、他の先生に見せてもいいですか?」
「えっ……! は、はい……」
小声で聞くと、おどろきの回答が返ってきて、いやだぁ~っと思いながらうなずいた。
やさしかった佐々木先生はともかく、他の先生にこの台本を見られたら、なんて言われるか。
生徒と先生の恋、それも主人公たちの名前には私と佐々木先生の名前が一部入っている。
そんなの見られたら、ぜぇ~ったいいやな顔をされること確定でしょ!?
それでも、佐々木先生があらぬうたがいをかけられているなら、守らなきゃいけないから。
佐々木先生は「ありがとう」とホッとしたようにささやいて、私のノートを開いた。
「彼女が演劇の台本を書いたと言うので、国語の観点から助言したり、実際にセリフを読み上げる台本読みという練習に付き合っていたんです」
「ん……? 確かに、台本のようですが……名前がおなじなのは?」
「それはぐうぜんです! ひびきで決めました! あっ、私の苗字も気に入ってるので!」
「……そうか」
数学の先生は眉をひそめながらも、私を見て納得の声を出す。
まさか台本読みをお願いしたことで、こんなことになるなんて……。
「藤田が台本を? それはおどろいた。どれ、先生にも見せてみろ」
「あっ、
演劇部
小林先生に見られるのはまた違ったはずかしさがある!
佐々木先生に付き合ってもらって満足がいく台本にはなったけど……っ!
「ほう……まだまだ粗いところはあるが、初めてにしてはなかなかよく書けてるな。すごいじゃないか、藤田」
「えっ、本当ですか!? やったー!」
「あつかってる題材が題材なだけに、学校では認めづらいが。台本読みをしてるなら、部活で見せてみろ」
「え゛っ!? これをですか!?」
「台本は演じることで意味を持つんだ。せっかく書いたなら、台本読みだけでもみんなの前でやってみろ。佐々木先生も一緒に」
「え、お、俺もですか……!?」
にやりと笑う小林先生に視線を向けられて、佐々木先生は引きつった顔をする。
レアな一人称! 佐々木先生、本当は“俺”って言うんだ!?
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