禁断の想いを、演技に隠して。
3,想像とは違う台本読 み
“
それが次のセリフだった。
セリフとまったく違うその返答が、口をついて出た先生の“本音”だと分かってしまって、胸がズキッと痛む。
「……先生、セリフ、違います……」
「え……あ、すみません!」
うつむいて小さく訂正すると、
「藤田さんの演技があまりにも
だって、本当に告白したつもりだったから。
泣きたい気持ちをこらえて、もう一度“セリフ”を口にする。
「……“
「藤田さん……でも、僕たちは生徒と教師です。付き合うことはできません」
台本通りに返ってきた言葉が、
“期待しないで”って言ってたけど、佐々木先生の台本読み、すごく自然だなぁ……。
さっきの本音を聞いていなければ、本当にこんな会話をしてる気分になってたかも。
そう思いながら、“先生”と付き合うために一歩を踏み出す、次のセリフを口にした。
「“それくらいのこと、分かってます。それでもがまんできないくらい、祐介先生のことが好きなんです。だから、私のことを見てください――”」
ただの
そのはずなのに……。
私は最初のように本気の気持ちをこめることなく、すこしゆううつな気分で台本読みをおこなった。
「“――祐介さん。好きです”」
「僕も好きだよ」
よどみのない会話の連続を経て、最後のセリフが落とされる。
うれしかったはずの時間も終わる。
「……ところどころ漢字や言葉の意味を間違えていますが、いい台本だと思いますよ」
「ありがとうございます……佐々木先生から見て、不自然なところはありませんでしたか?」
「うーん……そうですね、たとえばこことか――」
せめて、本当の佐々木先生だったらどんな言葉を返すのか、それを知りたくて質問した。
その結果、佐々木先生は私の台本づくりに付き合ってくれることになって。
私の恋は
****
Side:
役者になる夢をあきらめたのは、高校3年生のころ。
数字に変えてみれば、俺が演劇に熱中していた時間は、ほんのわずかでしかない。
「祐介先生、ずっと好きでした……付き合ってください」
俺を見つめて、何度目かの“セリフ”を口にする藤田さんは、本当に告白されていると
ほんのり赤くそまったほおも、切なくゆれる瞳も、かんたんに作れるものではない。
彼女には、俺が欲しかった“才能”があるんだと、生徒相手なのにうらやましく思った。
「藤田さん……でも、僕たちは生徒と教師です。付き合うことはできません」
何度もくり返し口にして、自然と出てくるようになった声の温度は、きっと藤田さんに引っぱり出されたもの。
相手を劇の世界に連れこむ力があるのに、勉強が苦手で、台本づくりに苦戦しているようすはかわいらしく、彼女の面倒を見ているここ数日が楽しい。
学生時代から、ものを教えるのが上手だとか、先生に向いてるとか、よく言われてきた。
役者になる夢をあきらめたあと、教育大学へ進んだのは、それが理由だ。
周りにくらべて熱意は少なかった。それでも今、こうして生徒を持つ楽しさを味わうと、この道に進んでよかったと思う。
「――祐介先生ってほんと、真面目ですね。お……お……」
藤田さんは俺が持たせてもらっている台本をのぞきこんで、ぐぐぐっと眉根を寄せた。
それから勢いよく顔を上げて、泣きそうな顔で俺を見つめる。
「先生ぇ……これなんて読むんでしたっけ……?」
「ふふっ、“おかたくて”ですよ」
「あーっ! そうだった!!」
高校2年生としては心配になるものの、教えがいのある生徒は愛らしく思えるのが教師というもの。
パァッと明るくなる顔も、
彼女の台本づくり、そして台本読みに付き合うようになってから、より“
「私、祐介先生の教え方、先生のなかで一番好きです。やさしくて、ぜんぜん怒らないから」
「え……」
本当にうれしそうな笑顔で言ってくれた言葉が、“アドリブ”なのか、本音なのかつかみかねて、
今まで別の存在と割り切っていたのに、彼女がぐうぜん“祐介”と名付けた教師役の男が、急に自分と重なったように感じる。
「あ、佐々木先生! 佐々木先生でした!」
「あ、あぁ……いえ、僕も“祐介”ですから。ありがとうございます。そう言ってもらえると、僕もうれしいです」
藤田さんに笑いかけながら、自分を落ちつかせようと努力した。
生徒に好かれる教師になれていることはうれしい。
それが特によく面倒を見ている生徒なら、ついやした熱量が返ってきたようで、教師みょうりにつきるくらいだ。
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