禁断の想いを、演技に隠して。
2,佐々木 先生と演劇
「“藤”は
「えっ!? い、いやぁ……っ! なんとなく!?」
っていうかヒロインは名前を、ヒーローは苗字を変えたとは言え、私と佐々木先生の話を書いたってバレないかな!?
「なんとなく、ですか……ちなみに、僕の名前もこれとおなじ“祐介”なので、ぜひ“佐々木”も覚えてください。先生がうれしくなります」
ノートを返しながらにっこりと笑いかけられて、私はとっさに「はいっ!」と全力で答えた。
本当は“佐々木”だって、ちゃんと書けるのだけど。
受け取ったノートを胸に抱えると、佐々木先生はそのまま立ち去らず、私に話しかけてくる。
「藤田さんは
「あっ、い、いえ! あの、今年の文化祭でやる劇の台本が、あんまり私好みじゃなくて……それだったらこういうのをやりたいな、って」
正直にしゃべってから、つまり“先生”が好きだってバレる!?と気づいてサァッと青ざめた。
でも、佐々木先生は台本の内容に触れることなくほほえむ。
「それはとても素敵なきっかけですね。演じることも楽しいですが、書いてみようと思えるなら、ぜひ今後も台本を書いてみてください」
「は、はい……っ! ……って、佐々木先生ももしかして、演劇をやってたことがあるんですか?」
佐々木先生にそう言われたら……!と思って聞き流しそうになったけど、“演じることも楽しい”って言い方、実際にやってた人じゃないとしないよね?
首をかしげて尋ねると、佐々木先生はほんのすこし目を大きく開いて、視線をそらした。
「え、えぇ……学生のころにすこし。台本、がんばってください。授業には遅れないよう、早めに教室へ戻るんですよ」
「あ、待ってください!」
急に話を切り上げて横を向いた佐々木先生のスーツを、思わずつかむ。
くっ、とそでが引っぱられたからか、佐々木先生は足を止めて振り向いてくれた。
レンズの奥の瞳を見つめて、私はせいいっぱいの勇気を振りしぼる。
「あ、あの……っ! よかったら
「え……?」
ポカン、と丸くなった切れ長の瞳は、レアかもしれない。
私は顔に熱が集まるのを感じながら、うつむいてぼそぼそと続けた。
「じ、実際に声に出したら、直したいとこ見つかるかもしれないし……劇部の人に付き合ってもらうのは、はずかしいし……」
「……」
「せ、先生、“ぐうぜん”おなじ名前だから……こんな台本だし、いやかもしれないけど……っ」
佐々木先生、内容についてなにも言わなかったから。
もしかしたら受け入れてもらえるかもって。
台本読みするだけでも、ぜったい“いい思い出”にできる。
ただ
「……演劇は、自由なものです。どんな演目であれ、
「だ、だったら、お願いしますっ!」
佐々木先生の返答に勇気をもらって、顔を上げた。
一時の夢でもいい、先生との思い出が欲しい。
そう思ってレンズの奥を見つめると、佐々木先生はこまったように眉を下げて、視線をそらす。
「……分かりました。ですが僕はすこしやっていただけですから、期待はしないでくださいね」
「はいっ! 佐々木先生っ、ありがとうございます!」
やったぁ!
心のなかで大喜びして、私は、ぎゅうっと台本を抱きしめた。
まさかこんな展開になるなんて! 台本、書いてみてよかった!
「藤田さん、昼食は済みましたか? ここでやるのもなんですから、国語準備室へ来てください」
「あ、はい! 食べ終えました!」
台本を読み返しながら食べたお弁当はすでにからっぽになっている。
私は佐々木先生のさそいに乗って、
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この台本は、私がノートに書いたものだから、とうぜんのようにこの世で1つしかない。
そこで、私は台本を持った佐々木先生と肩をならべて台本読みをすることになった。
決して広くはない無人の国語準備室に、佐々木先生と2人きり。ドキドキしないわけがない……。
私はこっそり深呼吸をして、台本を確認した。
最初は私が佐々木先生に告白するシーンから。
自分が書いたセリフだけど、一言一句間違えないように覚えて、となりに立つ先生の顔を見ながら、演技のフリをした“告白”をする。
「ゆ、祐介、先生……ずっと、好きでした。付き合ってください……!」
ドッ、ドッとうるさいくらいの
私の目を見て第一声を聞いていた佐々木先生は、レンズの奥で瞳をゆらして薄い唇を開く。
「すみません。僕は教師なので、その気持ちには
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