禁断の想いを、演技に隠して。
1,初めて書いた台本は
おもしろくない。
いや、きっとおもしろくはあるんだろうけど、私にはそのよさが
数ヶ月先の文化祭で演じるという
「うーん、ここのセリフはやっぱり“
昼休み、お弁当を片手に校舎裏へやってきた私は、校舎に背中をあずけて、自作の台本に取り消し線を引いた。
にぎりこんだシャーペンを走らせて、好きな人の名前を書きこむと、我ながらキュンとする内容になって「きゃ~っ」と1人もだえる。
“祐介さん”……いいひびき。
「おーい、
「窓から見えてびっくりした~。校舎裏で1人さみしくお昼?」
「わっ! び、びっくりした!」
うっとりしていた私の頭上で窓が開く音がして、演劇部の仲間である女子2人の声が降ってきた。
あわててうしろを振りあおぐと、ショートヘアとロングヘアという対照的な容姿をした2人が口元に笑みを浮かべながら私を見下ろしている。
やばっ、と思って両腕でおおい隠したノートは、すでに2人の視界に収まっていたよう。
「あれ? なにそのノート」
「昼休みまで勉強? なんて、
「えっ、いや、そうそう! 勉強! 勉強だよ勉強! さすがにやばくなってきてさ~?」
極限までほおの筋肉をつり上げて笑うと、窓から伸びてきた手がたくみに私のノートを引っぱり出した。
「あ゛ーっ!」と野太い声がのどから出てきてしまい、乙女としての
「なになに……って、これ、もしかして台本?」
「え~っ、愛が書いたの!? 現国苦手なのに!?」
「わーっ、やめてやめて見ないで! ちょっとしたあそび?っていうか!? あの台本あんまり私好みじゃなくてつい!」
私にはなんとしても台本を取り返さなければいけない理由があった。
体育座りをやめて、ノートを救出しようと必死に手を伸ばすと、ひょいひょいと
「“祐介先生、ずっと好きでした。付き合ってください”。“藤田さん……でも、僕たちは生徒と教師です”」
「へぇ~、生徒と先生の禁断の恋? 愛、そういうのが好きなんだ~」
「あははっ、誤字ひっど! 漢字間違えまくりじゃん! 藤田、ここ“生従”になってるし、その次も“教土”だよ! しっかりしろって高2!」
「や……やめてぇーっ!」
あまりのはずかしさに顔から火が出そう。
もしこの台本が、私の
焦る心に追い打ちをかけるように、「そこでなにをしているんですか」と今一番聞きたくない男性の声が聞こえてきた。
「あ……
「愛ね、現国苦手なのに劇の台本書いてたんだって~」
「ぎゃーっ! だめだめだめ! 絶対佐々木先生には見せないでーっ!」
ななめに流した長めの前髪が銀縁のメガネにかかっていて、切れ長の瞳がセクシーに見える。
劇部の2人がそんな佐々木先生の瞳に私の台本を見せつけてしまって、心臓がバックンバックンと絶望の音色をかなでた。
秋に入り始めているというのに、つうっと背中に冷や汗が伝う。
「……人の努力を笑う者は、明るい人生を歩めませんよ」
「え……」
「いや、笑ってたわけじゃなくて……」
佐々木先生は目の前に突き出されたノートをつまみとって、2人を冷たいまなざしで見た。
私のノートを閉じるその動作のなかで、なにを思っているのか。
知りたいし、知りたくない。
でも……私の台本を映したはずのその目で、劇部の2人を注意して、私をかばってくれたことに、胸の奥がキュンと高鳴った。
「もう昼食は済ませたのですか。昼休みも有限です、教室へ戻るなり、どこかへ行くなり、好きなことをしてください」
「はい……」
「……行こ」
劇部の2人が水を差されたようすで歩き出す姿を目で追いながら、バクッ、バクッ、とさわぐ
どうしよう。
佐々木先生と2人なんて……!
「藤田さん」
「はいっ!」
「その手に持っているシャーペンを貸してください」
「は、はい!」
あの2人が開けた窓に近づいてきた佐々木先生へ、あわてて持ったままだったシャーペンを差し出した。
佐々木先生は線が細いのに骨ばった指でシャーペンを受け取ったあと、私のノートを開いてペン先を走らせる。
「は、え、あのっ!?」
「間違って書いている漢字がたくさんあります。正しい漢字を書いておくので、この機会に覚えてくださいね」
先ほど見せた冷たいまなざしとは打って変わったやさしいほほえみに、かぁぁっと首から熱がせり上がってきた。
これぞ、佐々木先生。やさしい授業が、現在担当している2年生に人気で、よく先生に怒られる私でも思わず好きになった人。
……恋愛の意味で、だけど。
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