裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

7,踏(ふ)み出(だ)す勇気(ゆうき)

約(やく)2,100字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)6分(ぷん))


 永亜(とあ)がバックヤードへ駆(か)けこんできたのは、乃花(のか)たちがペットボトルのジュースを半分(はんぶん)ほど飲(の)んだころだった。
 ドンッと扉(とびら)へ体当(たいあ)たりするようにバックヤードへ入(はい)り、すぐに背中(せなか)で銀色(ぎんいろ)の扉(とびら)を閉(し)めた永亜(とあ)は、「はぁっ、はぁっ」と呼吸(こきゅう)を荒(あら)げる。


「せ、瀬戸川(せとがわ)くん!? 大丈夫(だいじょうぶ)!?」

「永亜(とあ)くん!」


 乃花(のか)たちはあわてて立(た)ち上(あ)がって、永亜(とあ)のもとに駆(か)け寄(よ)った。
(ど、どうしたんだろうっ、ピカピカうさぎに追(お)いかけられたのかな……っ!?)
 永亜(とあ)は答(こた)える代(か)わりに片手(かたて)を上(あ)げて、先(さき)に息(いき)を整(ととの)える。


「はぁ……大丈夫(だいじょうぶ)だ。帰(かえ)り道(みち)を見(み)つけた」

「えっ!?」

「帰(かえ)り道(みち)……もしかして、入(い)り口(ぐち)が?」

「そうだ。入(い)り口(ぐち)の外(そと)が、現実(げんじつ)のスーパーにつながってた。あそこから出(で)れば、元(もと)の世界(せかい)に帰(かえ)れる」

「……るーちゃんたち、帰(かえ)れるの?」


(帰(かえ)れる? 元(もと)の世界(せかい)に?)
 乃花(のか)は目(め)を丸(まる)くして、胸(むね)を押(お)さえた。


「そうだよ、來璃(らる)。僕(ぼく)たち、家(いえ)に帰(かえ)れるんだ。……永亜(とあ)くん、ありがとう。危(あぶ)ないのに、1人(ひとり)で見(み)に行(い)ってきてくれて」

「俺(おれ)がやりたいことをやっただけだ。……あいつが俺(おれ)を追(お)ってきたかもしれないから、少(すこ)し待(ま)ってから入(い)り口(ぐち)に行(い)こう」

「分(わ)かった」


 男子2人(だんしふたり)の会話(かいわ)を聞(き)きながら、乃花(のか)は視線(しせん)を落(お)とす。
(本当(ほんとう)に、帰(かえ)れるんだ……! よかった、よかったぁ……っ!)
 乃花(のか)はギュッと目(め)をつぶって、泣(な)きそうになるのをこらえた。
 そんな乃花(のか)の手(て)を、來璃(らる)がキュッとにぎる。


「お姉(ねえ)ちゃん」

「來璃(らる)ちゃん……私(わたし)たち、帰(かえ)れるんだって。よかったね……!」


 乃花(のか)がかがんで、來璃(らる)と目線(めせん)を合(あ)わせながら笑(わら)うと、來璃(らる)は「うん」とほほえんだ。

 乃花(のか)たちが残(のこ)ったジュースを、永亜(とあ)が新(あたら)しく取(と)り出(だ)したスポーツドリンクを飲(の)んで時間(じかん)を置(お)いたあと……4人(にん)は扉(とびら)の外(そと)の様子(ようす)をうかがった。


「大丈夫(だいじょうぶ)、あの着(き)ぐるみはいないよ」

「それじゃ、行(い)くか」

「う、うん……」

「來璃(らる)、おいで。おんぶしてあげる」

「……うん」

「乃花(のか)ちゃん、この懐中電灯持(かいちゅうでんとうも)っててくれるかな? 僕(ぼく)は手(て)がふさがっちゃうから」

「あ、はい……っ」


 那成(ななる)がしゃがんで、その背中(せなか)に抱(だ)きついた來璃(らる)を持(も)ち上(あ)げる間(あいだ)、乃花(のか)は胸(むね)の前(まえ)で、渡(わた)された懐中電灯(かいちゅうでんとう)をにぎりしめた。
(帰(かえ)れる……でも、この外(そと)って、ピカピカうさぎがいるんだよね……? 安全(あんぜん)なのは、ここだけ……)
 乃花(のか)はゴクリとつばを飲(の)んで、少(すこ)しだけ開(ひら)かれた銀色(ぎんいろ)の扉(とびら)を見(み)る。
 永亜(とあ)が持(も)つ懐中電灯(かいちゅうでんとう)に照(て)らされた先(さき)には、倒(たお)れた人形(にんぎょう)の姿(すがた)が見(み)えた。

(人形(にんぎょう)……ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、私(わたし)も蕗咲(ろさ)ちゃんみたいに……)


「行(い)くぞ」


 永亜(とあ)は扉(とびら)を大(おお)きく開(あ)けて、最初(さいしょ)にバックヤードの外(そと)へ出(で)る。
 その次(つぎ)に、來璃(らる)をおんぶした那成(ななる)が出(で)ていき、乃花(のか)もバックヤードを出(で)ようとした。

 しかし。


「あ、あれ……?」

「乃花(のか)ちゃん?」


 乃花(のか)はバックヤードの外(そと)に踏(ふ)み出(だ)せず、眉(まゆ)を下(さ)げた。
(足(あし)が動(うご)かない……!? な、なんで……っ)
 いくら足(あし)を見(み)つめても、乃花(のか)の足(あし)はふるえるばかりで、前(まえ)に動(うご)こうとしない。
 振(ふ)り返(かえ)った永亜(とあ)は、乃花(のか)の様子(ようす)を見(み)ると、乃花(のか)の前(まえ)に手(て)を差(さ)し出(だ)した。


「土谷(つちや)。怖(こわ)くても、今(いま)は勇気(ゆうき)を出(だ)すときだ。そこから出(で)なきゃ、いつまで経(た)っても元(もと)の世界(せかい)に帰(かえ)れないぞ」

「せ、瀬戸川(せとがわ)、くん……」

「乃花(のか)ちゃん……大丈夫(だいじょうぶ)だよ。みんな、一緒(いっしょ)にいる。1人(にん)を置(お)いて行(い)ったりしないから」

「那成(ななる)さん……」

「お姉(ねえ)ちゃん……いっしょに、帰(かえ)ろ?」

「來璃(らる)ちゃん……う、ん」


 乃花(のか)は小(ちい)さくうなずいて、永亜(とあ)の手(て)をにぎる。
 そして、ギュッと目(め)をつぶりながら、手(て)を引(ひ)かれるままに一歩(ぽ)、足(あし)を前(まえ)に出(だ)した。
(帰(かえ)る……元(もと)の世界(せかい)に、帰(かえ)るんだ……っ!)
 決意(けつい)を胸(むね)に秘(ひ)めた乃花(のか)は、永亜(とあ)の手(て)が離(はな)れていくと、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を両手(りょうて)でにぎりこんで前(まえ)を見(み)る。


「こっちだ」


 永亜(とあ)が先導(せんどう)し、來璃(らる)と那成(ななる)が真(ま)ん中(なか)、乃花(のか)が最後(さいご)についていく形(かたち)で、4人(にん)は懐中電灯(かいちゅうでんとう)に照(て)らされた店内(てんない)を歩(ある)いていった。
 床(ゆか)に転(ころ)がる人形(にんぎょう)をよけながら、1つ目(め)の商品(しょうひん)だなの間(あいだ)を通(とお)り抜(ぬ)けようとしたとき、ピカピカうさぎが4人(にん)の前(まえ)を左(ひだり)に横切(よこぎ)っていく。


「「!!」」


 乃花(のか)はとっさに両手(りょうて)で口(くち)を押(お)さえて、悲鳴(ひめい)がもれないようにした。
 バクッバクッと大(おお)きな音(おと)を立(た)てる心臓(しんぞう)に緊張(きんちょう)して、冷(ひ)や汗(あせ)が背中(せなか)を伝(つた)う。
 ピタリと固(かた)まった4人(にん)の前(まえ)を、ピカピカうさぎは素通(すどお)りして、入(はい)り口(くち)があるほうへ向(む)かっていった。

 永亜(とあ)は静(しず)かに息(いき)を吐(は)きながら、那成(ななる)たちのほうを振(ふ)り返(かえ)って、目(め)の前(まえ)の通路(つうろ)を指(ゆび)さす。
 首(くび)をかしげた永亜(とあ)の様子(ようす)から、“このまま進(すす)むか?”と質問(しつもん)する意図(いと)を感(かん)じ取(と)った那成(ななる)は、視線(しせん)を落(お)としてから、ひとつ左(ひだり)の通路(つうろ)を指(ゆび)さした。
(えっ……ピカピカうさぎが行(い)ったほうに近(ちか)づくの……!?)
 乃花(のか)は思(おも)わず眉(まゆ)と口(くち)のはしを下(さ)げてしまうが、永亜(とあ)はうなずいて、迷(まよ)いなくひとつ左(ひだり)の商品(しょうひん)だなの間(あいだ)に入(はい)っていく。

 腰(こし)が引(ひ)けている乃花(のか)は那成(ななる)たちより数歩分遅(すうほぶんおく)れながらも、足音(あしおと)を立(た)てないように歩(ある)いていった。
 しかし、その通路(つうろ)の先(さき)を見(み)てみると、那成(ななる)がピカピカうさぎにわざわざ近(ちか)づく道(みち)を選(えら)んだ理由(りゆう)が分(わ)かる。
 商品(しょうひん)だなから出(だ)したと思(おも)われるお米(こめ)の袋(ふくろ)が、通路(つうろ)の先(さき)に積(つ)み上(あ)げられていて、小(ちい)さな壁(かべ)のようになっていたのだ。

 乃花(のか)たちはお米(こめ)の壁(かべ)に隠(かく)れるようにしゃがみこんで、子(こ)どもが1人(にん)通(とお)れるくらいのすきまから、ピカピカうさぎの動向(どうこう)をうかがった。


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