(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

6,(かえ)(みち)

(やく)2,100()()()わるまで(やく)(ぷん)


 バックヤードを()永亜(とあ)は、懐中電灯(かいちゅうでんとう)をあたりに()けて、ゴクリとつばを()んだ。
 一直線(いっちょくせん)()びるライトに()らされた店内(てんない)には、パッと()るだけでも人形(にんぎょう)が5、6体転(たいころ)がっている。
(あれが全部(ぜんぶ)、もともと()きてる人間(にんげん)だったって言うのか……)
 永亜(とあ)眉根(まゆね)()せると、()(まえ)にある商品(しょうひん)だなの(おく)にピカピカうさぎがいないことを確認(かくにん)してから(ある)()した。

 (ゆか)(すわ)りこんだり、(たお)れたりしている人形(にんぎょう)()らないように()をつけながら、永亜(とあ)乾麺(かんめん)がならぶ商品(しょうひん)だなの(あいだ)(しず)かに(すす)んでいく。
 たながとぎれる場所(ばしょ)まで()ると、永亜(とあ)一度懐中電灯(いちどかいちゅうでんとう)のスイッチをオフにして、商品(しょうひん)だなに背中(せなか)をつけながら、(すこ)しだけ(かお)()した。
 (ひだり)に、ピカピカうさぎの姿(すがた)はない。
 (みぎ)は……と(かお)(うご)かすと、(よこ)にならぶ商品(しょうひん)だなの3つ(おく)に、ぼんやりとした()かりが()えた。

 永亜(とあ)(いき)(ころ)して()つと、その()かりはだんだんと(あか)るさを()していって、()口側(ぐちがわ)商品(しょうひん)だなの()こうからピカピカうさぎが(あらわ)れる。
 ピカピカうさぎは永亜(とあ)()づく様子(ようす)もなく、そのまままっすぐ、お(みせ)(おく)へと(ある)いていった。
(よし、これであいつの位置(いち)()かったな。(いま)のうちに、()(ぐち)(ちか)づくか)

 永亜(とあ)懐中電灯(かいちゅうでんとう)のスイッチをオンにすると、(さき)()らして、小走(こばし)りでスーパーの(はい)(くち)があるほうへと()かう。
 商品(しょうひん)だなの(あいだ)から()()し、レジの(まえ)()て、より(ちか)(ひだり)()(ぐち)(はし)()ると、ガラス(とびら)()こうは黒くぬりつぶされたように()(くろ)だった。
(ここからじゃ(かえ)れないか……?)

 永亜(とあ)(かお)をくもらせて、自動(じどう)ドアの(まえ)()つ。
 が、()(まえ)のガラス(とびら)(ひら)きそうにもなかった。
 永亜(とあ)片手(かたて)でガラス(とびら)()れて、(よこ)(うご)かそうと(ちから)をこめると、(すこ)しだけ(とびら)()く。
(ちから)をこめれば(ひら)く、か)

 永亜(とあ)一度(いちど)ガラス(とびら)から()(はな)して、うしろを()(かえ)った。
 懐中(かいちゅう)電灯(でんとう)()してあたりを()ても、ピカピカうさぎの(ひかり)()えない。
(あいつが()心配(しんぱい)はないな……よし)

 永亜(とあ)懐中電灯(かいちゅうでんとう)のスイッチを()(なお)して、ガラス(とびら)(あいだ)にできたすきまへ(ゆび)()れ、(ぜん)体重(たいじゅう)をかけるようにガラス(とびら)()した。
 ググ、グ、とゆっくり()された(とびら)が、左右(さゆう)連動(れんどう)して両側(りょうがわ)(ひら)いていくと、あっというまに(ひと)2人(ふたり)、3(にん)(とお)れるすきまができる。


「ふぅ……」


 永亜(とあ)(いき)()いてから、ガラス(とびら)()こう(がわ)に一()()()して、(そと)(つづ)くはずの、もう一枚(いちまい)自動(じどう)ドアを()た。


「……!」


 そこには、まぶしく(かん)じるほど(あか)るい店内(てんない)様子(ようす)(うつ)っていた。
 ()(もの)カゴを()った大人(おとな)()()い、商品(しょうひん)をながめては()()ばす、いつも(どお)りの、スーパーの風景(ふうけい)だ。
 その(なか)には、中学生(ちゅうがくせい)くらいの男子数人(だんしすうにん)が、なにかを(さが)すように、キョロキョロとあたりを見回(みまわ)している様子(ようす)もある。
(にい)ちゃん……!)
 (かれ)らのうち1(にん)は、永亜(とあ)(あに)であった。

 永亜(とあ)中学生(ちゅうがくせい)不良(ふりょう)とよく一緒(いっしょ)にいる、といううわさは事実(じじつ)であるが、永亜(とあ)にとってはただ(あに)と、その(とも)だちと一緒(いっしょ)にいるだけにすぎない。
 永亜(とあ)手前(てまえ)自動(じどう)ドアを自力(じりき)()けたように、(もと)いたスーパーの風景(ふうけい)(うつ)るガラス(とびら)を、体全体(からだぜんたい)使(つか)って()けた。


(にい)ちゃん!」


 (うら)スーパーの(なか)から永亜(とあ)(こえ)をかけると、5()(さき)でキョロキョロと(かお)(うご)かしている中学生(ちゅうがくせい)たちは、なにも()こえなかったかのように様子(ようす)(へん)わらない。
(ここからじゃ、()こえないのか……?)
 永亜(とあ)(あか)るい店内(てんない)(ゆか)へと一歩踏(いっぽふ)()してから、もう一度声(いちどこえ)をかけた。


(にい)ちゃん!」

「ん? 永亜(とあ)! お(まえ)、どこに()ってたんだよ! 懐中電灯(かいちゅうでんとう)なんて()って……」


 ようやく永亜(とあ)(かお)()けた(あに)は、(とも)だちを()れて永亜(とあ)のもとへ()()る。


「ちょっと、いろいろあって……まだやらなきゃいけないことがあるから、もう(すこ)しだけ()っててくれ」

「やらなきゃいけないこと? まぁいいけど、(おれ)らパンのとこにいるから(はや)()いよ。(おそ)かったら()いて(かえ)るからな」

()かってる」


 永亜(とあ)はうなずいて、ちらりとうしろを()た。
(この(かん)じ……(にい)ちゃんたちには、こっちのスーパーが()えてないみたいだな)
 永亜(とあ)はまだ半分(はんぶん)(うら)スーパーの(なか)にいる。
 それでも(あに)たちがなにも()わないところを()ると、(かれ)らは()(くら)(うら)スーパーの存在(そんざい)()づいていないようだ。

 永亜(とあ)片手(かたて)()げて、ゾロゾロと移動(いどう)する(あに)たちを見送(みおく)ると、(いき)()きながら現実(げんじつ)のスーパーに背中(せなか)()けた。
土谷(つちや)たちに、(つた)えに()こう)
 もう一度開(いちどあ)けやすいようにすきまを(のこ)しつつ、ガラス(とびら)()めて懐中電灯(かいちゅうでんとう)をかまえ(なお)したあと、永亜(とあ)店内(てんない)(つづ)く2(まい)()自動(じどう)ドアを(とお)()ける。

 ――すると、右側(みぎがわ)から(いろ)あせたピンク(いろ)()()びてきて、永亜(とあ)(かた)をガシッとつかんだ。


「なっ!?」


 ()見開(みひら)いて、永亜(とあ)(よこ)()ると、そこにはピカピカうさぎが不気味(ぶきみ)(かお)をして()っていた。
(くそっ、うしろの()かりにまぎれてて()づかなかった……!)


『かえっちゃ だめ いっしょに あそぼう』


 ピカピカうさぎは(たか)(こえ)をひびかせると、永亜(とあ)(からだ)()()げようとする。
 永亜(とあ)はギリッと奥歯(おくば)をかんで、電飾(でんしょく)()きつけたピカピカうさぎのお(なか)()った。
(ここで人形(にんぎょう)にされるわけにはいかない!)
 ピカピカうさぎの()から(のが)れた永亜(とあ)は、バックヤードのほうへ、全速力(ぜんそくりょく)(はし)()した。


(※無断転載禁止(むだんてんさいきんし)