裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

8,裏(うら)スーパーからの脱出(だっしゅつ)

約(やく)2,500字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)7分(ふん))


 永亜(とあ)が懐中電灯(かいちゅうでんとう)の先(さき)を床(ゆか)につけたのを見(み)て、乃花(のか)も懐中電灯(かいちゅうでんとう)を伏(ふ)せると、お米(こめ)の壁(かべ)の向(む)こうにはぼんやりとした明(あ)かりがあった。
 乃花(のか)はゴクリとつばを飲(の)んで、ふるえる手(て)をにぎりこむ。
(近(ちか)くに、ピカピカうさぎがいるんだ……!)

 全員(ぜんいん)で息(いき)を殺(ころ)して待(ま)つと、左側(ひだりがわ)からもれるその光(ひかり)は、だんだん明(あか)るさを増(ま)していき……。
 お米(こめ)の壁(かべ)の向(む)こうに、右側(みぎがわ)を向(む)いているピカピカうさぎの頭(あたま)が見(み)えた。


「っ……!」


 乃花(のか)はじわっと、目(め)に涙(なみだ)を浮(う)かべながら、必死(ひっし)に唇(くちびる)を引(ひ)き結(むす)ぶ。
 ブルブルとふるえている乃花(のか)の手(て)に気づいた那成(ななる)は、そっと手(て)を重(かさ)ねた。
 乃花(のか)がパッと、となりの那成(ななる)を見(み)ると、那成(ななる)は少(すこ)しほほえんで、乃花(のか)の手(て)を強(つよ)くにぎる。
(那成(ななる)さん……大丈夫(だいじょうぶ)、大丈夫(だいじょうぶ)……!)

 乃花(のか)はすがるように那成(ななる)の手(て)をにぎり返(かえ)しながら、物音(ものおと)を立(た)てないよう、じっとピカピカうさぎが通(とお)り過(す)ぎるのを待(ま)った。
 那成(ななる)“たち”が以前作(いぜんつく)ったお米(こめ)の壁(かべ)によって、乃花(のか)たちに気(き)づくことなく通(とお)り過(す)ぎたピカピカうさぎは、そのまままっすぐ歩(ある)いていく。
 永亜(とあ)はお米(こめ)の壁(かべ)から少(すこ)し顔(かお)を出(だ)して、ピカピカうさぎのうしろ姿(すがた)をじっと見(み)つめた。


「……曲(ま)がった」


 2つ奥(おく)の商品(しょうひん)だなの向(む)こうへ姿(すがた)を消(け)したピカピカうさぎを見(み)ると、永亜(とあ)はそうささやいて立(た)ち上(あ)がる。
 乃花(のか)も、那成(ななる)がふたたび來璃(らる)をおんぶできるように手(て)を離(はな)して、ゆっくり立(た)ち上(あ)がった。
 那成(ななる)と來璃(らる)を含(ふく)めた全員(ぜんいん)が立(た)ち上(あ)がると、永亜(とあ)はお米(こめ)の壁(かべ)の横(よこ)を通(とお)り過(す)ぎて、一度(いちど)見(み)に行(い)った左側(ひだりがわ)の入(い)り口(ぐち)へ走(はし)って向(む)かう。
 そのあとをついていった那成(ななる)と來璃(らる)、乃花(のか)も、開(ひら)かれたままの自動(じどう)ドアの奥(おく)に、明(あか)るい店内(てんない)の様子(ようす)が映(うつ)し出(だ)されたガラス扉(とびら)を目撃(もくげき)した。

(明(あか)るいスーパー……! 本当(ほんとう)に帰(かえ)れるんだ……っ!)
 乃花(のか)は目(め)を大(おお)きく開(ひら)いて、入(い)り口(ぐち)――いや、出口(でぐち)に向(む)かって走(はし)る速度(そくど)を上(あ)げる。
 永亜(とあ)は開(ひら)かれた自動(じどう)ドアの向(む)こうへ出(で)ると、残(のこ)しておいた奥(おく)の扉(とびら)のすきまに手(て)を差(さ)しこんで、グッと右(みぎ)に体重(たいじゅう)をかけた。
 次(つ)いで足(あし)を止(と)めた那成(ななる)は、來璃(らる)を下(お)ろして、永亜(とあ)と反対方向(はんたいほうこう)にガラス扉(とびら)を押(お)し開(あ)ける。

 ハラハラと2人(ふたり)の様子(ようす)を見(み)守(まも)る乃花(のか)は、開(ひら)いていく扉(とびら)の向(む)こうに、キョロキョロと焦(あせ)った顔(かお)であたりを見回(みまわ)している母(はは)の姿(すがた)を見(み)つけた。


「お母(かあ)さん……っ!」


 乃花(のか)が一歩前(ぽまえ)に出(で)て、思(おも)わず母(はは)へ向(む)かって呼(よ)びかけたとき――。
 乃花(のか)の体(からだ)は、ふわりと浮(う)いた。


「えっ……?」

『かえっちゃ だめ』


 すぐうしろから聞(き)こえた高(たか)い声(こえ)に、乃花(のか)は身(み)を硬(かた)くする。
 乃花(のか)がいるほうに顔(かお)を向(む)けた3人(にん)は、乃花(のか)のわきの下(した)に手(て)を差(さ)し込(こ)んだ、ピカピカうさぎの姿(すがた)を目撃(もくげき)した。


「土谷(つちや)!」

「乃花(のか)ちゃん!」

「お姉(ねえ)ちゃん……っ!」

「い、いやっ……助(たす)けて……っ!」


 乃花(のか)は大(おお)つぶの涙(なみだ)を浮(う)かべて、力(ちから)の抜(ぬ)けた手(て)からカランッと懐中電灯(かいちゅうでんとう)を落(お)とす。
 バタ、バタバタ、とゆっくり動(うご)かし始(はじ)めた足(あし)はなんの抵抗(ていこう)にもならない。


『いっしょに あそぼう』

「永亜(とあ)くんっ、來璃(らる)をお願(ねが)い!」

「あぁ!」

「お姉(ねえ)ちゃん……!」

「いやっ、やだっ、人形(にんぎょう)になりたくないっ!!」


 永亜(とあ)は來璃(らる)の二(に)の腕(うで)をつかんで、充分(じゅうぶん)に開(ひら)いたガラス扉(とびら)の向(む)こうへ引(ひ)っぱった。
 那成(ななる)はまっすぐピカピカうさぎのもとへ走(はし)り寄(よ)ると、激(はげ)しく足(あし)を動(うご)かす乃花(のか)の下(した)で、ドンッとピカピカうさぎに体当(たいあ)たりする。
 ピカピカうさぎの手(て)から離(はな)れた乃花(のか)の体(からだ)は、身(み)を引(ひ)いた那成(ななる)の腕(うで)の中(なか)へと落(お)ちていった。


「やだっ、やだっ……!」

「大丈夫(だいじょうぶ)だよ、乃花(のか)ちゃん……っ!」


(那成(ななる)、さん……っ?)
 どうなったのかも分(わ)からず、ジタバタと暴(あば)れていた乃花(のか)は、今乃花(いまのか)に触(ふ)れているのが那成(ななる)だと気(き)づくと、涙(なみだ)を流(なが)しながら那成(ななる)にしがみつく。
 那成(ななる)は乃花(のか)をお姫(ひめ)さま抱(だ)っこしながら、泣(な)きそうな顔(かお)でぬいぐるみを抱(いだ)きしめている來璃(らる)のもとへ走(はし)った。
 永亜(とあ)はガラス扉(とびら)の横(よこ)で那成(ななる)たちが走(はし)り抜(ぬ)けるのを待(ま)ちながら、体勢(たいせい)を立(た)て直(なお)したピカピカうさぎに向(む)かって、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を投(な)げつける。

 全員(ぜんいん)が現実(げんじつ)のスーパーへ出(で)たのを確認(かくにん)して、最後(さいご)に裏(うら)スーパーを出(で)た永亜(とあ)は、ガラス扉(とびら)を全身(ぜんしん)で押(お)して、ピカピカうさぎを裏(うら)スーパーに閉(と)じ込(こ)めた。


「乃花(のか)!?」

「ひぐっ、お母(かか)さぁん……っ!」


 とつぜん、どこからともなく現(あらわ)れた乃花(のか)の姿(すがた)を見(み)つけた母(はは)は、おどろきの声(こえ)をあげながら乃花(のか)たちに駆(か)け寄(よ)る。
 乃花(のか)は母(はは)の顔(かお)を見(み)ると、母(はは)に手(て)を伸(の)ばして「うわぁぁぁぁん!」大(おお)きな泣(な)き声(ごえ)をあげた。


****

 後日(ごじつ)、乃花(のか)たちを代表(だいひょう)して、1週間現実世界(しゅうかんげんじつせかい)から姿(すがた)を消(け)していた那成(ななる)が、すべての出来事(できごと)を警察(けいさつ)に話(はな)した。
 しかし、異(こと)なる世界(せかい)にある裏(うら)スーパーの存在(そんざい)も、子(こ)どもを人形(にんぎょう)に変(か)えてしまうピカピカうさぎの存在(そんざい)も、ちゃんと信(しん)じてもらうことはできず……。
 昔(むかし)、スーパーにあった着(き)ぐるみとピカピカうさぎの外見(がいけん)が一致(いっち)していることで、着(き)ぐるみの行方(ゆくえ)が調(しら)べられたくらいだった。

 また、乃花(のか)たちは、まだ帰(かえ)ってこない子(こ)どもたちについて、繰(く)り返(かえ)し警察(けいさつ)から話(はなし)を聞(き)かれることになる。
 裏(うら)スーパーから現実(げんじつ)に帰(かえ)った4人(にん)は、その後(ご)、誰(だれ)もスーパーに近(ちか)づくことはなくなり……。
 乃花(のか)や來璃(らる)は、うさぎのぬいぐるみを見(み)るだけで、おびえを見(み)せるようになった。


(もう、あんなところへは行(い)きたくない……でも、蕗咲(ろさ)ちゃんや、他(ほか)の子(こ)たちは……)
 1人(ひとり)で寝(ね)ることができなくなった乃花(のか)は、夜(よる)、母(はは)に抱(だ)きついてベッドに入(はい)りながら、人形(にんぎょう)になった子(こ)どもたちのことを考(かんが)えた。
 電気(でんき)を消(け)した部屋(へや)の中(なか)で目(め)を開(あ)けると、母(はは)のうしろに、こちらを見(み)つめるピカピカうさぎの顔(かお)が見(み)えた気(き)がして、乃花(のか)は目(め)を見開(みひら)く。


「キャァァァッ!」

「乃花(のか)っ? どうしたの!?」


 ――いっしょに あそぼう

 乃花(のか)の頭(あたま)の中(なか)にひびく声(こえ)など聞(き)こえるはずもない母(はは)は、あわてて部屋(へや)の電気(でんき)をつけ、「乃花(のか)? 乃花(のか)!?」と体(からだ)をゆさぶって呼(よ)びかけた。


****

 小(ちい)さいお友(とも)だちが4人(にん)、帰(かえ)っちゃった。
 残念(ざんねん)だけど、さみしくないよ。
 だって、おまじないをかけた小(ちい)さいお友(とも)だちがたぁくさん、ボクと一緒(いっしょ)に遊(あそ)んでくれるからね。
 ずっと、ずっと、一緒(いっしょ)なんだ。

 もしさみしくなったら、またみんなを呼(よ)ぼう。
 そうしたら、帰(かえ)っちゃった小(ちい)さいお友(とも)だちにも、また会(あ)えるかな?

 フフフ、フフフ、楽(たの)しみだなぁ。
 またみんなと遊(あそ)ぶのが、楽(たの)しみだなぁ。


[おわり]
ありがとうございます👻

(※無断転載禁止(むだんてんさいきんし))