裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

5,3人(にん)と1人(ひとり)

約(やく)2,300字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)7分(ふん))


(そんな……それじゃあ私(わたし)たちは、元(もと)の世界(せかい)に帰(かえ)れないの?)
 乃花(のか)の目(め)に、じわりと涙(なみだ)が浮(う)かぶ。
(お母(かあ)さん……やだよ、こんな怖(こわ)いところにずっといるなんて……私(わたし)もいつか、人形(にんぎょう)にされちゃうの……っ!?)
 人形(にんぎょう)になった蕗咲(ろさ)を思(おも)い返(かえ)して、乃花(のか)はなにも言(い)えずにいた。

 しかし。


「なぁ。入(い)り口(ぐち)から外(そと)に出(で)たらどうなるんだ?」


 永亜(とあ)は、こんな状況(じょうきょう)でも取(と)り乱(みだ)すことなく、那成(ななる)に聞(き)く。
 問(と)われた那成(ななる)は顔(かお)を上(あ)げて、「分(わ)からない」と答(こた)えた。


「スーパーの中(なか)はあいつが歩(ある)き回(まわ)ってて危(あぶ)ないから……前(まえ)は、どこかに大人(おとな)がいないか、みんなで探(さが)してたんだけど……」


 うつむいてなにも言(い)わなくなった那成(ななる)を見(み)て、乃花(のか)はヒュッと息(いき)を飲(の)む。
(みんな……人形(にんぎょう)になっちゃったんだ……!)
 永亜(とあ)は考(かんが)えるように視線(しせん)を落(お)として、那成(ななる)に手(て)を差(さ)し出(だ)した。


「じゃあ、入(い)り口(ぐち)まで行(い)ってくる。懐中電灯(かいちゅうでんとう)、貸(か)してくれ」

「えっ? で、でも、危(あぶ)ないよ……っ! ここの外(そと)にはピカピカうさぎがいるのに……!」

「土谷(つちや)も来(こ)いとは言(い)ってないだろ。怖(こわ)いならここで待(ま)ってろ。帰(かえ)れそうな場所(ばしょ)を見(み)つけたら戻(もど)ってくるから」

「でも……!」

「……それなら、僕(ぼく)も行(い)く。ここにいる時間(じかん)は長(なが)いから」

「えっ……!?」

「お兄(にい)ちゃん……」


 那成(ななる)は自身(じしん)を見上(みあ)げる來璃(らる)の頭(あたま)をなでて、背中(せなか)に回(まわ)された來璃(らる)の腕(うで)をそっとはがす。
 けれど、來璃(らる)はすぐにまた、那成(ななる)へ抱(だ)きついた。
 乃花(のか)も不安(ふあん)な表情(ひょうじょう)を浮(う)かべながら永亜(とあ)を見(み)る。
 永亜(とあ)は全員(ぜんいん)の様子(ようす)を見回(みまわ)すと、那成(ななる)の手(て)から懐中電灯(かいちゅうでんとう)をうばった。


「あんたはここにいろよ。そいつも土谷(つちや)も怖(こわ)がってるし。ここが安全(あんぜん)でも、女子2人(じょしふたり)だけ残(のこ)していくわけにはいかないだろ」


 怖(こわ)いと思(おも)っていることを見抜(みぬ)かれた乃花(のか)は、居心地(いごこち)が悪(わる)くなったように顔(かお)をそらす。
 そんな乃花(のか)や、那成(ななる)を離(はな)さない來璃(らる)を見(み)て、那成(ななる)は小(ちい)さくうなずいた。


「……分(わ)かった。ここの造(つく)りは現実(げんじつ)のスーパーと同(おな)じだから、まっすぐ入(い)り口(ぐち)へ向(む)かえばいいよ」

「あぁ」

「それから、あいつは遠(とお)くの音(おと)には反応(はんのう)しないけど、近(ちか)くで聞(き)こえた音(おと)には反応(はんのう)する。そして、顔(かお)の正面(しょうめん)にいる子(こ)どもをねらうから気(き)をつけて」

「分(わ)かった。ここ、他(ほか)に明(あ)かりはないのか?」


 懐中電灯(かいちゅうでんとう)でバックヤードを照(て)らす永亜(とあ)につられて、乃花(のか)も周(まわ)りを見(み)る。
 那成(ななる)は「あるよ。そのまま照(て)らしてて」と言(い)って、來璃(らる)を離(はな)し、バックヤードの奥(おく)にある段(だん)ボール箱(はこ)へ近(ちか)づいた。
 ゴソゴソと段(だん)ボール箱(ばこ)の中(なか)をあさった那成(ななる)は、永亜(とあ)が持(も)っているのと同(おな)じ懐中電灯(かいちゅうでんとう)に電池(でんち)を入(い)れて、カチッとライトをつけてみせる。


「これで大丈夫(だいじょうぶ)」

「みたいだな。じゃあ行(い)ってくる」

「あ、せ、瀬戸川(せとがわ)くん、気(き)をつけて……!」


 永亜(とあ)は乃花(のか)の目(め)を見(み)ると、うなずいて「あぁ」と答(こた)えた。
 入(い)り口近(ぐちちか)くへ戻(もど)ってきた那成(ななる)と、そのそばに寄(よ)った來璃(らる)、乃花(のか)が見(み)つめる先(さき)で、永亜(とあ)は懐中電灯(かいちゅうでんとう)をかまえて、そっと銀色(ぎんいろ)の扉(とびら)を開(あ)ける。
 近(ちか)くにピカピカうさぎがいないことを確認(かくにん)した永亜(とあ)は、振(ふ)り返(かえ)らず、バックヤードの外(そと)へと歩(ある)き出(だ)した。

 扉(とびら)が閉(し)まって永亜(とあ)の姿(すがた)が見(み)えなくなると、乃花(のか)は胸(むね)の前(まえ)で両手(りょうて)をにぎる。
(瀬戸川(せとがわ)くん……本当(ほんとう)に大丈夫(だいじょうぶ)かな……?)


「乃花(のか)ちゃん、永亜(とあ)くんとは仲(なか)がいいの?」

「え……あ、いえ。その、ここに来(く)るまでは苦手(にがて)でした……」

「そうなんだ。苦手(にがて)な子(こ)だったのに、心配(しんぱい)に思(おも)うなんて、乃花(のか)ちゃんはやさしい子(こ)だね」

「い、いえっ。そんなことはないです……っ!」

「ふふっ……乃花(のか)ちゃん、こっちにおいで。一緒(いっしょ)に座(すわ)って待(ま)ってよう」


 來璃(らる)の背中(せなか)に手(て)をそえて、バックヤードの奥(おく)へと移動(いどう)する那成(ななる)を見(み)て、乃花(のか)はうなずいてから歩(ある)き出(だ)した。
 突(つ)き当(あ)たりの壁(かべ)を背(せ)にして座(すわ)ると、那成(ななる)は懐中電灯(かいちゅうでんとう)を床(ゆか)に置(お)いて、近(ちか)くに散乱(さんらん)している段(だん)ボール箱(ばこ)からペットボトルのジュースを取(と)り出(だ)す。


「ほら、來璃(らる)、オレンジジュースだよ。……乃花(のか)ちゃんはなにジュースが好(す)き? りんごとか、ぶどうとかあるけど」

「あ、えっと……ぶどうジュースです」

「ぶどうだね。はい」


 段(だん)ボールから取(と)り出(だ)されたぶどうジュースを受(う)け取(たす)った乃花(のか)は、自身(じしん)の手(て)がふるえていることに気(き)づいた。
 來璃(らる)に渡(わた)したペットボトルのふたを開(あ)けてあげた那成(ななる)は、乃花(のか)の様子(ようす)に気(き)づくと、ふるえている両手(りょうて)を包(つつ)みこむ。


「……怖(こわ)いよね。大丈夫(だいじょうぶ)、ここにいるかぎりは安全(あんぜん)だから」

「あ……那成(ななる)、さん……」

「安心(あんしん)して。僕(ぼく)が一緒(いっしょ)にいる」


 温(あたた)かい那成(ななる)の手(て)に包(つつ)まれ、やさしく笑(わら)いかけられた乃花(のか)は、じわりとこみげてきた涙(なみだ)をほおにこぼした。
 那成(ななる)は少(すく)し目(め)を丸(まる)くして、やさしく眉(まゆ)を下(さ)げながら、そっと乃花(のか)の頭(あたま)をなでる。
 そんな2人(ふたり)の様子(ようす)を見(み)た來璃(らる)は、ゴク、とオレンジジュースを飲(の)んだあとに、口(くち)を開(ひら)いた。


「お兄(にい)ちゃんも、お姉(ねえ)ちゃんも、くっついてすわろ」

「え……」

「そうだね。もっとこっちに来(き)ていいよ、來璃(らる)。……乃花(のか)ちゃんも、こっちにおいで?」


 那成(ななる)のすぐとなりの床(ゆか)をポンポンとたたかれて、乃花(のか)は、視線(しせん)をあちらこちらに向(む)ける。
(な、那成(ななる)さんとくっついて座(すわ)るのっ……? それはちょっと、はずかしいかも……っ)
 そう思(おも)えるくらいには、少(すこ)し落(お)ち着(つ)いたものの、やはり不安(ふあん)な気持(きも)ちのほうが大(おお)きかったようだ。
 乃花(のか)は「……はい」と答(こた)えて、おずおずと那成(ななる)へ近(ちか)づき、肩(かた)をくっつけながらひざを抱(かか)えた。


「怖(こわ)かったら手(て)、つないでいいからね」

「だ、大丈夫(だいじょうぶ)です……っ」


 真(ま)っ暗(くら)でなにも見(み)えなかったときとは違(ちが)って、今(いま)は明(あ)かりもあり、ピカピカうさぎにおそわれる心配(しんぱい)もない。
 乃花(のか)は顔(かお)を赤(あか)くしながら、両手(りょうて)でぶどうジュースのペットボトルをしっかりとにぎった。

(那成(ななる)さんのとなり、安心(あんしん)するけど、ドキドキする……せ、瀬戸川(せとがわ)くんは、大丈夫(だいじょうぶ)かなっ……?)
 乃花(のか)はちらりと、離(はな)れた場所(ばしょ)にある銀色(ぎんいろ)の扉(とびら)を見(み)て、永亜(とあ)のことを考(かんが)えた。


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