(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

5,3(にん)1人(ひとり)

(やく)2,300()()()わるまで(やく)(ふん)



(そんな……それじゃあ(わたし)たちは、(もと)世界(せかい)(かえ)れないの?)
 乃花(のか)()に、じわりと(なみだ)()かぶ。
(お(かあ)さん……やだよ、こんな(こわ)いところにずっといるなんて……(わたし)もいつか、人形(にんぎょう)にされちゃうの……っ!?)
 人形(にんぎょう)になった蕗咲(ろさ)(おも)(かえ)して、乃花(のか)はなにも()えずにいた。
 
 しかし。


「なぁ。()(ぐち)から(そと)()たらどうなるんだ?」


 永亜(とあ)は、こんな状況(じょうきょう)でも()(みだ)すことなく、那成(ななる)()く。
 ()われた那成(ななる)(かお)()げて、「()からない」と(こた)えた。


「スーパーの(なか)はあいつが(ある)(まわ)ってて(あぶ)ないから……(まえ)は、どこかに大人(おとな)がいないか、みんなで(さが)してたんだけど……」


 うつむいてなにも()わなくなった那成(ななる)()て、乃花(のか)はヒュッと(いき)()む。
(みんな……人形(にんぎょう)になっちゃったんだ……!)
 永亜(とあ)(かんが)えるように視線(しせん)()として、那成(ななる)()()()した。


「じゃあ、()(ぐち)まで()ってくる。懐中電灯(かいちゅうでんとう)()してくれ」

「えっ? で、でも、(あぶ)ないよ……っ! ここの(そと)にはピカピカうさぎがいるのに……!」

土谷(つちや)()いとは()ってないだろ。(こわ)いならここで()ってろ。(かえ)れそうな場所(ばしょ)()つけたら(もど)ってくるから」

「でも……!」

「……それなら、(ぼく)()く。ここにいる時間(じかん)(なが)いから」

「えっ……!?」

「お(にい)ちゃん……」


 那成(ななる)自身(じしん)見上(みあ)げる來璃(らる)(あたま)をなでて、背中(せなか)(まわ)された來璃(らる)(うで)をそっとはがす。
 けれど、來璃(らる)はすぐにまた、那成(ななる)()きついた。
 乃花(のか)不安(ふあん)表情(ひょうじょう)()かべながら永亜(とあ)()る。
 永亜(とあ)全員(ぜんいん)様子(ようす)見回(みまわ)すと、那成(ななる)()から懐中電灯(かいちゅうでんとう)をうばった。


「あんたはここにいろよ。そいつも土谷(つちや)(こわ)がってるし。ここが安全(あんぜん)でも、女子2人(じょしふたり)だけ(のこ)していくわけにはいかないだろ」


 (こわ)いと(おも)っていることを見抜(みぬ)かれた乃花(のか)は、居心地(いごこち)(わる)くなったように(かお)をそらす。
 そんな乃花(のか)や、那成(ななる)(はな)さない來璃(らる)()て、那成(ななる)(ちい)さくうなずいた。


「……()かった。ここの(つく)りは現実(げんじつ)のスーパーと(おな)じだから、まっすぐ()(ぐち)()かえばいいよ」

「あぁ」

「それから、あいつは(とお)くの(おと)には反応(はんのう)しないけど、(ちか)くで()こえた(おと)には反応(はんのう)する。そして、(かお)正面(しょうめん)にいる()どもをねらうから()をつけて」

()かった。ここ、(ほか)()かりはないのか?」


 懐中電灯(かいちゅうでんとう)でバックヤードを()らす永亜(とあ)につられて、乃花(のか)(まわ)りを()る。
 那成(ななる)は「あるよ。そのまま()らしてて」と()って、來璃(らる)(はな)し、バックヤードの(おく)にある(だん)ボール(はこ)(ちか)づいた。
 ゴソゴソと(だん)ボール(ばこ)(なか)をあさった那成(ななる)は、永亜(とあ)()っているのと(おな)懐中電灯(かいちゅうでんとう)電池(でんち)()れて、カチッとライトをつけてみせる。


「これで大丈夫(だいじょうぶ)

「みたいだな。じゃあ()ってくる」

「あ、せ、瀬戸川(せとがわ)くん、()をつけて……!」


 永亜(とあ)乃花(のか)()()ると、うなずいて「あぁ」と(こた)えた。
 ()口近(ぐちちか)くへ(もど)ってきた那成(ななる)と、そのそばに()った來璃(らる)乃花(のか)()つめる(さき)で、永亜(とあ)懐中電灯(かいちゅうでんとう)をかまえて、そっと銀色(ぎんいろ)(とびら)()ける。
 (ちか)くにピカピカうさぎがいないことを確認(かくにん)した永亜(とあ)は、()(かえ)らず、バックヤードの(そと)へと(ある)()した。

 (とびら)()まって永亜(とあ)姿(すがた)()えなくなると、乃花(のか)(むね)(まえ)両手(りょうて)をにぎる。
瀬戸川(せとがわ)くん……本当(ほんとう)大丈夫(だいじょうぶ)かな……?)


乃花(のか)ちゃん、永亜(とあ)くんとは(なか)がいいの?」

「え……あ、いえ。その、ここに()るまでは苦手(にがて)でした……」

「そうなんだ。苦手(にがて)()だったのに、心配(しんぱい)(おも)うなんて、乃花(のか)ちゃんはやさしい()だね」

「い、いえっ。そんなことはないです……っ!」

「ふふっ……乃花(のか)ちゃん、こっちにおいで。一緒(いっしょ)(すわ)って()ってよう」


 來璃(らる)背中(せなか)()をそえて、バックヤードの(おく)へと移動(いどう)する那成(ななる)()て、乃花(のか)はうなずいてから(ある)()した。
 ()()たりの(かべ)()にして(すわ)ると、那成(ななる)懐中電灯(かいちゅうでんとう)(ゆか)()いて、(ちか)くに散乱(さんらん)している(だん)ボール(ばこ)からペットボトルのジュースを()()す。


「ほら、來璃(らる)、オレンジジュースだよ。……乃花(のか)ちゃんはなにジュースが()き? りんごとか、ぶどうとかあるけど」

「あ、えっと……ぶどうジュースです」

「ぶどうだね。はい」


 (だん)ボールから()()されたぶどうジュースを()(たす)った乃花(のか)は、自身(じしん)()がふるえていることに()づいた。
 來璃(らる)(わた)したペットボトルのふたを()けてあげた那成(ななる)は、乃花(のか)様子(ようす)()づくと、ふるえている両手(りょうて)(つつ)みこむ。


「……(こわ)いよね。大丈夫(だいじょうぶ)、ここにいるかぎりは安全(あんぜん)だから」

「あ……那成(ななる)、さん……」

安心(あんしん)して。(ぼく)一緒(いっしょ)にいる」


 (あたた)かい那成(ななる)()(つつ)まれ、やさしく(わら)いかけられた乃花(のか)は、じわりとこみげてきた(なみだ)をほおにこぼした。
 那成(ななる)(すく)()(まる)くして、やさしく(まゆ)()げながら、そっと乃花(のか)(あたま)をなでる。
 そんな2人(ふたり)様子(ようす)()來璃(らる)は、ゴク、とオレンジジュースを()んだあとに、(くち)(ひら)いた。


「お(にい)ちゃんも、お(ねえ)ちゃんも、くっついてすわろ」

「え……」

「そうだね。もっとこっちに()ていいよ、來璃(らる)。……乃花(のか)ちゃんも、こっちにおいで?」


 那成(ななる)のすぐとなりの(ゆか)をポンポンとたたかれて、乃花(のか)は、視線(しせん)をあちらこちらに()ける。
(な、那成(ななる)さんとくっついて(すわ)るのっ……? それはちょっと、はずかしいかも……っ)
 そう(おも)えるくらいには、(すこ)()()いたものの、やはり不安(ふあん)気持(きも)ちのほうが(おお)きかったようだ。
 乃花(のか)は「……はい」と(こた)えて、おずおずと那成(ななる)(ちか)づき、(かた)をくっつけながらひざを(かか)えた。


(こわ)かったら()、つないでいいからね」

「だ、大丈夫(だいじょうぶ)です……っ」


 ()(くら)でなにも()えなかったときとは(ちが)って、(いま)()かりもあり、ピカピカうさぎにおそわれる心配(しんぱい)もない。
 乃花(のか)(かお)(あか)くしながら、両手(りょうて)でぶどうジュースのペットボトルをしっかりとにぎった。

那成(ななる)さんのとなり、安心(あんしん)するけど、ドキドキする……せ、瀬戸川(せとがわ)くんは、大丈夫(だいじょうぶ)かなっ……?)
 乃花(のか)はちらりと、(はな)れた場所(ばしょ)にある銀色(ぎんいろ)(とびら)()て、永亜(とあ)のことを(かんが)えた。


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