裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

4,裏(うら)スーパー

約(やく)2,300字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)6分(ぷん))



「あ……、う、うんっ……」


 乃花(のか)は小(ちい)さくうなずいて、目(め)の前(まえ)にせまるピカピカうさぎを見(み)てから、うしろへ走(はし)り出(だ)す永亜(とあ)に続(つづ)く。
 先(さき)を走(はし)っている來璃(らる)の前(まえ)で、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を持(も)った男(おとこ)の子(こ)はスーパーの奥(おく)へ奥(おく)へと走(はし)っていった。
 先頭(せんとう)の光(ひかり)を追(お)って乃花(のか)たちが走(はし)ると、男(おとこ)の子(こ)は“スタッフ専用(せんよう)”と書(か)かれた銀色(ぎんいろ)の扉(とびら)を押(お)して「こっちだよ!」とさけぶ。

(あそこは……っ? あと、少(すこ)し……っ!)
 來璃(らる)がバックヤードに入(はい)り、少(すこ)し遅(おそ)れて永亜(とあ)がバックヤードに入(はい)ると、乃花(のか)もバクバクとさわぐ心臓(しんぞう)の音(おと)を聞(き)きながら、バックヤードに逃(に)げこんだ。
 乃花(のか)の背中(せなか)を押(お)してその手助(てだす)けをした男(おとこ)の子(こ)は、最後(さいご)にバックヤードへ入(はい)って扉(とびら)を閉(し)める。


「よし……もう大丈夫(だいじょうぶ)、あいつはこっちに入(はい)ってこないから」


 広(ひろ)い空間(くうかん)のどこへ向(む)かっていけばいいのか、目的地(もくてきち)を探(さが)していた乃花(のか)たちは、男(おとこ)の子(こ)の言葉(ことば)を聞(き)いて、順番(じゅんばん)に足(あし)を止(と)めた。
 ぜぇっ、はぁっ、とみんなが息(いき)を切()らす音(おと)がバックヤードにひびく。
(あのピカピカうさぎはなんなの……っ? それに、この男(おとこ)の子(こ)は……)
 乃花(のか)は肩(かた)を上下(じょうげ)に動(うご)かしながら、扉(とびら)の前(まえ)に立(た)っている男(おとこ)の子(こ)を振(ふ)り返(かえ)った。

 そんな乃花(のか)の視界(しかい)を横切(よこぎ)って、男(おとこ)の子(こ)に駆(か)け寄(よ)る人物(じんぶつ)が1人(ひとり)。


「お兄(にい)ちゃん……!」


 來璃(らる)はくまのぬいぐるみを片手(かたて)に持(も)って、男(おとこ)の子(こ)のお腹(なか)に抱(だ)きついた。


「來璃(らる)! 無事(ぶじ)でよかった……」


 來璃(らる)を抱(だ)きしめ返(かえ)して、くしゃっと、泣(な)きそうな笑(え)みを浮(う)かべた男(おとこ)の子(こ)を見(み)て、乃花(のか)は目(め)を丸(まる)くする。
(來璃(らる)ちゃんの、お兄(にい)ちゃん?)
 男(おとこ)の子(こ)は、來璃(らる)をギュッと抱(だ)きしめると、乃花(のか)たちに目(め)を向(む)けた。


「あ、ごめんね……僕(ぼく)は、飛(とび)那成(ななる)。6年生(ねんせい)。この子(こ)は僕(ぼく)の妹(いもうと)なんだ」

「あ、私(わたし)は土谷(つちや)乃花(のか)、5年生(ねんせい)です」

「俺(おれ)は瀬戸川(せとがわ)永亜(とあ)。土谷(つちや)と同(おな)じ、5年(ねん)」

「乃花(のか)ちゃんに、永亜(とあ)くんだね。よろしく」


 那成(ななる)はほほえんで、來璃(らる)の頭(あたま)をなでる。
 乃花(のか)はホッと、胸(むね)をなでおろしていた。
(6年生(ねんせい)……年上(としうえ)の人(ひと)がいたんだ。よかった……)
 肩(かた)にどっしりと乗(の)っかっていた重(おも)りがなくなったようで、気(き)がゆるんだ乃花(のか)は、視界(しかい)のはしに映(うつ)る永亜(とあ)に気(き)づいて、顔(かお)を向(む)ける。


「あ、あの、瀬戸川(せとがわ)くん。さっきは、助(たす)けてくれてありがとう……」

「……いや」


 ぶっきらぼうに答(こた)えた永亜(とあ)を見(み)て、乃花(のか)は眉(まゆ)を下(さ)げつつも視線(しせん)をそらさなかった。
(瀬戸川(せとがわ)くん、やっぱりぶっきらぼうな態度(たいど)だけど……思(おも)ってたより、やさしいな……)
 振(ふ)り返(かえ)ってみれば、スーパーが停電(ていでん)してから、乃花(のか)はずっと永亜(とあ)に助(たす)けられている。
 永亜(とあ)を苦手(にがて)に思(おも)う気持()ちは、少(すこ)しずつ減(へ)っていた。

 それと同時(どうじ)に、乃花(のか)の頭(あたま)には、先(さき)ほど見(み)た、人形(にんぎょう)へと変(か)わった蕗咲(ろさ)の姿(すがた)が焼(や)きついていた。


「蕗咲(ろさ)、ちゃんは……」


 ぽつりとつぶやいた乃花(のか)に答(こた)える声(こえ)は、ない。
 永亜(とあ)も來璃(らる)もだまりこんだままで、那成(ななる)だけが、「あの、女(おんな)の子(こ)?」と静(しず)かに聞(き)いた。


「はい……蕗咲(ろさ)ちゃんは、どうなっちゃったんですか? あのピカピカうさぎは、なんなんですか?」

「……あの子(こ)は、人形(にんぎょう)になった、としか言(い)えない。あの着(き)ぐるみは……このスーパーにいる子(こ)どもを捕(つか)まえて、人形(にんぎょう)に変(か)えてしまうんだ」

「そんな……っ」

「……あんたは、なんでアレのこと知(し)ってるんだ?」


 両手(りょうて)で口(くち)を押(お)さえた乃花(のか)のとなりに来(き)て、永亜(とあ)は那成(ななる)を見(み)つめる。
 那成(ななる)は視線(しせん)を落(お)として口(くち)を開(ひら)いた。


「僕(ぼく)は……永亜(とあ)くんたちよりも前(まえ)から、ここにいるんだ。一緒(いっしょ)にいた子(こ)たちもいたけど……みんな、あいつに捕(つか)まって人形(にんぎょう)にされてしまった」

「……お兄(にい)ちゃん、いなくなっちゃった。1週間前(しゅうかんまえ)に。みんなで、さがしたけど……ずっと、見(み)つからなかった」

「1週間前(しゅうかんまえ)に……?」


 乃花(のか)はその言葉(ことば)で、母(はは)から聞(き)いた話(はなし)を思(おも)い出(で)す。
(そういえば、お母(かあ)さんが言(い)ってた……1週間前(しゅうかんまえ)に、小学生(しょうがくせい)が何人(なんにん)かいなくなったって)
 來璃(らる)と那成(ななる)の話(ほか)をすり合(あ)わせると、那成(ななる)は1週間前(しゅうかんまえ)から“ここ”にいたことになる。
(でも、待(ま)って。スーパーが停電(ていでん)したのはさっきなのに……)

 那成(ななる)は一体(いったい)どこにいたのだろうか?
 その疑問(ぎもん)に答(こた)えるのは、他(ほか)でもない、那成(ななる)だった。


「そっか……やっぱり、そういうことなんだ。ここは、スーパーであって、スーパーじゃない……どこか、別(べつ)の世界(せかい)なんだよ」

「べ、別(べつ)の、世界(せかい)……っ?」

「急(きゅう)にあたりが真(ま)っ暗(くら)になって、いつの間(ま)にか大人(おとな)がいなくなってた。このスーパーにいるのはあの着(き)ぐるみと、僕(ぼく)たちだけ」

「……目(め)の前(まえ)で人(ひと)が人形(にんぎょう)になったんだ。それくらいのふしぎは信(しん)じるけど、あんたは1週間(しゅうかん)もどうやって生(い)き残(のこ)ったんだ?」


 永亜(とあ)が尋(たず)ねると、那成(ななる)は力(ちから)なく笑(わら)って、バックヤードを見回(みまわ)す。
 広(ひろ)いこの空間(くうかん)には、たくさんの段(だん)ボールが積(つ)み上(あ)げられていた。


「どうしてかは分(わ)からないけど、あの着(き)ぐるみは扉(とびら)を開(あ)けられないみたいでね。ここには絶対(ぜったい)、入(はい)ってこないんだ」


(扉(とびら)を、開(あ)けられない……?)
 乃花(のか)は那成(ななる)のうしろの扉(とびら)を見(み)つめる。


「そしてここには、懐中電灯(かいちゅうでんとう)や、たくさんの食(た)べ物(もの)、飲(の)み物(もの)があった。だから僕(ぼく)は、ずっとここにいたんだ。助(たす)けが来(く)るのを待(ま)って」

「助(たす)け……ね。あんたが1週間(しゅうかん)もここにいたってことは、その助(たす)けってのはこないんだろ」

「え……」

「……お兄(にい)ちゃん……」


 永亜(とあ)のするどい質問(しつもん)に、乃花(のか)も、來璃(らる)も那成(ななる)を見(み)て、答(こた)えを待(ま)った。
 那成(ななる)は視線(しせん)を落(お)として唇(くちびる)を引(ひ)き結(むす)ぶと、3秒間(びょうかん)だまりこんでから、口(くち)を開(ひら)く。


「ここが、別(べつ)の世界(せかい)……裏(うら)のスーパーなら、迷(まよ)いこんでしまった僕(ぼく)たちしか、ここの存在(そんざい)は知(し)らない。だから……」


(待(ま)ってても、助(たす)けは、こない……?)
 那成(ななる)が口(くち)にできなかった言葉(ことば)を理解(りかい)した乃花(のか)は、ふるえる手(て)で口(くち)を押(お)さえた。


ありがとうございます👻

(※無断転載禁止(むだんてんさいきんし))