(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

4,(うら)スーパー

(やく)2,300()()()わるまで(やく)(ぷん)



「あ……、う、うんっ……」


 乃花(のか)(ちい)さくうなずいて、()(まえ)にせまるピカピカうさぎを()てから、うしろへ(はし)()永亜(とあ)(つづ)く。
 (さき)(はし)っている來璃(らる)(まえ)で、懐中電灯(かいちゅうでんとう)()った(おとこ)()はスーパーの(おく)(おく)へと(はし)っていった。
 先頭(せんとう)(ひかり)()って乃花(のか)たちが(はし)ると、(おとこ)()は“スタッフ専用(せんよう)”と()かれた銀色(ぎんいろ)(とびら)()して「こっちだよ!」とさけぶ。

(あそこは……っ? あと、(すこ)し……っ!)
 來璃(らる)がバックヤードに(はい)り、(すこ)(おそ)れて永亜(とあ)がバックヤードに(はい)ると、乃花(のか)もバクバクとさわぐ心臓(しんぞう)(おと)()きながら、バックヤードに()げこんだ。
 乃花(のか)背中(せなか)()してその手助(てだす)けをした(おとこ)()は、最後(さいご)にバックヤードへ(はい)って(とびら)()める。


「よし……もう大丈夫(だいじょうぶ)、あいつはこっちに(はい)ってこないから」


 (ひろ)空間(くうかん)のどこへ()かっていけばいいのか、目的地(もくてきち)(さが)していた乃花(のか)たちは、(おとこ)()言葉(ことば)()いて、順番(じゅんばん)(あし)()めた。
 ぜぇっ、はぁっ、とみんなが(いき)を切()らす(おと)がバックヤードにひびく。
(あのピカピカうさぎはなんなの……っ? それに、この(おとこ)()は……)
 乃花(のか)(かた)上下(じょうげ)(うご)かしながら、(とびら)(まえ)()っている(おとこ)()()(かえ)った。

 そんな乃花(のか)視界(しかい)横切(よこぎ)って、(おとこ)()()()人物(じんぶつ)1人(ひとり)


「お(にい)ちゃん……!」


 來璃(らる)はくまのぬいぐるみを片手(かたて)()って、(おとこ)()のお(なか)()きついた。


來璃(らる)! 無事(ぶじ)でよかった……」


 來璃(らる)()きしめ(かえ)して、くしゃっと、()きそうな()みを()かべた(おとこ)()()て、乃花(のか)()(まる)くする。
來璃(らる)ちゃんの、お(にい)ちゃん?)
 (おとこ)()は、來璃(らる)をギュッと()きしめると、乃花(のか)たちに()()けた。


「あ、ごめんね……(ぼく)は、(とび)那成(ななる)。6年生(ねんせい)。この()(ぼく)(いもうと)なんだ」

「あ、(わたし)土谷(つちや)乃花(のか)、5年生(ねんせい)です」

(おれ)瀬戸川(せとがわ)永亜(とあ)土谷(つちや)(おな)じ、5(ねん)

乃花(のか)ちゃんに、永亜(とあ)くんだね。よろしく」


 那成(ななる)はほほえんで、來璃(らる)(あたま)をなでる。
 乃花(のか)はホッと、(むね)をなでおろしていた。
(6年生(ねんせい)……年上(としうえ)(ひと)がいたんだ。よかった……)
 (かた)にどっしりと()っかっていた(おも)りがなくなったようで、()がゆるんだ乃花(のか)は、視界(しかい)のはしに(うつ)永亜(とあ)()づいて、(かお)()ける。


「あ、あの、瀬戸川(せとがわ)くん。さっきは、(たす)けてくれてありがとう……」

「……いや」


 ぶっきらぼうに(こた)えた永亜(とあ)()て、乃花(のか)(まゆ)()げつつも視線(しせん)をそらさなかった。
瀬戸川(せとがわ)くん、やっぱりぶっきらぼうな態度(たいど)だけど……(おも)ってたより、やさしいな……)
 ()(かえ)ってみれば、スーパーが停電(ていでん)してから、乃花(のか)はずっと永亜(とあ)(たす)けられている。
 永亜(とあ)苦手(にがて)(おも)う気持()ちは、(すこ)しずつ()っていた。

 それと同時(どうじ)に、乃花(のか)(あたま)には、(さき)ほど()た、人形(にんぎょう)へと()わった蕗咲(ろさ)姿(すがた)()きついていた。


蕗咲(ろさ)、ちゃんは……」


 ぽつりとつぶやいた乃花(のか)(こた)える(こえ)は、ない。
 永亜(とあ)來璃(らる)もだまりこんだままで、那成(ななる)だけが、「あの、(おんな)()?」と(しず)かに()いた。


「はい……蕗咲(ろさ)ちゃんは、どうなっちゃったんですか? あのピカピカうさぎは、なんなんですか?」

「……あの()は、人形(にんぎょう)になった、としか()えない。あの()ぐるみは……このスーパーにいる()どもを(つか)まえて、人形(にんぎょう)()えてしまうんだ」

「そんな……っ」

「……あんたは、なんでアレのこと()ってるんだ?」


 両手(りょうて)(くち)()さえた乃花(のか)のとなりに()て、永亜(とあ)那成(ななる)()つめる。
 那成(ななる)視線(しせん)()として(くち)(ひら)いた。


(ぼく)は……永亜(とあ)くんたちよりも(まえ)から、ここにいるんだ。一緒(いっしょ)にいた()たちもいたけど……みんな、あいつに(つか)まって人形(にんぎょう)にされてしまった」

「……お(にい)ちゃん、いなくなっちゃった。1週間前(しゅうかんまえ)に。みんなで、さがしたけど……ずっと、()つからなかった」

「1週間前(しゅうかんまえ)に……?」


 乃花(のか)はその言葉(ことば)で、(はは)から()いた(はなし)(おも)()す。
(そういえば、お(かあ)さんが()ってた……1週間前(しゅうかんまえ)に、小学生(しょうがくせい)何人(なんにん)かいなくなったって)
 來璃(らる)那成(ななる)(ほか)をすり()わせると、那成(ななる)は1週間前(しゅうかんまえ)から“ここ”にいたことになる。
(でも、()って。スーパーが停電(ていでん)したのはさっきなのに……)
 那成(ななる)一体(いったい)どこにいたのだろうか?

 その疑問(ぎもん)(こた)えるのは、(ほか)でもない、那成(ななる)だった。


「そっか……やっぱり、そういうことなんだ。ここは、スーパーであって、スーパーじゃない……どこか、(べつ)世界(せかい)なんだよ」

「べ、(べつ)の、世界(せかい)……っ?」

(きゅう)にあたりが()(くら)になって、いつの()にか大人(おとな)がいなくなってた。このスーパーにいるのはあの()ぐるみと、(ぼく)たちだけ」

「……()(まえ)(ひと)人形(にんぎょう)になったんだ。それくらいのふしぎは(しん)じるけど、あんたは1週間(しゅうかん)もどうやって()(のこ)ったんだ?」


 永亜(とあ)(たず)ねると、那成(ななる)(ちから)なく(わら)って、バックヤードを見回(みまわ)す。
 (ひろ)いこの空間(くうかん)には、たくさんの(だん)ボールが()()げられていた。


「どうしてかは()からないけど、あの()ぐるみは(とびら)()けられないみたいでね。ここには絶対(ぜったい)(はい)ってこないんだ」


(とびら)を、()けられない……?)
 乃花(のか)那成(ななる)のうしろの(とびら)()つめる。


「そしてここには、懐中電灯(かいちゅうでんとう)や、たくさんの()(もの)()(もの)があった。だから(ぼく)は、ずっとここにいたんだ。(たす)けが()るのを()って」

(たす)け……ね。あんたが1週間(しゅうかん)もここにいたってことは、その(たす)けってのはこないんだろ」

「え……」

「……お(にい)ちゃん……」


 永亜(とあ)のするどい質問(しつもん)に、乃花(のか)も、來璃(らる)那成(ななる)()て、(こた)えを()った。
 那成(ななる)視線(しせん)()として(くちびる)()(むす)ぶと、3秒間(びょうかん)だまりこんでから、(くち)(ひら)く。


「ここが、(べつ)世界(せかい)……(うら)のスーパーなら、(まよ)いこんでしまった(ぼく)たちしか、ここの存在(そんざい)()らない。だから……」


()ってても、(たす)けは、こない……?)
 那成(ななる)(くち)にできなかった言葉(ことば)理解(りかい)した乃花(のか)は、ふるえる()(くち)()さえた。


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