裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

3,ピカピカうさぎ

約(やく)2,100字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)6分(ぷん))



「お前(まえ)たち2人(ふたり)だけか? 他(ほか)に人(ひと)は?」

「ううん、誰(だれ)もいないよ。この子(こ)と蕗咲(ろさ)の2人(ふたり)だけ」

「……」


 女(おんな)の子(こ)の話(はなし)を聞(き)いて眉(まゆ)を下(さ)げた乃花(のか)は、ちらちらと永亜(とあ)の横顔(よこがお)を見(み)る。
(まさか、男(おとこ)の子(こ)が瀬戸川(せとがわ)くんだったなんて……どうしよう、あとで文句(もんく)を言(い)われたりしないかな?)


「そっちは? 誰(だれ)も見(み)なかったの?」

「あぁ。俺(おれ)と土谷(つちや)の2人(ふたり)だけだ」


 名前(なまえ)を呼(よ)ばれた乃花(のか)は、ピクッと肩(かた)をゆらした。


「土谷(つちや)?」

「あ、私(わたし)だよ。土谷(つちや)乃花(のか)」

「そうなんだ! 蕗咲(ろさ)は、福浜(ふくはま)蕗咲(ろさ)。4年生(ねんせい)だよ」

「……飛(とび)、來璃(らる)。2年生(ねんせい)」

「俺(おれ)は瀬戸川(せとがわ)永亜(とあ)。5年(ねん)だ」

「あ、私(わたし)も5年生(ねんせい)だよ。よろしくね」


 全員(ぜんいん)で自己紹介(じこしょうかい)をしたあと、乃花(のか)は胸(むね)の前(まえ)で右手(みぎて)をにぎりこむ。
(私(わたし)たちが、一番年上(いちばんとしうえ)なんだ……じゃあ、私(わたし)たちがしっかりしないと)
 ゴクリとつばを飲(の)んでから、乃花(のか)は蕗咲(ろさ)や來璃(らる)を見回(みまわ)してほほえんだ。


「えっと、蕗咲(ろさ)ちゃんと來璃(らる)ちゃんもお母(かあ)さんとはぐれちゃったの?」

「うん、そうなの」

「……うん」

「そっか。私(わたし)もそうなんだ。それじゃあ、みんなで一緒(いっしょ)に、誰(だれ)か大人(おとな)の人(ひと)がいないか探(さが)そっか」

「うん!」


 ニコッと笑(わら)って返事(へんじ)をした蕗咲(ろさ)を見(み)て、乃花(のか)も笑顔(えがお)を返(かえ)す。
 それからあたりを見(み)て、冷蔵(れいぞう)コーナーの商品(しょうひん)だなからは明(あか)かりがもれていることを確認(かくにん)した。
(このあかりが届(とど)く場所(ばしょ)から、お母(かあ)さんを探(さが)せば……)


「……あ」

「なんだ?」

「……あそこ」


 來璃(らる)の声(こえ)を聞(き)いて、乃花(のか)が來璃(らる)の指(ゆび)さす先(さき)を見(み)ると、そこには電飾(でんしょく)を巻(ま)きつけて、ピカピカと光(ひか)るうさぎの着(き)ぐるみがいた。
 冷蔵(れいぞう)コーナーから離(はな)れていて、あたりは真(ま)っ暗闇(くらやみ)なのに、うさぎの着(き)ぐるみの周(まわ)りだけ明(あか)るくなっている。
 しかし、下(した)からの明(あ)かりで、出(で)っ張(ぱ)った鼻(はな)の上(うえ)、目(め)の間(あいだ)などが影(かげ)になっているせいか、明(あか)るいスーパーで見(み)たときよりも不気味(ぶきみ)さが増(ま)していた。
(ひっ……怖(こわ)い!)

 乃花(のか)は思(おも)わず一歩下(いっぽさが)がってしまったが、永亜(とあ)や來璃(らる)は動(どう)じていないようだ。
 それどころか、蕗咲(ろさ)は「うさぎさん!」と表情(ひょうじょう)を明(あか)るくした。


「ねぇ、乃花(のか)お姉(ねえ)さん、あのうさぎさんにみんながどこにいるか聞(き)いてみようよ!」

「えっ……あ、あのうさぎに……?」

「……ピカピカうさぎさん」

「店(みせ)の着(き)ぐるみか……? 停電(ていでん)になったから、助(たす)けにきたのかもな」


 腰(こし)が引(ひ)けているのは、乃花(のか)だけである。
(ピカピカうさぎ……で、でも、あんなに不気味(ぶきみ)なのに……近(ちか)づくの……?)
 乃花(のか)は眉(まゆ)も、口(くち)のはしも下(した)げて、歩(ある)きながらこちらに近(ちか)づいてくる“ピカピカうさぎ”を見(み)つめた。
 蕗咲(ろさ)は結局(けっきょく)、乃花(のか)の答(こた)えを待(ま)たずに「蕗咲(ろさ)行(い)ってくるね!」と小走(こばし)りでピカピカうさぎのほうへ行(い)ってしまう。

 乃花(のか)はあわてて、蕗咲(ろさ)のあとを追(お)いかけた。


「ま、待(ま)って、蕗咲(ろさ)ちゃん! 私(わたし)も一緒(いっしょ)に行(い)くから……っ」


 ピカピカうさぎの不気味(ぶきみ)な顔(かお)に目(め)を向(む)けないよう、視線(しせん)を下(さ)げながら走(はし)る乃花(のか)のうしろを、永亜(とあ)と來璃(らる)も歩(ある)きながらついてくる。
 お互(たが)いに近(ちか)づいていることで、ピカピカうさぎとの距離(きょり)がちぢまるのはわずか数秒(すうびょう)のことであった。
 蕗咲(ろさ)があと数歩(すうほ)でピカピカうさぎに触(ふ)れられる、という位置(いち)まで近(ちか)づくと、乃花(のか)たちのうしろのほうから、知(し)らない男(おとこ)の子(こ)の声(こえ)がひびく。


「危(あぶ)ない! そいつに近(ちか)づかないで!」

「えっ……?」


 乃花(のか)が思(おも)わず振(ふ)り向(む)くと、永亜(とあ)と來璃(らる)のさらにうしろに、懐中電灯(かいちゅうでんとう)を持(も)った男(おとこ)の子(こ)が立(た)っていた。


「わっ!」


 蕗咲(ろさ)のおどろく声(こえ)が聞(き)こえて、前(まえ)に視線(しせん)を戻(もど)した乃花(のか)は、ピカピカうさぎに抱(だ)き上(あ)げられた蕗咲(ろさ)の姿(すがた)を目撃(もくげき)する。
(近(ちか)づかないでって……あのピカピカうさぎに?)
 とつぜん現(あらわ)れた男(おとこ)の子(こ)の言葉(ことば)に、どう動(うご)けばいいのか乃花(のか)がとまどっていると。


『いっしょに あそぼう』


 ピカピカうさぎが高(たか)い声(こえ)を発(はっ)した。

 ――そして、蕗咲(ろさ)の姿(すがた)が一瞬(いっしゅん)で変(か)わってしまう。
 ぐでっと、力(ちから)が抜(ぬ)けたようにかしげられた頭(あたま)から垂(た)れ下(さ)がるはずの髪(かみ)は、固(かた)められたように、頭(あたま)からまっすぐ伸(の)びたまま。
 カランッと音(おと)を立(た)てて体(からだ)にぶつかった腕(うで)や足(あし)には、ひじやひざの部分(ぶぶん)に、ピノキオのようなつなぎ目(め)ができていた。

(えっ……人形(にんぎょう)に、なっちゃった……?)


「なっ!?」

「……!!」


 ピカピカうさぎが蕗咲(ろさ)を床(ゆか)に下(お)ろすと、蕗咲(ろさ)は乃花(のか)のほうへ、カンッと音(おと)を立(た)ててあお向(む)けに倒(たお)れる。
 ピカピカうさぎに照(て)らされたその顔(かお)が、蕗咲(ろさ)そっくりの、絵(え)の具(ぐ)で描(か)いたような顔(かお)に変(か)わってしまっているのを見(み)て、乃花(のか)は悲鳴(ひめい)をあげた。


「キャァァァァ!」


(なんで、なんでっ!? なんで蕗咲(ろさ)ちゃんが人形(にんぎょう)にっ!?)
 パニックになって、一歩下(いっぽさ)がる乃花(のか)の背中(せなか)へ、また先(さき)ほどの男(おとこ)の子(こ)の声(こえ)がかけられる。


「みんな逃(に)げて! こっちへ来(く)るんだ!」

「いやっ、いやっ……なんで……っ!?」


 乃花(のか)はフルフルと首(くび)を横(よこ)に振(ふ)りながら、ふるえる手(て)を両手(りょうて)でにぎりこんだ。
 蕗咲(ろさ)の顔(かお)に当(あ)たる光(ひかり)が移動(いどう)したのを見(み)て視線(しせん)を上(あ)げると、ピカピカうさぎが不気味(ぶきみ)な顔(かお)をしたまま乃花(のか)のほうへ近(ちか)づいてくる。


「あ……あ……っ」


 一歩(いっぽ)、二歩(にほ)、三歩(さんぽ)。
 ふるえたまま動(うご)けずに、ただ近(ちか)づいてくるピカピカうさぎを見(み)つめていた乃花(のか)の二(に)の腕(うで)を、永亜(とあ)がうしろからガシッとつかんだ。


「逃(に)げるぞ、土谷(つちや)!」



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