(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

3,ピカピカうさぎ

(やく)2,100()()()わるまで(やく)(ぷん)



「お(まえ)たち2人(ふたり)だけか? (ほか)(ひと)は?」

「ううん、(だれ)もいないよ。この()蕗咲(ろさ)2人(ふたり)だけ」

「……」


 (おんな)()(はなし)()いて(まゆ)()げた乃花(のか)は、ちらちらと永亜(とあ)横顔(よこがお)()る。
(まさか、(おとこ)()瀬戸川(せとがわ)くんだったなんて……どうしよう、あとで文句(もんく)()われたりしないかな?)


「そっちは? (だれ)()なかったの?」

「あぁ。(おれ)土谷(つちや)2人(ふたり)だけだ」


 名前(なまえ)()ばれた乃花(のか)は、ピクッと(かた)をゆらした。


土谷(つちや)?」

「あ、(わたし)だよ。土谷(つちや)乃花(のか)

「そうなんだ! 蕗咲(ろさ)は、福浜(ふくはま)蕗咲(ろさ)。4年生(ねんせい)だよ」

「……(とび)來璃(らる)。2年生(ねんせい)

(おれ)瀬戸川(せとがわ)永亜(とあ)。5(ねん)だ」

「あ、(わたし)も5年生(ねんせい)だよ。よろしくね」


 全員(ぜんいん)自己紹介(じこしょうかい)をしたあと、乃花(のか)(むね)(まえ)右手(みぎて)をにぎりこむ。
(わたし)たちが、一番年上(いちばんとしうえ)なんだ……じゃあ、(わたし)たちがしっかりしないと)
 ゴクリとつばを()んでから、乃花(のか)蕗咲(ろさ)來璃(らる)見回(みまわ)してほほえんだ。


「えっと、蕗咲(ろさ)ちゃんと來璃(らる)ちゃんもお(かあ)さんとはぐれちゃったの?」

「うん、そうなの」

「……うん」

「そっか。(わたし)もそうなんだ。それじゃあ、みんなで一緒(いっしょ)に、(だれ)大人(おとな)(ひと)がいないか(さが)そっか」

「うん!」


 ニコッと(わら)って返事(へんじ)をした蕗咲(ろさ)()て、乃花(のか)笑顔(えがお)(かえ)す。
 それからあたりを()て、冷蔵(れいぞう)コーナーの商品(しょうひん)だなからは(あか)かりがもれていることを確認(かくにん)した。
(このあかりが(とど)場所(ばしょ)から、お(かあ)さんを(さが)せば……)


「……あ」

「なんだ?」

「……あそこ」


 來璃(らる)(こえ)()いて、乃花(のか)來璃(らる)(ゆび)さす(さき)()ると、そこには電飾(でんしょく)()きつけて、ピカピカと(ひか)るうさぎの()ぐるみがいた。
 冷蔵(れいぞう)コーナーから(はな)れていて、あたりは()暗闇(くらやみ)なのに、うさぎの()ぐるみの(まわ)りだけ(あか)るくなっている。
 しかし、(した)からの()かりで、()()った(はな)(うえ)()(あいだ)などが(かげ)になっているせいか、(あか)るいスーパーで()たときよりも不気味(ぶきみ)さが()していた。
(ひっ……(こわ)い!)

 乃花(のか)(おも)わず一歩下(いっぽさが)がってしまったが、永亜(とあ)來璃(らる)(どう)じていないようだ。
 それどころか、蕗咲(ろさ)は「うさぎさん!」と表情(ひょうじょう)(あか)るくした。


「ねぇ、乃花(のか)(ねえ)さん、あのうさぎさんにみんながどこにいるか()いてみようよ!」

「えっ……あ、あのうさぎに……?」

「……ピカピカうさぎさん」

(みせ)()ぐるみか……? 停電(ていでん)になったから、(たす)けにきたのかもな」


 (こし)()けているのは、乃花(のか)だけである。
(ピカピカうさぎ……で、でも、あんなに不気味(ぶきみ)なのに……(ちか)づくの……?)
 乃花(のか)(まゆ)も、(くち)のはしも(した)げて、(ある)きながらこちらに(ちか)づいてくる“ピカピカうさぎ”を()つめた。
 蕗咲(ろさ)結局(けっきょく)乃花(のか)(こた)えを()たずに「蕗咲(ろさ)()ってくるね!」と小走(こばし)りでピカピカうさぎのほうへ()ってしまう。
 乃花(のか)はあわてて、蕗咲(ろさ)のあとを()いかけた。


「ま、()って、蕗咲(ろさ)ちゃん! (わたし)一緒(いっしょ)()くから……っ」


 ピカピカうさぎの不気味(ぶきみ)(かお)()()けないよう、視線(しせん)()げながら(はし)乃花(のか)のうしろを、永亜(とあ)來璃(らる)(ある)きながらついてくる。
 お(たが)いに(ちか)づいていることで、ピカピカうさぎとの距離(きょり)がちぢまるのはわずか数秒(すうびょう)のことであった。
 蕗咲(ろさ)があと数歩(すうほ)でピカピカうさぎに()れられる、という位置(いち)まで(ちか)づくと、乃花(のか)たちのうしろのほうから、()らない(おとこ)()(こえ)がひびく。


(あぶ)ない! そいつに(ちか)づかないで!」

「えっ……?」


 乃花(のか)(おも)わず()()くと、永亜(とあ)來璃(らる)のさらにうしろに、懐中電灯(かいちゅうでんとう)()った(おとこ)()()っていた。


「わっ!」


 蕗咲(ろさ)のおどろく(こえ)()こえて、(まえ)視線(しせん)(もど)した乃花(のか)は、ピカピカうさぎに()()げられた蕗咲(ろさ)姿(すがた)目撃(もくげき)する。
(ちか)づかないでって……あのピカピカうさぎに?)
 とつぜん(あらわ)れた(おとこ)()言葉(ことば)に、どう(うご)けばいいのか乃花(のか)がとまどっていると。


『いっしょに あそぼう』


 ピカピカうさぎが(たか)(こえ)(はっ)した。

 ――そして、蕗咲(ろさ)姿(すがた)一瞬(いっしゅん)()わってしまう。
 ぐでっと、(ちから)()けたようにかしげられた(あたま)から()()がるはずの(かみ)は、(かた)められたように、(あたま)からまっすぐ()びたまま。
 カランッと(おと)()てて(からだ)にぶつかった(うで)(あし)には、ひじやひざの部分(ぶぶん)に、ピノキオのようなつなぎ()ができていた。

(えっ……人形(にんぎょう)に、なっちゃった……?)


「なっ!?」

「……!!」


 ピカピカうさぎが蕗咲(ろさ)(ゆか)()ろすと、蕗咲(ろさ)乃花(のか)のほうへ、カンッと(おと)()ててあお()けに(たお)れる。
 ピカピカうさぎに()らされたその(かお)が、蕗咲(ろさ)そっくりの、()()()いたような(かお)()わってしまっているのを()て、乃花(のか)悲鳴(ひめい)をあげた。


「キャァァァァ!」


(なんで、なんでっ!? なんで蕗咲(ろさ)ちゃんが人形(にんぎょう)にっ!?)
 パニックになって、一歩下(いっぽさ)がる乃花(のか)背中(せなか)へ、また(さき)ほどの(おとこ)()(こえ)がかけられる。


「みんな()げて! こっちへ()るんだ!」

「いやっ、いやっ……なんで……っ!?」


 乃花(のか)はフルフルと(くび)(よこ)()りながら、ふるえる()両手(りょうて)でにぎりこんだ。
 蕗咲(ろさ)(かお)()たる(ひかり)移動(いどう)したのを()視線(しせん)()げると、ピカピカうさぎが不気味(ぶきみ)(かお)をしたまま乃花(のか)のほうへ(ちか)づいてくる。


「あ……あ……っ」


 一歩(いっぽ)二歩(にほ)三歩(さんぽ)
 ふるえたまま(うご)けずに、ただ(ちか)づいてくるピカピカうさぎを()つめていた乃花(のか)()(うで)を、永亜(とあ)がうしろからガシッとつかんだ。


()げるぞ、土谷(つちや)!」



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