(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

2,()(くら)なスーパー

(やく)2,000()()()わるまで(やく)(ぷん)


 サァッと(あお)ざめた乃花(のか)は、商品(しょうひん)だなに左手(ひだりて)()てながら(ある)(はじ)める。
(だれ)か、(ひと)(さが)そう! そうすればきっと、お(かあ)さんとも合流(ごうりゅう)できるはず……!)


「お(かあ)さん……」


 ()(くら)でなにも()えなくても、乃花(のか)はキョロキョロと(かお)(うご)かしながら、(ちい)さな(こえ)()びかけた。
 そんな乃花(のか)(こえ)()()すように、(とお)くから「ママー!」と(さき)ほどの(おんな)()()びかける(こえ)()こえる。
 (すく)なくとも、自分1人(じぶんひとり)ではないと()かるその(こえ)に、乃花(のか)はホッと(いき)()きつつも、右手(みぎて)(むね)(まえ)でにぎりこんだ。
(あの()私以外(わたしいがい)(だれ)もいないのかな……? 本当(ほんとう)神隠(かみかく)しにあっちゃったの……?)

 ゾワゾワと、幽霊(ゆうれい)()背中(せなか)をなでられているように(かん)じた乃花(のか)は、(まえ)()(あし)(はや)める。
 そのとき、カンッと足元(あしもと)から木製(もくせい)のなにかにぶつかったような(おと)がした。
 実際(じっさい)乃花(のか)のつま(さき)にもなにか(かた)いものが()たった感触(かんしょく)がする。
(な、なに……っ!? なにか()ちてる?)

 商品(しょうひん)だなに()()てたままでは、(ゆか)()ちていたなにかをまた()ってしまう。
 乃花(のか)渋々(しぶしぶ)商品(しょうひん)だなから(はな)れて、(いま)までよりもゆっくり、ゆっくり(ある)いていった。
 7()ほど(ある)いたとき、乃花(のか)はまたドンッと、つま(さき)から(かお)まで、なにかにぶつかる。


「わっ」

「って……」

「ひっ!?」


 すぐ()(まえ)から(おとこ)()(こえ)がしたことにおどろいて、乃花(のか)悲鳴(ひめい)をあげた。
 しかし、ハッと()()(なお)す。
(ひと)がいた!)


「ご、ごめんなさいっ。あの、(わたし)、お(かあ)さんとはぐれちゃって……!」

「……(おれ)も、(にい)ちゃんとはぐれた」

「そ、そうなんだ……あの、一緒(いっしょ)にいてもいいかな……?」

「いいけど。(おれ)状況(じょうきょう)()かるわけじゃないぞ」

「そ、それでもっ、1人(ひとり)だと、(こわ)い、から……」


 乃花(のか)(まえ)にいる(おとこ)()は「そうか」と(こた)えてから、なにも()わなくなる。
 乃花(のか)暗闇(くらやみ)(なか)をキョロキョロと見回(みまわ)して、(すこ)()()ばしながら(くち)()いた。


「ど、どこにいるの?」

「……ここにいる」

「キャァッ!」


 ポン、と、とつぜん(かた)をたたかれた乃花(のか)(おも)わず悲鳴(ひめい)をあげてから、ドクドクと(はや)鼓動(こどう)をきざむ(むね)()さえる。
(び、びっくりした……)
 それでも、(かた)()った()(はな)れていくと(つよ)不安(ふあん)におそわれて、乃花(のか)(はな)れた()(さが)すように、両手(りょうて)(うご)かした。
 指先(ゆびさき)にあたったやわらかい(ぬく)もりを(つか)まえるように、ギュッと(おとこ)()()をにぎりこむと、「お(まえ)さ」と(おとこ)()()う。


(まえ)()えてないの? だったら、10秒目(びょうめ)をつぶってみろ」

「え……? う、うん……」


 ()われるままに()をつぶった乃花(のか)は、(こころ)(なか)で10秒数(びょうかぞ)える。
(5……6……7……8……9……10……)
 そして()()けると、相変(あいか)わらず(くら)くはあったものの、うっすらと(ちか)くにあるものが()えるようになった。
 (かお)はハッキリと()えないが、()(まえ)にいる(おとこ)()姿(すがた)もよく()える。


「わ、ちょっと()えるようになった! すごい……」

「これで(すこ)しは(ある)けるだろ」


 そう()って、(ある)(はじ)めた(おとこ)()()いていかれないよう、乃花(のか)はあわてて(あし)(うご)かした。
(この(おとこ)()のしゃべり(かた)、ちょっと瀬戸川(せとがわ)くんに()てるような……)
 乃花(のか)(まえ)(ある)(おとこ)()()て、(おな)じクラスの(おとこ)()(おも)()かべる。
 瀬戸川(せとがわ)永亜(とあ)は、中学生(ちゅうがくせい)不良(ふりょう)とよく一緒(いっしょ)にいるとうわさの、クールな(おとこ)()だ。
 クラスではいつも1人(ひとり)で、毎回(まいかい)テストで100(てん)をとる(あたま)のいい(おとこ)()ではあるものの、乃花(のか)はぶっきらぼうな態度(たいど)苦手(にがて)(おも)っている。

(でも、一緒(いっしょ)にいてくれる(ぶん)瀬戸川(せとがわ)くんよりやさしいな)
 ぶっきらぼうなしゃべり(かた)永亜(とあ)(おも)()したものの、乃花(のか)()(まえ)(おとこ)()苦手(にがて)(おも)うことなく、あたりに視線(しせん)()けた。
 (まえ)(ある)(おとこ)()(よこ)にそれたかと(おも)うと、通路(つうろ)()(なか)(おお)きな人形(にんぎょう)(てん)がっているのが()える。


「わっ……な、なんでこんなところに人形(にんぎょう)が……?」

「さぁな」


 手足(てあし)()がっている様子(ようす)()ると、その人形(にんぎょう)はピノキオのように、関節(かんせつ)(うご)(つく)りのようだ。
 (まゆ)()げて、(おとこ)()()をにぎる()にキュッと(ちから)をこめながら(ある)いた乃花(のか)は、(さき)のほうにぼんやりとした薄明(うすあ)かりを()つけて「あ!」と(こえ)をあげる。


()かりがついてるよ」

「あぁ」


 2人(ふたり)足早(あしばや)()かりのほうを目指(めざ)した。
 商品(しょうひん)だなにはさまれた通路(つうろ)()()すと、その()かりの正体(しょうたい)冷蔵(れいぞう)コーナーの商品(しょうひん)だなだと()かる。
 かすかな、けれど暗闇(くらやみ)(なか)では十分(じゅうぶん)()かりの(まえ)2人(ふたり)(おんな)()がいるのを()つけて、乃花(のか)()(まる)くした。


「あ、まだ(ひと)がいた!」

「……」


 (かた)につくかつかないか、という(かみ)一束(ひとたば)とって、(あたま)(よこ)(たか)いところで(むす)んでいる(おんな)()は、(とお)くから()こえた(こえ)(あるじ)のようだった。
 そのとなりの、彼女(かのじょ)よりも()(ひく)(おんな)()は、両手(りょうて)でくまのぬいぐるみを()きしめて、じっと乃花(のか)たちのほうを()る。


「……()どもだけ、か」


 ぽつりとつぶやいた(おとこ)()(かお)()乃花(のか)は、()見開(みひら)きながら、パッと()(はな)した。


「せ、瀬戸川(せとがわ)、くん……」


 名前(なまえ)()ばれた永亜(とあ)は、ちらりと乃花(のか)()ると、なにも()わず2人(ふたり)(おんな)()(ちか)づいた。


(※無断転載禁止(むだんてんさいきんし)