裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

2,真(ま)っ暗(くら)なスーパー

約(やく)2,000字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)6分(ぷん))


 サァッと青(あお)ざめた乃花(のか)は、商品(しょうひん)だなに左手(ひだりて)を当(あ)てながら歩(ある)き始(はじ)める。
(誰(だれ)か、人(ひと)を探(さが)そう! そうすればきっと、お母(かあ)さんとも合流(ごうりゅう)できるはず……!)


「お母(かあ)さん……」


 真(ま)っ暗(くら)でなにも見(み)えなくても、乃花(のか)はキョロキョロと顔(かお)を動(うご)かしながら、小(ちい)さな声(こえ)で呼(よ)びかけた。
 そんな乃花(のか)の声(こえ)を打(う)ち消(け)すように、遠(とお)くから「ママー!」と先(さき)ほどの女(おんな)の子(こ)が呼(よ)びかける声(こえ)が聞(き)こえる。
 少(すく)なくとも、自分1人(じぶんひとり)ではないと分(わ)かるその声(こえ)に、乃花(のか)はホッと息(いき)を吐(は)きつつも、右手(みぎて)を胸(むね)の前(まえ)でにぎりこんだ。
(あの子(こ)と私以外(わたしいがい)、誰(だれ)もいないのかな……? 本当(ほんとう)に神隠(かみかく)しにあっちゃったの……?)

 ゾワゾワと、幽霊(ゆうれい)の手(て)に背中(せなか)をなでられているように感(かん)じた乃花(のか)は、前(まえ)に出(だ)す足(あし)を速(はや)める。
 そのとき、カンッと足元(あしもと)から木製(もくせい)のなにかにぶつかったような音(おと)がした。
 実際(じっさい)、乃花(のか)のつま先(さき)にもなにか硬(かた)いものが当(あ)たった感触(かんしょく)がする。
(な、なに……っ!? なにか落(お)ちてる?)

 商品(しょうひん)だなに手(て)を当(あ)てたままでは、床(ゆか)に落(お)ちていたなにかをまた蹴(け)ってしまう。
 乃花(のか)は渋々(しぶしぶ)、商品(しょうひん)だなから離(はな)れて、今(いま)までよりもゆっくり、ゆっくり歩(ある)いていった。
 7歩(ほ)ほど歩(ある)いたとき、乃花(のか)はまたドンッと、つま先(さき)から顔(かお)まで、なにかにぶつかる。


「わっ」

「って……」

「ひっ!?」


 すぐ目(め)の前(まえ)から男(おとこ)の子(こ)の声(こえ)がしたことにおどろいて、乃花(のか)は悲鳴(ひめい)をあげた。
 しかし、ハッと気(き)を取(と)り直(なお)す。
(人(ひと)がいた!)


「ご、ごめんなさいっ。あの、私(わたし)、お母(かあ)さんとはぐれちゃって……!」

「……俺(おれ)も、兄(にい)ちゃんとはぐれた」

「そ、そうなんだ……あの、一緒(いっしょ)にいてもいいかな……?」

「いいけど。俺(おれ)も状況(じょうきょう)が分(わ)かるわけじゃないぞ」

「そ、それでもっ、1人(ひとり)だと、怖(こわ)い、から……」


 乃花(のか)の前(まえ)にいる男(おとこ)の子(こ)は「そうか」と答(こた)えてから、なにも言(い)わなくなる。
 乃花(のか)は暗闇(くらやみ)の中(なか)をキョロキョロと見回(みまわ)して、少(すこ)し手(て)を伸(の)ばしながら口(くち)を開(き)いた。


「ど、どこにいるの?」

「……ここにいる」

「キャァッ!」


 ポン、と、とつぜん肩(かた)をたたかれた乃花(のか)は思(おも)わず悲鳴(ひめい)をあげてから、ドクドクと速(はや)い鼓動(こどう)をきざむ胸(むね)を押(お)さえる。
(び、びっくりした……)
 それでも、肩(かた)に乗(の)った手(て)が離(はな)れていくと強(つよ)い不安(ふあん)におそわれて、乃花(のか)は離(はな)れた手(て)を探(さが)すように、両手(りょうて)を動(うご)かした。
 指先(ゆびさき)にあたったやわらかい温(ぬく)もりを捕(つか)まえるように、ギュッと男(おとこ)の子(こ)の手(て)をにぎりこむと、「お前(まえ)さ」と男(おとこ)の子(こ)が言(い)う。


「前(まえ)、見(み)えてないの? だったら、10秒目(びょうめ)をつぶってみろ」

「え……? う、うん……」


 言(い)われるままに目(め)をつぶった乃花(のか)は、心(こころ)の中(なか)で10秒数(びょうかぞ)える。
(5……6……7……8……9……10……)
 そして目(め)を開(あ)けると、相変(あいか)わらず暗(くら)くはあったものの、うっすらと近(ちか)くにあるものが見(み)えるようになった。
 顔(かお)はハッキリと見(み)えないが、目(め)の前(まえ)にいる男(おとこ)の子(こ)の姿(すがた)もよく見(み)える。


「わ、ちょっと見(み)えるようになった! すごい……」

「これで少(すこ)しは歩(ある)けるだろ」


 そう言(い)って、歩(ある)き始(はじ)めた男(おとこ)の子(こ)に置(お)いていかれないよう、乃花(のか)はあわてて足(あし)を動(うご)かした。
(この男(おとこ)の子(こ)のしゃべり方(かた)、ちょっと瀬戸川(せとがわ)くんに似(に)てるような……)
 乃花(のか)は前(まえ)を歩(ある)く男(おとこ)の子(こ)を見(み)て、同(おな)じクラスの男(おとこ)の子(こ)を思(おも)い浮(う)かべる。
 瀬戸川(せとがわ)永亜(とあ)は、中学生(ちゅうがくせい)の不良(ふりょう)とよく一緒(いっしょ)にいるとうわさの、クールな男(おとこ)の子(こ)だ。

 クラスではいつも1人(ひとり)で、毎回(まいかい)テストで100点(てん)をとる頭(あたま)のいい男(おとこ)の子(こ)ではあるものの、乃花(のか)はぶっきらぼうな態度(たいど)を苦手(にがて)に思(おも)っている。
(でも、一緒(いっしょ)にいてくれる分(ぶん)、瀬戸川(せとがわ)くんよりやさしいな)
 ぶっきらぼうなしゃべり方(かた)で永亜(とあ)を思(おも)い出(で)したものの、乃花(のか)は目(め)の前(まえ)の男(おとこ)の子(こ)を苦手(にがて)に思(おも)うことなく、あたりに視線(しせん)を向(む)けた。
 前(まえ)を歩(ある)く男(おとこ)の子(こ)が横(よこ)にそれたかと思(おも)うと、通路(つうろ)の真(ま)ん中(なか)に大(おお)きな人形(にんぎょう)が転(てん)がっているのが見(み)える。


「わっ……な、なんでこんなところに人形(にんぎょう)が……?」

「さぁな」


 手足(てあし)が曲(ま)がっている様子(ようす)を見(み)ると、その人形(にんぎょう)はピノキオのように、関節(かんせつ)が動(うご)く造(つく)りのようだ。
 眉(まゆ)を下(さ)げて、男(おとこ)の子(こ)の手(て)をにぎる手(て)にキュッと力(ちから)をこめながら歩(ある)いた乃花(のか)は、先(さき)のほうにぼんやりとした薄明(うすあ)かりを見(み)つけて「あ!」と声(こえ)をあげる。


「明(あ)かりがついてるよ」

「あぁ」


 2人(ふたり)は足早(あしばや)に明(あ)かりのほうを目指(めざ)した。
 商品(しょうひん)だなにはさまれた通路(つうろ)を抜(ぬ)け出(だ)すと、その明(あ)かりの正体(しょうたい)が冷蔵(れいぞう)コーナーの商品(しょうひん)だなだと分(わ)かる。
 かすかな、けれど暗闇(くらやみ)の中(なか)では十分(じゅうぶん)な明(あ)かりの前(まえ)に2人(ふたり)の女(おんな)の子(こ)がいるのを見(み)つけて、乃花(のか)は目(め)を丸(まる)くした。


「あ、まだ人(ひと)がいた!」

「……」


 肩(かた)につくかつかないか、という髪(かみ)を一束(ひとたば)とって、頭(あたま)の横(よこ)、高(たか)いところで結(むす)んでいる女(おんな)の子(こ)は、遠(とお)くから聞(き)こえた声(こえ)の主(あるじ)のようだった。
 そのとなりの、彼女(かのじょ)よりも背(せ)が低(ひく)い女(おんな)の子(こ)は、両手(りょうて)でくまのぬいぐるみを抱(だ)きしめて、じっと乃花(のか)たちのほうを見(み)る。


「……子(こ)どもだけ、か」


 ぽつりとつぶやいた男(おとこ)の子(こ)の顔(かお)を見(み)た乃花(のか)は、目(め)を見開(みひら)きながら、パッと手(て)を離(はな)した。


「せ、瀬戸川(せとがわ)、くん……」


 名前(なまえ)を呼(よ)ばれた永亜(とあ)は、ちらりと乃花(のか)を見(み)ると、なにも言(い)わず2人(ふたり)の女(おんな)の子(こ)に近(ちか)づいた。


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