(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

1,スーパーのうわさ

(やく)2,200()()()わるまで(やく)(ぷん)


 (おお)きいお(とも)だちがボクを(かか)えて、「()ててしまおう」と言ったよ。
 ここは()(くら)で、(ちい)さいお(とも)だちも、(おお)きいお(とも)だちも、だぁれもいない。
 ひとりぼっちでさみしいから、みんなをここに()んでこよう。
 でも、みんなはいつか(かえ)ってしまうから、ずっとここにいてくれるように、おまじないをかけようかな。

 フフフ、フフフ、(たの)しみだなぁ。
 みんなと(あそ)ぶのが、(たの)しみだなぁ。


****


 ひじに()げた()(もの)カゴへ、そうめんや味噌(みそ)を入れていく(はは)のとなりで、土谷(つちや)乃花(のか)は、ぼーっと商品(しょうひん)だなをながめていた。
 小学(しょうがく)年生(ねんせい)にもなれば、1人(ひとり)でお使(つか)いを(たの)まれることもある。
 そんなときは真剣(しんけん)()つめる値札(ねふだ)も、(はは)がとなりにいる休日(きゅうじつ)今日(きょう)は、(みち)ばたでゆれる野草(やそう)(おな)じように、(なが)()してしまう。


乃花(のか)、お菓子(かし)()ってあげる。どれがいい?」

「えっ、本当(ほんとう)? うーんとね……」


 (はは)(こえ)をかけられて、パッと表情(ひょうじょう)(あか)るくした乃花(のか)は、()(まえ)にならぶチョコレートやクッキーを()て、(かんが)えこみ(はじ)めた。
(あま)いチョコレートがいいかなぁ。でも、クッキーも()べたいな。チョコチップのクッキー? でも、チョコをたっぷり(あじ)わいたい……)
 あちこちに視線(しせん)(うご)かして、だまりこんでいる乃花(のか)()(はは)は、(まゆ)()げてせっつく。


「まったくもう、乃花(のか)はお(とう)さんに()優柔不断(ゆうじゅうふだん)なんだから。(はや)()めなさい」

「だってぇ……()まったら()っていくから、お(かあ)さん、(さき)()ってていいよ」

「ダメよ。ここのスーパーで、(おや)とはぐれて行方不明(ゆくえふめい)になった()どもがいるってうわさなんだから」


 乃花(のか)は、ピクッと(かた)をゆらして(はは)見上(みあ)げた。


行方不明(ゆくえふめい)……って?」

「ずっと(まえ)からあるうわさらしいんだけどね。1週間前(しゅうかんまえ)にも小学生(しょうがくせい)何人(なんにん)かいなくなったって、警察(けいさつ)()たらしいわ」

「え……で、でも、()つかったんだよね……?」


 (からだ)をちぢこめるように、両手(りょうて)(むね)(まえ)でにぎりながら、乃花(のか)はビクビクと(はは)()る。
 (こわ)(はなし)苦手(にがて)乃花(のか)にとっては、そのうわさはトイレの花子(はなこ)さんと(おな)じレベルの怪談(かいだん)だった。
 無事(ぶじ)解決(かいけつ)したと(みみ)にしなければ、今後(こんご)スーパーに()ってきてと()われても、とても()けそうにない。


「それが、まだ()つからないらしいのよ。ここは防犯(ぼうはん)カメラも(おお)いのに、()どもが移動(いどう)する姿(すがた)がどこにも(うつ)ってないんですって」

「えぇ……!?」

「まるで神隠(かみかく)しだって、(おお)さわぎ。そんなオカルト(ばなし)あるわけないのにねぇ」

「ど、どうして(おし)えてくれなかったの……っ!? ()ってたら、一緒(いっしょ)()なかったのに!」

「やぁね、乃花(のか)一緒(いっしょ)()たいって()ったんじゃない。ほら、()しいお菓子(かし)()ってあげるから、(はや)くえらびなさい?」


 (はは)にせっつかれた乃花(のか)は、「うぅ」と(いま)にも()きそうな(こえ)()しながら、商品(しょうひん)だなに視線(しせん)(もど)した。
(はや)くお菓子(かし)をえらんで、すぐ(かえ)ろう……!)
 お菓子(かし)をえらび()わったら、今度(こんど)乃花(のか)(はは)をせっつく(ばん)だ。
 結局(けっきょく)最初(さいしょ)()になったチョコレートを(はは)のカゴへ()れた乃花(のか)は、そのまま視線(しせん)()げて、(はは)のうしろ、ずっと(おく)(へん)()ぐるみがいることに()づいた。

 (いろ)あせたピンク(いろ)のうさぎ、という()()はまだふつうなほうで、(からだ)(ちい)さな豆電球(まめでんきゅう)電線(でんせん)、いわゆる電飾(でんしょく)()きつけているのが特徴(とくちょう)()える。
 その(うえ)白目(しろめ)(おお)きく、黒目(くろめ)(ちい)さいために、()見開(みひら)いているように()えるのが、なんとも不気味(ぶきみ)なのだ。


「お、お(かあ)さん、あれなに……?」

「え?」


 うさぎの()ぐるみと()()って(かた)をビクリとゆらした乃花(のか)は、ふるえた(こえ)(はは)()く。
 乃花(のか)視線(しせん)(さき)をたどるように()()いた(はは)は、うさぎの()ぐるみがいるほうを()(くび)をかしげた。


「なにって、なんのこと?」

「えっ? あ、あのうさぎだよ……っ!」


 (はは)()には、あのうさぎの()ぐるみがふつうの存在(そんざい)として()えるのだろうか。
 そんなおどろきを(かお)()かべたように、乃花(のか)一度(いちど)(はは)(かお)()てから、うさぎの()ぐるみを(ゆび)さそうとした。

 しかし。


「あ、あれ……?」

「うさぎ? そんなのいないじゃない」

「で、でもさっきそこに……」


 乃花(のか)は、パチパチとまばたきをしながらうさぎの()ぐるみが“いた”場所(ばしょ)()つめる。
一瞬(いっしゅん)()えちゃった……なんだったんだろう?)
 かわいいうさぎならまだしも、乃花(のか)()にしたのは不気味(ぶきみ)()わったうさぎの()ぐるみ。
 よそ()をした一瞬(いっしゅん)のすきに()えてしまったことさえ、薄気味悪(うすきみわる)い。
 乃花(のか)()(うで)をこするようにして、あたりにゆっくりと視線(しせん)をめぐらせた。

 そのとき、チカッ、チカッ、とスーパーの()かりが点滅(てんめつ)して、フッ……と周囲(しゅうい)暗闇(くらやみ)(つつ)まれる。


「えっ?」


 乃花(のか)(あたま)左右(さゆう)(うご)かして、()かりが一切見(いっさいみ)えなくなってしまったことを不本意(ふほんい)()った。
(うそ……停電(ていでん)?)
 とっさに()()ばした(さき)に、(はは)がいたはずなのに……乃花(のか)()は、スカッと、(くう)()る。


「お(かあ)さん? お(かあ)さん!」


 (はは)(ちか)くにいれば、間違(まちが)いなく「乃花(のか)、こっちよ」と返事(へんじ)()こえるはずだ。
 けれど、乃花(のか)(こえ)(ほか)()こえたのは、乃花(のか)(おな)じように(はは)()ぶ、(おんな)()(こえ)だった。


「ママー? どこー!?」


 (とお)くのほうから()こえた(こえ)意識(いしき)()けた乃花(のか)は、店内(てんない)がシーンと(しず)まり(かえ)っていることに()づいて、ゴクリとつばを()む。
 (とお)くの(おんな)()(こた)える母親(ははおや)(こえ)すら、()こえない。
(……(かみ)(かく)し……)
 乃花(のか)(あたま)には、(はは)から()いたばかりの言葉(ことば)()かんだ。


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