裏(うら)スーパーへようこそ ピカピカうさぎに捕(つか)まったら、人形(にんぎょう)に?

1,スーパーのうわさ

約(やく)2,200字(じ)(読(よ)み終(お)わるまで約(やく)6分(ぷん))


 大(おお)きいお友(とも)だちがボクを抱(かか)えて、「捨(す)ててしまおう」と言ったよ。
 ここは真(ま)っ暗(くら)で、小(ちい)さいお友(とも)だちも、大(おお)きいお友(とも)だちも、だぁれもいない。
 ひとりぼっちでさみしいから、みんなをここに呼(よ)んでこよう。
 でも、みんなはいつか帰(かえ)ってしまうから、ずっとここにいてくれるように、おまじないをかけようかな。

 フフフ、フフフ、楽(たの)しみだなぁ。
 みんなと遊(あそ)ぶのが、楽(たの)しみだなぁ。


****

 ひじに提(さ)げた買(か)い物(もの)カゴへ、そうめんや味噌(みそ)を入れていく母(はは)のとなりで、土谷(つちや)乃花(のか)は、ぼーっと商品(しょうひん)だなをながめていた。
 小学(しょうがく)5年生(ねんせい)にもなれば、1人(ひとり)でお使(つか)いを頼(たの)まれることもある。
 そんなときは真剣(しんけん)に見(み)つめる値札(ねふだ)も、母(はは)がとなりにいる休日(きゅうじつ)の今日(きょう)は、道(みち)ばたでゆれる野草(やそう)と同(おな)じように、流(なが)し見(み)してしまう。


「乃花(のか)、お菓子(かし)買(か)ってあげる。どれがいい?」

「えっ、本当(ほんとう)? うーんとね……」


 母(はは)に声(こえ)をかけられて、パッと表情(ひょうじょう)を明(あか)るくした乃花(のか)は、目(め)の前(まえ)にならぶチョコレートやクッキーを見(み)て、考(かんが)えこみ始(はじ)めた。
(甘(あま)いチョコレートがいいかなぁ。でも、クッキーも食(た)べたいな。チョコチップのクッキー? でも、チョコをたっぷり味(あじ)わいたい……)
 あちこちに視線(しせん)を動(うご)かして、だまりこんでいる乃花(のか)を見(み)た母(はは)は、眉(まゆ)を下(さ)げてせっつく。


「まったくもう、乃花(のか)はお父(とう)さんに似(に)て優柔不断(ゆうじゅうふだん)なんだから。早(はや)く決(き)めなさい」

「だってぇ……決(き)まったら持(も)っていくから、お母(かあ)さん、先(さき)に行(い)ってていいよ」


「ダメよ。ここのスーパーで、親(おや)とはぐれて行方不明(ゆくえふめい)になった子(こ)どもがいるってうわさなんだから」


 乃花(のか)は、ピクッと肩(かた)をゆらして母(はは)を見上(みあ)げた。


「行方不明(ゆくえふめい)……って?」

「ずっと前(まえ)からあるうわさらしいんだけどね。1週間前(しゅうかんまえ)にも小学生(しょうがくせい)が何人(なんにん)かいなくなったって、警察(けいさつ)が来(き)たらしいわ」

「え……で、でも、見(み)つかったんだよね……?」


 体(からだ)をちぢこめるように、両手(りょうて)を胸(むね)の前(まえ)でにぎりながら、乃花(のか)はビクビクと母(はは)を見(み)る。
 怖(こわ)い話(はなし)が苦手(にがて)な乃花(のか)にとっては、そのうわさはトイレの花子(はなこ)さんと同(おな)じレベルの怪談(かいだん)だった。
 無事(ぶじ)に解決(かいけつ)したと耳(みみ)にしなければ、今後(こんご)スーパーに行(い)ってきてと言(い)われても、とても行(い)けそうにない。


「それが、まだ見(み)つからないらしいのよ。ここは防犯(ぼうはん)カメラも多(おお)いのに、子(こ)どもが移動(いどう)する姿(すがた)がどこにも映(うつ)ってないんですって」

「えぇ……!?」

「まるで神隠(かみかく)しだって、大(おお)さわぎ。そんなオカルト話(ばなし)あるわけないのにねぇ」

「ど、どうして教(おし)えてくれなかったの……っ!? 知(し)ってたら、一緒(いっしょ)に来(こ)なかったのに!」

「やぁね、乃花(のか)が一緒(いっしょ)に来(き)たいって言(い)ったんじゃない。ほら、欲(ほ)しいお菓子(かし)買(か)ってあげるから、早(はや)くえらびなさい?」


 母(はは)にせっつかれた乃花(のか)は、「うぅ」と今(いま)にも泣(な)きそうな声(こえ)を出(だ)しながら、商品(しょうひん)だなに視線(しせん)を戻(もど)した。
(早(はや)くお菓子(かし)をえらんで、すぐ帰(かえ)ろう……!)
 お菓子(かし)をえらび終(お)わったら、今度(こんど)は乃花(のか)が母(はは)をせっつく番(ばん)だ。
 結局(けっきょく)、最初(さいしょ)に気(き)になったチョコレートを母(はは)のカゴへ入(い)れた乃花(のか)は、そのまま視線(しせん)を上(あ)げて、母(はは)のうしろ、ずっと奥(おく)に変(へん)な着(き)ぐるみがいることに気(き)づいた。

 色(いろ)あせたピンク色(いろ)のうさぎ、という見(み)た目(め)はまだふつうなほうで、体(からだ)に小(ちい)さな豆電球(まめでんきゅう)と電線(でんせん)、いわゆる電飾(でんしょく)を巻(ま)きつけているのが特徴(とくちょう)と言(い)える。
 その上(うえ)、白目(しろめ)が大(おお)きく、黒目(くろめ)が小(ちい)さいために、目(め)を見開(みひら)いているように見(み)えるのが、なんとも不気味(ぶきみ)なのだ。


「お、お母(かあ)さん、あれなに……?」

「え?」


 うさぎの着(き)ぐるみと目(め)が合(あ)って肩(かた)をビクリとゆらした乃花(のか)は、ふるえた声(こえ)で母(はは)に聞(き)く。
 乃花(のか)の視線(しせん)の先(さき)をたどるように振(ふ)り向(む)いた母(はは)は、うさぎの着(き)ぐるみがいるほうを見(み)て首(くび)をかしげた。


「なにって、なんのこと?」

「えっ? あ、あのうさぎだよ……っ!」


 母(はは)の目(め)には、あのうさぎの着(き)ぐるみがふつうの存在(そんざい)として見(み)えるのだろうか。
 そんなおどろきを顔(かお)に浮(う)かべたように、乃花(のか)は一度(いちど)母(はは)の顔(かお)を見(み)てから、うさぎの着(き)ぐるみを指(ゆび)さそうとした。

 しかし。


「あ、あれ……?」

「うさぎ? そんなのいないじゃない」

「で、でもさっきそこに……」


 乃花(のか)は、パチパチとまばたきをしながらうさぎの着(き)ぐるみが“いた”場所(ばしょ)を見(み)つめる。
(一瞬(いっしゅん)で消(き)えちゃった……なんだったんだろう?)
 かわいいうさぎならまだしも、乃花(のか)が目(め)にしたのは不気味(ぶきみ)で変(か)わったうさぎの着(き)ぐるみ。
 よそ見(み)をした一瞬(いっしゅん)のすきに消(き)えてしまったことさえ、薄気味悪(うすきみわる)い。

 乃花(のか)は二(に)の腕(うで)をこするようにして、あたりにゆっくりと視線(しせん)をめぐらせた。
 そのとき、チカッ、チカッ、とスーパーの明(あ)かりが点滅(てんめつ)して、フッ……と周囲(しゅうい)が暗闇(くらやみ)に包(つつ)まれる。


「えっ?」


 乃花(のか)は頭(あたま)を左右(さゆう)に動(うご)かして、明(あ)かりが一切見(いっさいみ)えなくなってしまったことを不本意(ふほんい)に知(し)った。
(うそ……停電(ていでん)?)
 とっさに手(て)を伸(の)ばした先(さき)に、母(はは)がいたはずなのに……乃花(のか)の手(て)は、スカッと、空(くう)を切(き)る。


「お母(かあ)さん? お母(かあ)さん!」


 母(はは)が近(ちか)くにいれば、間違(まちが)いなく「乃花(のか)、こっちよ」と返事(へんじ)が聞(き)こえるはずだ。
 けれど、乃花(のか)の声(こえ)の他(ほか)に聞(き)こえたのは、乃花(のか)と同(おな)じように母(はは)を呼(よ)ぶ、女(おんな)の子(こ)の声(こえ)だった。


「ママー? どこー!?」


 遠(とお)くのほうから聞(き)こえた声(こえ)に意識(いしき)を向(む)けた乃花(のか)は、店内(てんない)がシーンと静(しず)まり返(かえ)っていることに気(き)づいて、ゴクリとつばを飲(の)む。
 遠(とお)くの女(おんな)の子(こ)に答(こた)える母親(ははおや)の声(こえ)すら、聞(き)こえない。
(……神(かみ)、隠(かく)し……)
 乃花(のか)の頭(あたま)には、母(はは)から聞(き)いたばかりの言葉(ことば)が浮(う)かんだ。


ありがとうございます👻

(※無断転載禁止(むだんてんさいきんし))