谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice ―
8,振りしぼった勇気
「……こんなところに逃げ出していたやつがいたか」
無表情で見下ろしながら、
バクバクと鳴る心臓の音が私に“逃げて”と言っているのに、こわばって動けないまま、私の腕はつかまれてしまった。
そのまま強引に引っぱられて、力の抜けた手から落ちたウィッグ一式が、踏み出した足の下敷きになってパキッと小さな音を立てる。
「……」
首輪をつけられている女の子たちの暗い目が、急に合流した私を見つめた。
おたがい、
ただ離れていく倉庫を見て、気持ちがあせるだけ。
このまま、
「だれか……たすけて……」
「……!」
ボソッと、あのポニーテールの子みたいに、ひどくかすれた小さな声が彼女たちのなかから聞こえた。
顔を向ければ、みんな倉庫を見つめて、唇をはくはくと動かしている。
でも、そこから出てくる声は、近くにいる私でも聞き取れるか怪しいくらい小さなもの。
みんな……あの倉庫に閉じ込められていたから、大きい声が出ないんだ……。
今この場で大声を出して、助けを呼べるのは……私、だけ……。
私が、助けを求めなきゃ……だれも、私たちのことを……助けてくれない。
「……っ。だれ、か……助けてっ!
すぅっと息を深く吸って、ふるえる手をにぎりながら、今までの人生で一番、大きな大きな声を出した。
パッと、女の子たちの目が私に向けられる。
「おまえ……!」
ビリビリと痛むほおを押さえると、タートルネックの胸元をつかまれる。
「オレのコレクションじゃねぇな? どこからまぎれこんだ、
「ち、が……っ」
苦しさに顔をゆがめて答えても、
でも、私の声に
「
「チッ……」
離れたところから聞こえた、知らない男子の声。
背中には
「それ以上近づけば、この女の首に傷がつくぞ!」
倉庫から出てきた
バクバクと心臓が音を立てて、呼吸が浅くなる。
「……そいつを離せ」
けわしい顔をして立ち止まる
遠くても、一改くんの顔を見たら、“助けて”と、先ほど初めて口にした言葉が胸のなかにあふれ出す。
「一改……生意気な裏切り者が。いいぞ。おまえ1人だけ、近づくことを許してやる。こっちに来い!」
「……」
「一改……!」
一改くんは
夕焼け空を背負い、あと数歩で伸ばした手がふれる、という距離まで一改くんが近づくと、とつぜん
「……!? なんだおまえら、また調教されたいのか!?」
顔を動かさず、視線を可能なかぎりうしろに向けると、首輪をつけた女の子たちが
視界のはしを横切るなにかに気づいて、一改くんに意識をもどすと、頭上でゴンッというにぶい音がして、前に腕を引かれる。
引っぱられるまま、
「……っ」
「大丈夫か」
ささやかれた声に対して、一瞬固まったあとにコクコクうなずいて答えると、一改くんはそっと私を離し、
力が抜けて座りこみながら振り向けば、女の子たちを振りはらって、ナイフを振りまわしている
「俺はあんたに負けない!」
「一改、この野郎……!」
兄弟とは言っても、あまり
ナイフを持っている相手に大丈夫かな、と眉を下げて心配する私の肩に、だれかの手がふれた。
「きみ、大丈夫か?」
そばにしゃがんで顔をのぞきこんできたのは、やっぱり知らない顔。
コクリとうなずいて答えると、「あぶないから離れてるんだ」と彼は一改くんたちに視線を向けながら言った。
「は、はい……」
気づけば、一改くんたちの周りで地面に座りこんでいる女の子たちのもとにも、
私は地面に手をついて立ち上がり、
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