谷底のカスミソウ ―Valor(ヴァラー) VS Malice(マリス)

3,恩人(おんじん)との再会

約2,200字(読了まで約6分)


 倉庫わきに()めていたバイクに次々とまたがるMalice(マリス)の人たちを見て、“自分は運転できない”と自己(じこ)申告(しんこく)すると、私は茶髪の男子のうしろに乗せられた。
 走り出したバイクから落ちないように、必死でシートにつかまって()えることしばらく。
 どこかの路地裏にバイクが止まって、地面に足を下ろすことができたとき、私の腕と太ももは、“無傷”の代償(だいしょう)にプルプルとふるえていた。

 バイクなんて、初めて乗った……まだ心臓がドキドキしてる……。


「はっ、小ジカみてぇだな。気合入れろよ、新入り。Valor(ヴァラー)の倉庫はすぐそこだ」


 茶髪の男子に笑われても、ケガをすることなくバイクを下りられたことのほうがうれしい。
 バイクを停めたまま、どこかへ歩き出した茶髪の男子を追いかけて周りを見まわすと、倉庫を出たときより周囲にいる人数が減っていることに気づいた。
 そのうえ、3グループに分かれるように、数人ずつ べつの方向へ歩き出している。

 いつのまにか、グループごとのべつ行動になったらしい。


「あの……Valor(ヴァラー)ってなんですか……?」

「あん? 知らねぇで来たのかよ。澄ましたいい子チャンぞろいのムカつくチームさ」


 “チーム”……それにさっき、“Valor(ヴァラー)の倉庫”って言ってたよね……?
 攻撃しようとしてるみたいだし、Malice(マリス)と敵対してる暴走族……とかなのかな?
 評判のわるいMalice(マリス)が“いい子”って言うくらいなら、Maliceより素行のいいチーム、とか……?

 Valor(ヴァラー)の考察をしながら、茶髪の男子と、他2人の男子をふくめた4人で歩いていると、Malice(マリス)のたまり場よりもきれいな倉庫が見えた。
 その入り口から、ちょうど1人、黒髪の男子が歩いて出てきたのを見て、Malice(マリス)の人たちが「あいつ……!」と怒りのこもった低い声を出す。


「行くぞ、新入り」

「え……?」


 私に声をかけて、3人は凶悪な顔で彼の行き先を追うように歩き出した。
 もしかして……あの男子をねらってる……?
 どうしよう、私、ケンカとかできないのに……。

 それに、1人をかこむ“複数人”の一員になんて、なりたくない……。
 眉を下げながらも、あの男の子に会うまでMalice(マリス)から逃げるわけにはいかない私は、3人のうしろに遅れてついていく。
 倉庫を離れて人気(ひとけ)のない路地に入った男子の背中に追いついたのは、しばらく彼をつけ回したあとのことだった。


「おい」

「……」


 トゲのあるその一声を聞いただけで、私なら“あぁ、また不運が降ってきた”と思うだろう。
 足を止めて振り返った黒髪の彼は、切れ長の落ちついた目をまっすぐこちらに向けた。
 ――その顔を見て、目に焼き付いた姿が彼に(かさ)なる。


「え……?」


 あのときの、男の子……!?
 目を見開いて、数歩先にいる彼のととのった顔をまじまじと見つめると、形のいい赤い唇が開かれた。


「またちょっかいをかけに来たのか。俺がおまえらにやられるとでも?」

「うるせぇ! てめぇだけは絶対ぶち殺す!」

「はっ……やれるもんならやってみろ」


 冷笑であしらう顔を見つめながら、どうして、と とまどう。
 あのときはMalice(マリス)の総長と一緒にいたから、Maliceの人だと思ったのに……どうして、Maliceと敵対してるValor(ヴァラー)の倉庫から……?
 もしかしてあの男の子じゃないのかな、と一瞬浮かんだ考えは、彼が腕まくりをして見えた、左腕にある赤い傷痕(きずあと)を目にして吹き飛んだ。

 あの切り傷の痕は……私を助けてくれた、あのときの……!?


「らぁぁ!」


 声をあげて、茶髪の男子が彼になぐりかかって いったことに気づくと、ハッと息を飲む。
 思わず前に伸ばした手は宙をつかむだけだったけど、黒髪の男の子は せまるこぶしを()けて、逆に茶髪の男子をなぐり返した。


「ぐっ……! ぼさっとしてんな新入り! おまえもこいつをぶちのめせ!」


 一撃をもらったお(なか)を押さえながら、茶髪の男子が私に怒鳴る。
 でも、あの男の子に暴力を振るうなんて、私には……。
 半歩下がって眉を下げると、他のMalice(マリス)の人たちが2人同時に黒髪の男の子を攻撃した。


「あ……っ」


 彼を心配する私の目に映ったのは、彼が涼しい顔で2人の攻撃を避け、逆に2人をまとめて()り返した姿。
 私が棒立(ぼうだ)ちしているあいだにも、黒髪の男の子は「おら!」と声をあげる茶髪の男子を2発の反撃でたおした。
 この調子なら彼がケガをすることはなさそう、とMalice(マリス)の人たちにはわるいけどホッと肩を落としたとき、ドンッと背中を押される。


「え……っ」


 押されたいきおいのまま前に出ると、パッとこっちを見た黒髪の男の子と視線がからみ合って、そのまま彼にぶつかりそうになる。
 衝撃(しょうげき)覚悟(かくご)してギュッと目をつぶると、私の体に(おとず)れたのは、硬い壁にぶつかった痛みだった。


「うっ……」

「ぐぁっ!」


 特に強打した左半身を押さえながら、うめき声が聞こえたうしろを振り返ると、Malice(マリス)の1人がほおを()らして仰向(あおむ)けにたおれる。
 その前に立っているのは、やっぱり黒髪の彼だった。
 私を避けて、いつのまにか私のうしろに立っていたあの人をなぐりに行ったらしい。

 チッと舌打ちが聞こえた反対側を見ると、残ったMalice(マリス)のメンバーが1人で路地の(おく)へ走って逃げていく。


「おまえはまだやるか? それとも、あいつみたいに逃げるか?」


 トゲのにじんだ冷たい声が耳に入って、視線を黒髪の彼にもどせば、するどく見すえるような視線に射抜かれて、体がこわばった。


ありがとうございます💕

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