酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
9,本当の依頼人
「で、なにをやらかしたんだ?」
備品室についてすぐ、
「ん~、ちょっと
「動画……?」
「依頼人への提出用に
「依頼人への提出用って……」
依頼人は
来るのが間に合ったって……。
なんだか
『おい』
『あぁ、
『行ってくるッス!』
知らない会話が聞こえてきたあと、弓崎さんが別れを告げる声が流れる。
動画の再生が終わると、葛谷さんは、ふ、と笑みを浮かべた。
「なるほど、妹のほうは本物のいい子ちゃんってわけか」
「そうなんですよ。そんなところもかわいいんですけどね」
「望羽ちゃんは、か弱い女の子なんッスから、あんまり無茶しちゃダメッスよ。不良を怒らせるなんて危ないッス」
腰をかがめて、心配そうな顔でわたしの顔をのぞきこんできた
家族以外の男の人に頭をなでられたのって初めてかも……。
「度胸があるのは悪くない。だが、
「依頼に
「他の仕事ね……望羽、こっちに来い」
「は、はい……」
葛谷さんに呼ばれて目の前に移動すると、葛谷さんはわたしのあごをつまんで、右に左に顔を動かした。
「あ、あの……?」
「最初に見たときも思ったが……なかなかかわいい顔になったな」
「あ、ありがとうございます……未來先輩のおかげで……」
「ちょっと、望羽ちゃんは私のお気に入りなんですから、その顔でたぶらかさないでください」
「ふつうにしてるだけだ。……まぁ、これならハニートラップにも使えるし、他の仕事をさせるのはかまわない。が」
葛谷さんの手が離れて、一歩うしろに下がった。
なんだか、葛谷さんの近くにいるのはあんまりよくない気がする。
今のわたしの顔、きっと弓崎さんみたいになってるもの。
「望羽がやる気を
妖しく笑う葛谷さんの顔を見て、たぶん今が気になったことを聞くタイミングだと、わたしはドキドキする胸を押さえこむようにあごを引いた。
「……あの男の人は、誰なんですか? 今回の依頼人って、弓崎さんなんですよね?」
葛谷さんは目を伏せてほほえむだけで、なにも答えてくれない。
だから未來先輩にも、犬丸先輩にも目を向けた。
「望羽ちゃん、かわいいわ。ずーっと私の言葉を信じている姿を見たいけど……」
「それは未來くんがついたうそッス。今回の依頼人は、あの中武くんッスよ。中武くんがあの2人を別れさせろって依頼したッス」
「え……?」
「歩いてるときに
「あのときは
「え……」
ぐらり、と目の前がゆれたように感じる。
……うそ。うそ、つかれてたの……?
本当はあの男の人が、栗本さんと弓崎さんを別れさせようとしてたの……?
歩いてるときに、栗本さんとぶつかったから……?
そんな理由で、別れる必要のない2人を、別れさせちゃったの……?
「さぁ、どうする? うちはこんな仕事ばかりだが……茅都の秘密を守るために、悪事を働けるか? いや、働かないと……」
葛谷さんが妖しく笑いながら、ズボンのポケットに手を入れてスマホを取り出した。
悪いことをしないと、お兄ちゃんを助けられない……?
「わ、たし……」
あれ、息がしづらい……。
わたし、どうしたらいいんだろう……。
お兄ちゃん……。
くらくら、ぐらぐらとする頭が気持ち悪くて、倒れちゃいそう、なんて思っていたら、うしろからガチャンッと大きな音がした。
「はぁっ、はぁっ……! 望羽、やっぱりここに……!」
「チッ……延長はキャンセルか。しかたない」
「あら、茅都先輩、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいッス、
「……おにい、ちゃん……」
お兄ちゃんが、来た……?
ゆっくり振り返ると、こっちへ歩いてきていたお兄ちゃんと目が合う。
「望羽、かわいい……ハッ、じゃなくてどうしたの、顔色が悪いよ!?」
「お兄ちゃん……」
うつむいてだまりこむと、お兄ちゃんに抱きしめられた。
「僕の妹がお世話になったみたいだね。今は保健室に連れていったほうがいいみたいだ。今日のお礼はまた今度するよ。それじゃあ」
お兄ちゃんに抱きしめられたら、頭のくらくらも収まって、呼吸も楽になってきた。
そのままお兄ちゃんに体を支えられて、備品室の外へ連れていかれそうになったけど……。
「……待、って、お兄ちゃん……」
わたし、お兄ちゃんを助けたい。
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