酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
10,すべてのうそ
「
「ふ……お前の妹はいい子ちゃんだな。メイクのおかげで仕事は上手くいったが、危うくパァにされかけた」
「は……? まさか、望羽に手伝わせたの?」
お兄ちゃんはわたしの肩をギュッと抱いて、振り向いた。
お兄ちゃんも“なんでも屋”さんのこと、知ってるの……?
そういえば、
『
『弓崎が推してるアイドルはお前と雰囲気が似てたから、お前の顔も好きなんじゃないか、
あ……そっか。
お兄ちゃんが、2人のことを先輩たちに教えたんだ。
どうして、お兄ちゃんが……?
「わざわざ猫を被らなくてもいいぞ。お前が
「……は?」
「え……」
お兄ちゃんが、あの姿を一番知られたくなかったのは私……?
だって、
信じられない気持ちで先輩たちを見ると、未來先輩が困った顔で「あら」と言った。
「もうバラしちゃうんですか? うそを信じてる姿を見るのがいいのに……」
「真剣にやったことを
「ごめんなさいッス、
「
葛谷さんはほほえみながら、となりにある大きな段ボール箱をコンコンと指でたたいて、あの動画を流した。
先輩たちやわたしの声と姿が流れて、お兄ちゃんのいつもと違う姿も映っている。
わたしのとなりにいるお兄ちゃんが、ひどくショックを受けた、焦ったような顔でわたしを見たのを見て、ぽろっと、涙がこぼれた。
「望羽……ごめん」
お兄ちゃんがこの世の終わりみたいな、ひどい顔をして、ギュッと目をつぶりながら顔を
かすれた声だって痛々しくて、わたしはお兄ちゃんの制服をつかみながら、3人の先輩たちを見た。
「……全部、うそだったんですか。お兄ちゃんの秘密を守るために、手伝うって約束しました。それなのに、わたしが、一番知られたくない相手だったなんて」
「……望羽」
「弓崎さんが依頼したって言うから……気の毒に思いながら、栗本さんと話しました。それなのに、本当は別れる必要のなかった2人を、別れさせて……」
「「……」」
「悪いことだって、お兄ちゃんを助けるためなら、手伝おうって、すごく悩んで決めたのに……それが全部、いじわるだったんですか?」
ぽろぽろと、涙を流しながらしゃべると、先輩たちはみんなおどろいた顔をしてわたしを見つめる。
こんなことをしたら、わたしもお兄ちゃんも傷つくって、分かってたはずなのに。
横から伸びてきたお兄ちゃんの手が、わたしの目をおおって、反対の手で頭を抱き寄せられた。
「望羽、帰ろう」
「……うん」
お兄ちゃんの胸に顔を
「雨蓮、犬丸、
低く、冷たい声で言い放ったお兄ちゃんに背中を押されて、わたしは備品室の外に向かった。
でも、備品室を出る前に、ひとつ言い忘れていたことがあったと気づいて、葛谷さんたちに顔を向ける。
「
振り向いたお兄ちゃんを見て、ブレザーの胸のあたりが汚れていることに気づき、「あ」と声をもらす。
「ごめんなさい、メイクついちゃった……」
「気にしなくていいんだよ。今日は早退しようか」
「……うん」
お兄ちゃんは眉を下げてほほえみ、わたしの背中に手を添えながら歩き出した。
B棟の1階に下りてA棟へ戻ると、お兄ちゃんはわたしを職員室の前で待たせて、「失礼します」と中に入る。
わたしと、お兄ちゃんの担任の先生を呼んで、話す声が少し聞こえてきた。
「妹の具合が悪いようなので、早退させます。この時間は両親も仕事で留守にしてるので、僕も一緒に帰って妹の看病をしてもいいですか?」
「そうか、分かった。もちろんかまわない、お大事に」
「ありがとうございます。授業を休むことになってすみません。それでは失礼します」
職員室から出てきたお兄ちゃんは、ほほえんでわたしの頭をなでる。
「荷物を取ってくるから、
「うん、ありがとう、お兄ちゃん……」
「これ、汚していいから」
お兄ちゃんがブレザーのポケットから取り出したハンカチを受け取って、わたしはお兄ちゃんを見送ったあと、1人で下駄箱に向かった。
葛谷さんも、未來先輩も、犬丸先輩も……悪い、人だったんだな……。
お兄ちゃんの友だちだし、あたりまえのようにいい人だって信じてた。
こんな、ひどいことをされるなんて……ショックだよ。
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