酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
7,仕事の内容
鏡を背にして立っていたから、ブラシを当てられているときも、まるでどんなふうに変化しているのか、わたしにはさっぱり分からなかった。
だから、
「ふふっ。想像以上に
「えっ……?」
メイク道具をポーチにしまった未來先輩の手によって、うしろを向かされたわたしは、鏡に映った顔にびっくりした。
少し高いところにある未來先輩のお顔が美しいのはもちろん、もう1人の人物も、美人集団のなかに放り出されたって目立たない顔をしている。
いつもより目が大きいしパッチリしているし、顔に
もしかしてわたし、今、かわいいのでは……??
「……未來先輩、すごいです! わたしの顔がこんなにかわいく見えるなんて! あとで記念に写真を撮ってもいいですか!?」
「あら、あとでなんて言わずに今撮りましょ? 望羽ちゃんのスマホにも送ってあげるから」
「わぁ、ありがとうございます!」
未來先輩はブレザーのポケットからスマホを取り出して、鏡をバックに、わたしの肩を抱き寄せた。
インカメラで「はい、笑って~」と写真を撮ると、2人の笑顔がきれいに写る。
“仕事”が終わったら連絡先を交換しよう、と約束して、未來先輩と女子トイレを出ると、
「わ! 望羽ちゃん、超かわいいッス! 今胸がときめいたッス!」
「えへへ、ありがとうございます。未來先輩がかわいくしてくれました!」
「いいでしょう、イヌ先輩? さ、仕事をしに行きましょ」
「はいッス!」
3人で、近くの階段ではなく、遠いほうの階段に向かって、3階に戻ると、犬丸先輩は道中操作していたスマホを下ろす。
未来先輩がわたしのうしろから、渡り
「あのクラスに、
「わ、別れ話を切り出しやすいように、ですか……」
そんなこと、わたしにできるかなぁ……。
でも、なんでも任せてって言ったし、がんばろう!
「大丈夫、上手く話せなくてもいいわ。困ったら、彼の目をじっと見つめるの」
「目を、じっと……? 分かりました。行ってきます!」
「ファイトッス、望羽ちゃん!」
2人に送り出されて、栗本さんがいるという教室に近づくと、わたしは扉の前から誰にともなく聞いた。
「あの、すみません。栗本卓也さん、いますか?」
「え?」
振り向いて声を出したのは、窓際の席に座っていた男の人。
ぺこっと
「お食事中にすみません。わたし、1年の
「はあ、天衣……?」
「あ、
視線をななめ上に向けたのを見て補足すると、栗本さんは「あぁ」とうなずいて、少し目を丸くしながらわたしを見る。
「えっと、それで、なんの用?」
「えぇと、ですね……栗本さんってお付き合いしてる人がいるんですよね……?」
「え……うん、まぁ」
「あ、とつぜんすみません、その、彼女さんがいるって知り合いの先輩から聞いて……その、……」
彼女さんと別れたいって思ってますか?って聞くのは直球すぎるよね……。
別れ話を切り出しやすいように、って、なにを聞いたらいいんだろう?
どうしよう、あんまりだまってるのも変だし、えぇと、えぇと……!
そ、そうだ、未來先輩が言ってた!
「……」
「……?」
じっと栗本さんの目を見つめながら、必死に頭を働かせる。
栗本さんが
「か、彼女さんとは、今、どんな感じなんでしょうか……?」
「え……?」
いつの間にか、ほおが赤くなっているような気がする栗本さんは、目を丸くして視線をそらした。
「どんな、って……」
「あ、ご、ごめんなさい、えぇと、その……っ。仲がいいのかな、って気になって……!」
「……」
栗本さんは顔を背けて、首のうしろに触れながらだまりこむ。
少し、表情が暗いような気がするのは、気のせいかな……?
「なにか、気になることがあるんですか……?」
「え? あぁ、いや……その……天衣、さんはそれを知って、……どう、したいの?」
「えっと……その……」
弓崎さんと別れさせる、なんて言えないし……。
言葉を探して視線をさまよわせていると、うしろから、どんっと
「わっ」
「あ、ごめんなさいッス」
「うわ、だ、大丈夫……!?」
今の声、犬丸先輩……?
前に手を伸ばして、栗本さんの胸にもたれかかってしまったわたしは、「はい、大丈夫です、ごめんなさい……」と顔を上げた。
栗本さんも肩をつかんで受け止めてくれたし、顔がくっつかなくてよかった。
リップとか、触れたら色がついちゃうんだよね?
「……卓也」
「え、菫……!?」
そのとき、横から栗本さんの名前を呼ぶ声がした。
菫って、確か……と振り向くと、教室の前に弓崎さんと
あ、いくら別れる前だからって、人さまの彼氏さんにくっついてたらまずい!
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