酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
5,動画と取り引き
「さて、これを全校生徒に見られたくなかったら、俺たちの仕事を手伝ってもらおうか」
「え……仕事?」
急になにを、と目を丸くしてから思い出す。
そういえばお兄ちゃんにも、“仕事がやりやすい”、とかなんとか言ってたっけ。
となりの段ボール箱に座っている
「なんでも屋だ。生徒に依頼されれば、なんでもやる」
「はあ……」
なんでも屋……。
視線が葛谷さんの顔にぬい留められるのに抵抗して、ちらりと他の2人の先輩を見ると、にこにこと笑顔を返される。
手伝って、と言われたら手伝うけど、でも。
「わたしも、びっくりはしましたけど、どんなお兄ちゃんもお兄ちゃんだし、誰に見られたっていいんじゃないですか?」
「え……」
「わぁ、柔らかい子ッスねぇ」
葛谷さんなんて、顔から笑みが消えて、クールな顔でわたしを見つめている。
「……予想外だな」
「
「え……」
「全校生徒にあんな動画を見られちゃったら、茅都先輩はすっごく困るわ。お兄ちゃんを助けたいでしょう?」
眉を下げた顔の横で、両手を合わせてわたしを見つめる未來先輩の視線に、ドクン、と心臓が音を立てた。
あの動画を見られたら、お兄ちゃんが困る……?
そんなの絶対にダメだよ。
「助けたいです。お兄ちゃんが困ること、しないでください」
となりの葛谷さんを見つめてお願いすると、葛谷さんは、ふ、と口元を緩めた。
「それは」と言いながら右手をわたしのほうに伸ばして、ほおのラインをなぞるように指先をすべらせ、あごを少し持ち上げる。
「お前の働き次第だ」
胸からドキドキと音がする。
わたしは
「どんな仕事も、
犬丸先輩が持っている葛谷さんのスマホを指さすと、葛谷さんはにこりと笑って指を離した。
「あぁ、いいだろう。期待してるぞ、望羽」
「なんでも任せてください!」
顔の熱を感じながら、両手を胸の前でグッとにぎってみせると、葛谷さんはほほえんで視線をそらす。
犬丸先輩からスマホを受け取る様子を見ていると、犬丸先輩がわたしに向かってにこにこと言った。
「望羽ちゃんも、
「えっ。ち、違います……っ! 葛谷さん、お兄ちゃんにも負けないくらいかっこいいから、なんだかドキドキしちゃって……!」
「まあ、ピュアなのね。かわいいわ~。望羽ちゃん、クズ先輩みたいな悪い男の人にひっかかっちゃダメよ? 女同士、私と仲良くしましょ」
「俺とも仲良くして欲しいッス! おかしいっぱいあげるッスよ」
「あ、ありがとうございます。未來先輩も、犬丸先輩も、よろしくお願いします」
はにかんで笑うと、未來先輩が「やだ」と口に手を当てた。
「笑顔がキュートだわ。段ボール箱にちょこんと入ってる様子と相まって、愛らしいわね」
「あっ……! も、もう出てもいいですか……?」
「子犬みたいな目がかわいい~!」
「もちろんッスよ! ね、雨蓮くん」
「あぁ。教室に帰っていいぞ。茅都が探してるだろうからな」
「あ!!」
そうだった、お兄ちゃん!
急いで教室に戻らなきゃ、とあわてて立ち上がって段ボール箱から出ると、未來先輩が手を差し出して支えてくれた。
「教室まで送ってあげるわ。一緒に行きましょ」
「ありがとうございます、未來先輩」
笑顔の未來先輩に笑顔を返すと、「かわいい!」と美しすぎるお顔で言われる。
「私、望羽ちゃんの笑顔好きよ。たくさん笑った顔を見せてね」
「えへへ、照れちゃいますけど……はい」
顔をのぞきこまれて、はにかんで笑えば、未來先輩はわたしの腕に手を回した。
「それじゃあデートしてきま~す」と葛谷さんたちに手を振った未來先輩に合わせて、頭を下げてから備品室を出ると、わたしは未來先輩と歩き出す。
渡り
「望羽! よかった……2人でどこに行ってたの?」
「あら、茅都先輩。ふふっ、私たちだけの秘密です。じゃあ、またね、望羽ちゃん」
「あ、はい、また」
こくんとうなずいて、手を振る未來先輩に手を振り返すと、お兄ちゃんがそばにきて私の腕に触れる。
階段を下りていく未來先輩を見る顔は、いつも通りにこやか。
だけど……お兄ちゃんには“裏の顔”、もあるんだよね。
「
「うん」
ほほえみながら聞かれて、わたしは笑顔でうなずいた。
「……そっか。早乙女さんは
「えっ?」
未来先輩が、男の人?
そんなの、全然気づかなかった……。
わたしは、もう未來先輩の姿が見えなくなった階段のほうを見る。
「……でも、お兄ちゃん、未來先輩、心は女の人とかなんじゃ……?」
「ううん、早乙女さんは心も男子だよ。女の子のフリをするのが好きなんだって」
「そ、そうなんだ……教えてくれてありがとう、お兄ちゃん」
わたし、未來先輩が女の人だって信じてうたがってなかった。
なにか失礼をする前に、男の人だって教えてもらえてよかったな。
「うん。さ、一緒にお昼を食べよう?」
「あ、うん。そうだ、お兄ちゃん、一緒にお昼ご飯食べたいって子がいて……」
「そうなんだ。じゃあ今日は望羽のクラスで食べようか?」
「うん!」
わたしはうなずいて、お兄ちゃんと教室に戻った。
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