()いも甘いも、イケメンぞろい。

3,美男美女3人衆(にんしゅう)

約2,100字(読了まで約6分)


 それは、キーンコーンカーンコーン、と4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った直後のことだった。
 教室の前の扉がガラッと開いて、備品室にいた、きれいな女の人が顔をのぞかせる。


「うーんと……あ、いたいた。天衣望羽(あまいみはね)ちゃん、私と一緒に来てくれるかしら?」

「えっ?」


 教室のなかに視線を走らせると、美人さんはにっこりと私に向かって笑いかけた。
 クラスメイトの、みんなの視線まで感じる。


「は、はい、分かりました……」

早乙女(さおとめ)、お前、また授業をサボったんじゃないだろうな?」

「あら、ごきげんよう、先生。かわいい生徒に向かって決めつけはよくありませんわ。授業ならちゃんと受けています」


 口元に手を添えて、少し首をかしげるようにほほえむ姿は上品で、セレブなお嬢さまみたい。
 ぽーっと見惚(みほ)れていると、早乙女さんの視線がこっちに向いて、ハッと席を立った。
 あわてて教室を出ると、早乙女さんはにこりと笑って、「それじゃあ行きましょう」と歩き出す。

 近くに来て分かったけど、モデルさんみたいに背が高いんだなぁ……。
 スラッとしてて、スタイルまできれい。


「あ、あの、なんのご用でしょうか?」

「ふふっ、望羽ちゃんとナイショのお話がしたいの。少し遠いけど、ついてきてくれる?」


 早乙女さんは少し振り向くと、人差し指を口の前に立てて、上品にほほえんだ。
 思わず赤面しながら、わたしはこくこくとうなずいて、早乙女さんについていった。

 そうして着いた場所は、B棟2階の備品室。
 なかに入ると、あのとき早乙女さんと一緒にいたイケメンさん2人がいた。


「それじゃあ、自己紹介ね。私は花もはじらう早乙女(さおとめ)未來(みらい)、2年生よ。未來先輩って呼んでね」

「は、はい、未來先輩っ」


 ほおの横で両手を合わせてほほえむ未來先輩に、しっかりうなずいてみせる。
 すると、未來先輩の向かいで床に座っていた男の人が立ち上がった。
 座っているときも体が大きいと思ったけど、立ち上がると圧倒(あっとう)されちゃうくらい体格がいい。
 でも、そんな圧迫感(あっぱくかん)を晴らすように、にぱっとした人懐(ひとなつ)っこい笑顔を向けられた。


「俺は犬丸藤一(いぬまるふじいち)ッス! 天衣くんと同じ、3年ッスよ。お近づきのしるしに、これあげるッス」

「わ、ありがとうございます、犬丸先輩」


 ズボンのポケットから取り出して渡されたのは、スーパーやコンビニでよく売っているクッキー。
 ……でも、おかしを学校に持ってくるのって、校則違反(こうそくいはん)だったような。


「犬丸先輩! いいひびきッス~! 聞いたッスか、先輩ッスよ、先輩!」

「よかったですねぇ、イヌ先輩」

「うんうん、未來くんのバカにするような“先輩”とはひびきが違うッス!」

「藤一、座ってろ。せま苦しい」

「はいッス~」


 犬丸先輩は、にこにことあぐらをかいて床に座りこんだ。
 なんだか、わんちゃんが“おすわり”って言われておすわりしたみたいに見える。
 名前にひっぱられすぎかな?


「俺は葛谷雨蓮(くずやうれん)。3年だ」


 最後に名乗った葛谷さんは、手に持ったスマホを下ろしてわたしを見た。
 声もしゃべり方も落ち着いていて、冷たそうな外見と相まってクールな印象を受ける。
 先輩って呼ぶのも気後(きおく)れしちゃって、さんづけしたくなるくらい。
 それでも、ずっと見ていたくなるような、かっこいい顔をしているから、思わずぽーっと……。
 って、また見惚れちゃってた!


「あ、わたしは天衣望羽です。天衣茅都(あまいかやと)の妹で、1年生です。あの、未來先輩からナイショのお話があるって聞いたんですけど……」


 この3人って、お兄ちゃんが今日初めて会った人たちなんだよね?
 お兄ちゃんと友だちになりたいとか、そういう話かな……?
 おずおずと3人の顔を見回すと、未來先輩がにこりと笑顔を返してくれた。


「えぇ、そうよ」

「その前に。茅都から、俺たちのことをなんて聞いた?」

「え? えっと、今日初めて会ったって……あの、先生になにか頼まれてここに来たんですよね?」


 葛谷さん、お兄ちゃんのこと“茅都”って名前で呼ぶんだ……。
 一緒に用事を済ませて仲良くなったのかな? でも、それにしてはお兄ちゃんが……。
 変だなぁ、と思いながら3人の顔を見回せば、眉を下げてしゅんとした顔をする犬丸先輩と目が合った。


「天衣くん、ひどいッス」

「ふふっ、茅都先輩らしいわ。私たちと関わらせたくなかったんでしょうね?」

「ふ……隠しごとが得意なやつだからな」


 目を伏せて口元を緩めた葛谷さんを見て、思わずドキッとする。
 笑うとさらにかっこいい……。
 冷たそうな雰囲気が散って、なんだか妖しげな雰囲気がただよってるし。
 葛谷さんの視線がわたしに向くと、緊張(きんちょう)して息がしづらくなった。


「茅都は俺たちの“親友”だ。そして、共犯者でもある」

「え……?」


 ふ、とわたしを見ながらほほえんだ葛谷さんは、スマホを犬丸先輩に差し出す。
 犬丸先輩は長い腕を伸ばしてスマホを受け取ると、ひざ立ちになってうしろのスチールラックに向き直った。

 お兄ちゃんが、葛谷さんたちと仲のいい友だちで、共犯者……?
 って、どういうこと……?


(※無断転載禁止)