酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
2,B棟の備品室
「失礼しました」
職員室を出てあいさつをしたあと、わたしは階段に向かって歩いた。
先生に頼まれたプリントも届け終わったし、残りの休み時間はなにをしようかな?
そんなことを考えていると、お兄ちゃんが1人で
でも、わたしが声を出す前に、お兄ちゃんは渡り廊下のほうへ消えてしまった。
1人なのもめずらしいと思ったけど、お兄ちゃん、なんだかちょっと急いでるみたい?
早足で渡り廊下の前に出て、B棟のほうを見ると、お兄ちゃんは渡り廊下の奥にいて、横の階段を上がっていく。
次の授業は移動教室じゃなかったはずだし……わざわざB棟に行くなんて、もしかしてなにか頼まれたのかな?
それならわたしも手伝いに行こう!
もし違ったら、お兄ちゃんと話して教室に帰ればいいもんね。
うん、とうなずいて、わたしは渡り廊下の奥へ小走りで向かった。
「お兄ちゃーん……?」
声を出しながらB棟の階段を上がり、2階の廊下に顔を出して一応お兄ちゃんの姿を探すと、お兄ちゃんが廊下の奥の部屋に入っていくのを見かける。
すぐにあとを追うと、“備品室”と書かれた部屋から、うっすらと人の話し声が聞こえてきた。
お兄ちゃん、きっとここに入ったんだ!
……でも、どうしよう? 他に人がいるみたいだし……入っていったらまずいかな?
うーん、でも“備品室”だし、やっぱり先生になにか頼まれたんじゃ……!?
とりあえずあいさつして、お
わたしは心を決めて、扉をノックしてから、そっとドアノブを回した。
「すみませーん……」
備品室の扉を少しだけ開けて、顔をのぞかせると、部屋の中には3人の美男美女がいた。
左右の壁に沿って置かれたスチールラックの前で、床に座りこんでいる大きな体の男の人と、反対側に立っている長髪の美人な女の人。
部屋の奥に置かれた段ボール箱に座って足を組んでいる男の人なんて、冷たそうに見えるけど、お兄ちゃんに負けないくらいかっこいい。
思わずしゃべるのも忘れて、ぽかーんと口を開けたまま
「なんの用だ?」
奥のかっこいい人に話しかけられて、ハッと我に返る。
「あ、えっと、ここにわたしのお兄ちゃんが入っていったように見えて……
「
備品室のなかを右、左、と見ると、お兄ちゃんが扉の裏から顔を出した。
ものすごくびっくりした顔をしてる。
「あら、この子が、茅都先輩が
「いらっしゃいッス! 天衣くんの妹なら
「こ、こんにちは」
「望羽、廊下で話そう」
パッと笑顔になった2人に
もしかして、お邪魔なほうだったかな……?
「ここで話してもかまわないぞ」
「
「う、うん……失礼しました」
お兄ちゃんの横から顔を出して、3人に会釈したあと、お兄ちゃんと備品室から離れる。
わたしの肩を抱いたまま、お兄ちゃんは柔らかくほほえんでわたしを見た。
「こんなところまで、どうしたの?」
「あのね、プリントを職員室に届けに行ったら、お兄ちゃんがB棟に行くのが見えて……お兄ちゃんもなにか頼まれたのかなって」
「そっか、手伝いに来てくれたんだ。ありがとう、望羽」
お兄ちゃんはうれしそうに笑って、わたしの頭をなでる。
「ううん。でもわたし、お邪魔だったかな……?」
「そんなことないよ。かんたんな用事だったから、もう終わっちゃったんだけどね。そうだ、一緒に教室へ帰ろっか」
「あ、うん。でも、あの人たちが……」
「彼らはもう少し用事があるんだって。2人で帰っても大丈夫だよ」
「そうなの? それならわたし、手伝ってくる!」
備品室に戻ろうとすると、腕をつかんで引き止められた。
きょとんとして振り向けば、お兄ちゃんがにっこりと笑っている。
「お兄ちゃん……?」
「先生に頼まれた用事はもう終わってるんだ。3人でもう少し話したいんだって」
「あ、そうなんだ。それじゃあ邪魔しちゃいけないね……お兄ちゃんはいいの?」
「うん。僕はたまたま居合わせただけだから」
「え?」
お兄ちゃんが友だちにそんなことを言うなんて。
めずらしいというか、変というか……。
……もしかして。
「お兄ちゃん、あの人たちのこと、あんまり好きじゃないの……?」
「え? ……そんなこと、ないよ。ただ、今日初めて会った3人だから」
「初めて? 友だちじゃ、ないの?」
「うん」
あれ? そんなふうには見えなかったけど……。
うーん?と首をかしげると、お兄ちゃんは笑ってわたしの手を引いた。
「行こう。望羽のクラスは、次の授業なにやるの?」
「あ、現代社会だよ」
「そっか。僕と予習する?」
「えっ、いいのっ?」
「うん。屋上前の階段でやろうか」
「それだと、お兄ちゃんが教室に戻るの大変になっちゃうよ」
「大丈夫だよ。階段上がっていくほうが大変でしょ?」
3階の渡り廊下を通ってA棟に戻りながら、お兄ちゃんは、にこっとわたしを見る。
わたしも、えへへ、と笑って「ありがとう」と返した。
やっぱり、お兄ちゃんはやさしいな。
ちょっと様子が変な気がしたのは、気のせいだったかも。
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