()いも甘いも、イケメンぞろい。

番外編1、きれいな先輩の困りごと④

約2,800字(読了まで約8分)



「……依頼人の希望ならしかたないな」

「チッ……」

「……なんか天衣(あまい)先輩の性格変わってない?」

「あはは……」


 春宮(はるみや)先輩に小声で言われてただ笑うと、お兄ちゃん本人が「ごめんね。望羽(みはね)になにかしようとする人は許せなくて」と答えた。
 どうやら学校では、わたしのことで怒ると性格が変わる人、っていうことにするみたい。
 お兄ちゃんの性格は変わってなんていないんだけど。


「先生相手なら、一番信用がある茅都(かやと)先輩が適任ですよね。茅都先輩、この男連れていってくださいよ」

「……望羽とお昼ご飯を食べるのは僕だからね」

「あはは、分かってるッスよ。天衣くんが戻ってくるまでちゃんと待ってるッス」

「きみたちまで一緒に食べる許可なんてしてないんだけど」

「あきらめろ。今回は望羽が悪い」

「えっ、わたしですか!?」


 なんで!?
 しかも、藤井(ふじい)さんの処遇(しょぐう)の話なのに、どうしてお昼ご飯の話に変わってるの!?
 目を丸くしてハテナをたくさん浮かべていると、お兄ちゃんがわたしを離して、先輩たちから藤井さんを引き取った。
 床に落ちた写真も集めて拾い上げる。


「まったく……本当にしつこい害虫だよ。望羽に手を出したら、望羽のスマホから連絡先消すからね」

「わぁ、怖い」

「大丈夫ッス! 行ってらっしゃいッスよ!」


 お兄ちゃんは無理やり貼り付けたような笑顔で先輩たちを見ると、「またあとでね、望羽」とわたしに手を振って藤井さんを連れていった。
 わたしはお兄ちゃんを見送ったあと、春宮先輩に笑顔を向ける。


「これで解決ですね!」

「う、うん。本当にありがとう、望羽ちゃん。……なんでも屋さんも、ありがとうございます」

「どういたしまして」

「また困ったことがあったら、なんでも依頼して欲しいッス!」

「久しぶりに楽しかった」

「クズ先輩、クズなところ直んないですね」

「お前たちもだろ」


 雨蓮(うれん)さんと悪い笑みを浮かべ合う先輩たちを見て、きょとんとした。
 な、なにを考えてるんだろう……。


「ねぇ、望羽ちゃん」

「はい?」


 小声で春宮先輩に話しかけられて視線を向けると、春宮先輩はちらりと雨蓮さんを見てわたしに聞く。


「あの、“クズ先輩”って呼ばれてる人……恋人はいるのかな?」

「え? 雨蓮さんですか? えーっと、その……好きな人は」


 います、と照れながら答えた。
 わたしのことが好きみたいです、とは、はずかしすぎて言えない。
 すると、春宮先輩は落ちこんだ顔で「そっか」とつぶやく。


「残念だな。あの悪そうな笑顔にキュンとしちゃったんだけど」

「え!?」


 悪そうな笑顔に!?
 じゃなくてっ、春宮先輩が雨蓮さんに!?
 おどろきすぎて大きな声を出してしまったから、先輩たちがわたしのほうを見てしまって、あわてて“なんでもないです”と両手を振った。


「ねぇ、望羽ちゃん、あの人の名前教えてくれない?」

「は、はい、えっと、葛谷雨蓮(くずやうれん)さん、です……」

「葛谷さん、か。……うん。告白、するだけしておこ」

「えっ」


 こ、告白!?
 ドキリと心臓が嫌な音を立てて、眉を下げながら春宮先輩と雨蓮さんを見る。
 もちろん、わたしに止める権利なんてないんだけど……なんだか、胸がざわざわする……っ。


「望羽ちゃん、お昼ご飯教室でしょ? 一緒に取りに行くよ」

「あ、はい、ありがとうございます……」

「あの、葛谷さん。お話があるので少しだけ残ってもらえますか?」

「……あぁ」


 あ……。
 未来(みらい)先輩と犬丸(いぬまる)先輩は顔を見合わせて、わたしの手を引いた。


「それじゃあ僕たちは先に行ってますね」

「ゆっくり話していいッスよ! ぜーんぜん、いそぐ必要なんてないッス!」

「え、わっ」


 いい笑顔を浮かべた2人は、冷めた視線を向ける雨蓮さんにかまわず、わたしを廊下(ろうか)に連れ出す。
 そのまま階段のほうへ向かうものだから、わたしは「お、お兄ちゃんを待たないと」と2人を見上げた。


「今日は茅都先輩の邪魔(じゃま)が入って欲しくない気分なんだ。愛の逃避行(とうひこう)、しようよ」

「そッス! 本当は望羽ちゃんと2人きりになりたいッスけど、天衣くんと雨蓮くんをはぶけただけでもラッキーッス」

「えぇぇ!?」


 お兄ちゃんも雨蓮さんも置いていく気なの!?
 も、もしかしてさっきの悪い顔は……!
 先輩たちに階段の前まで連れてこられたわたしは、衝撃(しょうげき)を受けつつも、春宮先輩の“告白”が気になって、ちらちらとうしろを見る。


「あ、あの……わたし、お手洗いに寄りたくて! ここで待っててもらえますか……!?」

「そっか、分かった」

「はいッス!」


 うそをついてしまったうしろめたさを感じつつも、わたしは2人に頭を下げて、急いで空き教室の前に戻った。
 扉の窓からこっそりなかの様子を見ると、もう“告白”は終わってしまったのか、春宮先輩が頭を下げて反対側の扉に向かう。
 どこかに隠れなきゃ、とあたりを見回したわたしは、手近な隠れ場所が見つけられなくて、とてつもなく焦った。
 もう一度空き教室のなかを見ると、雨蓮さんがわたしを見ていて、手招きをしている。

 わたしは少し迷ったあと、春宮先輩が扉を開けたのと同時に、空き教室のなかへ入った。
 バク、バク、バク、と心臓の音を聞きながら外の様子をうかがったけど、どうやら春宮先輩には気づかれなかったみたいで。


 はぁ……と脱力すると、「望羽」と雨蓮さんに呼ばれる。


「あっ、え、えっと、そのっ、盗み聞きしようとしたわけじゃなくてっ、あの、ちょっと様子が気になったというかっ!」

「ふぅん……?」


 雨蓮さんは妖しく笑いながらわたしに近づいてきた。


「な、なにも聞いてないです! 戻ってきたときにはもう……っ」


 わたしの目の前に立った雨蓮さんは、扉に手をついて、指の背でわたしのほおをなでる。
 さっきとは違う意味でバクバクッと鼓動が速くなって、一瞬で顔が熱くなった。


()いたのか?」

「えっ」


 や、やきもちなの……?
 でも、わたし、本当に雨蓮さんのことが好きなのか分からないのに……。
 困って答えられずにいると、雨蓮さんは、ふっと笑った。


「自覚がないのも、それはそれでかわいいな。……俺は望羽の彼氏だって言ってもいいんだぞ」

「つ、付き合ってはないですから……っ!」

「望羽がうなずくだけでいい。そうすれば、話した内容も教えてやる」


 は、話した内容……っ。
 気になる、気になるけど……っ、やっぱり春宮先輩に無断で聞くのはっ。
 ギュッと目をつぶると、雨蓮さんは「強情(ごうじょう)だな」と笑いながら言って、わたしにキスをした。


「~~っ……!?」

「早く俺のところに来い、望羽。彼女になれば、たっぷりかわいがってやる」


 真っ赤なほおをなでて、妖しく目を細めた雨蓮さんに見つめられて、心臓が破裂(はれつ)しそうなくらい活発に動く。
 この気持ちを“恋”と呼ばないなら、一体どんな状態が恋と呼ばれるのか。
 そう考えたら怖くなってしまうくらい、今のわたしは……雨蓮さんの甘い声に心を支配されていた。


fin.
ありがとうございます💕

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