酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
番外編1、きれいな先輩の困りごと④
「……依頼人の希望ならしかたないな」
「チッ……」
「……なんか
「あはは……」
どうやら学校では、わたしのことで怒ると性格が変わる人、っていうことにするみたい。
お兄ちゃんの性格は変わってなんていないんだけど。
「先生相手なら、一番信用がある
「……望羽とお昼ご飯を食べるのは僕だからね」
「あはは、分かってるッスよ。天衣くんが戻ってくるまでちゃんと待ってるッス」
「きみたちまで一緒に食べる許可なんてしてないんだけど」
「あきらめろ。今回は望羽が悪い」
「えっ、わたしですか!?」
なんで!?
しかも、
目を丸くしてハテナをたくさん浮かべていると、お兄ちゃんがわたしを離して、先輩たちから藤井さんを引き取った。
床に落ちた写真も集めて拾い上げる。
「まったく……本当にしつこい害虫だよ。望羽に手を出したら、望羽のスマホから連絡先消すからね」
「わぁ、怖い」
「大丈夫ッス! 行ってらっしゃいッスよ!」
お兄ちゃんは無理やり貼り付けたような笑顔で先輩たちを見ると、「またあとでね、望羽」とわたしに手を振って藤井さんを連れていった。
わたしはお兄ちゃんを見送ったあと、春宮先輩に笑顔を向ける。
「これで解決ですね!」
「う、うん。本当にありがとう、望羽ちゃん。……なんでも屋さんも、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「また困ったことがあったら、なんでも依頼して欲しいッス!」
「久しぶりに楽しかった」
「クズ先輩、クズなところ直んないですね」
「お前たちもだろ」
な、なにを考えてるんだろう……。
「ねぇ、望羽ちゃん」
「はい?」
小声で春宮先輩に話しかけられて視線を向けると、春宮先輩はちらりと雨蓮さんを見てわたしに聞く。
「あの、“クズ先輩”って呼ばれてる人……恋人はいるのかな?」
「え? 雨蓮さんですか? えーっと、その……好きな人は」
います、と照れながら答えた。
わたしのことが好きみたいです、とは、はずかしすぎて言えない。
すると、春宮先輩は落ちこんだ顔で「そっか」とつぶやく。
「残念だな。あの悪そうな笑顔にキュンとしちゃったんだけど」
「え!?」
悪そうな笑顔に!?
じゃなくてっ、春宮先輩が雨蓮さんに!?
おどろきすぎて大きな声を出してしまったから、先輩たちがわたしのほうを見てしまって、あわてて“なんでもないです”と両手を振った。
「ねぇ、望羽ちゃん、あの人の名前教えてくれない?」
「は、はい、えっと、
「葛谷さん、か。……うん。告白、するだけしておこ」
「えっ」
こ、告白!?
ドキリと心臓が嫌な音を立てて、眉を下げながら春宮先輩と雨蓮さんを見る。
もちろん、わたしに止める権利なんてないんだけど……なんだか、胸がざわざわする……っ。
「望羽ちゃん、お昼ご飯教室でしょ? 一緒に取りに行くよ」
「あ、はい、ありがとうございます……」
「あの、葛谷さん。お話があるので少しだけ残ってもらえますか?」
「……あぁ」
あ……。
「それじゃあ僕たちは先に行ってますね」
「ゆっくり話していいッスよ! ぜーんぜん、いそぐ必要なんてないッス!」
「え、わっ」
いい笑顔を浮かべた2人は、冷めた視線を向ける雨蓮さんにかまわず、わたしを
そのまま階段のほうへ向かうものだから、わたしは「お、お兄ちゃんを待たないと」と2人を見上げた。
「今日は茅都先輩の
「そッス! 本当は望羽ちゃんと2人きりになりたいッスけど、天衣くんと雨蓮くんをはぶけただけでもラッキーッス」
「えぇぇ!?」
お兄ちゃんも雨蓮さんも置いていく気なの!?
も、もしかしてさっきの悪い顔は……!
先輩たちに階段の前まで連れてこられたわたしは、
「あ、あの……わたし、お手洗いに寄りたくて! ここで待っててもらえますか……!?」
「そっか、分かった」
「はいッス!」
うそをついてしまったうしろめたさを感じつつも、わたしは2人に頭を下げて、急いで空き教室の前に戻った。
扉の窓からこっそりなかの様子を見ると、もう“告白”は終わってしまったのか、春宮先輩が頭を下げて反対側の扉に向かう。
どこかに隠れなきゃ、とあたりを見回したわたしは、手近な隠れ場所が見つけられなくて、とてつもなく焦った。
もう一度空き教室のなかを見ると、雨蓮さんがわたしを見ていて、手招きをしている。
わたしは少し迷ったあと、春宮先輩が扉を開けたのと同時に、空き教室のなかへ入った。
バク、バク、バク、と心臓の音を聞きながら外の様子をうかがったけど、どうやら春宮先輩には気づかれなかったみたいで。
はぁ……と脱力すると、「望羽」と雨蓮さんに呼ばれる。
「あっ、え、えっと、そのっ、盗み聞きしようとしたわけじゃなくてっ、あの、ちょっと様子が気になったというかっ!」
「ふぅん……?」
雨蓮さんは妖しく笑いながらわたしに近づいてきた。
「な、なにも聞いてないです! 戻ってきたときにはもう……っ」
わたしの目の前に立った雨蓮さんは、扉に手をついて、指の背でわたしのほおをなでる。
さっきとは違う意味でバクバクッと鼓動が速くなって、一瞬で顔が熱くなった。
「
「えっ」
や、やきもちなの……?
でも、わたし、本当に雨蓮さんのことが好きなのか分からないのに……。
困って答えられずにいると、雨蓮さんは、ふっと笑った。
「自覚がないのも、それはそれでかわいいな。……俺は望羽の彼氏だって言ってもいいんだぞ」
「つ、付き合ってはないですから……っ!」
「望羽がうなずくだけでいい。そうすれば、話した内容も教えてやる」
は、話した内容……っ。
気になる、気になるけど……っ、やっぱり春宮先輩に無断で聞くのはっ。
ギュッと目をつぶると、雨蓮さんは「
「~~っ……!?」
「早く俺のところに来い、望羽。彼女になれば、たっぷりかわいがってやる」
真っ赤なほおをなでて、妖しく目を細めた雨蓮さんに見つめられて、心臓が
この気持ちを“恋”と呼ばないなら、一体どんな状態が恋と呼ばれるのか。
そう考えたら怖くなってしまうくらい、今のわたしは……雨蓮さんの甘い声に心を支配されていた。
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