酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
番外編2、人気者となんでも屋の出会い
Side:
「まじでありがとう、
「ううん」
愛想のいい笑みを浮かべて、部活に戻る男へ手を振ったあと、表情をそぎ落として「はぁ」とため息をつく。
長年の
早く家に帰りたい、と振り返って
「……やあ」
今の顔、見られたか、と思いながら、気にせず愛想笑いを貼り付けると、
「優等生、
「あ、僕のこと知ってるんだ。僕もきみのうわさはよく聞いてるよ、葛谷くん」
「ふぅん、
なんだこの男、と内心冷めた目で見た。
どう答えようか考えたけど……疲れていたのもあって、すぐ愛想笑いを消す。
「言っておくけど、そんなことをしても意味はないよ。たかだか他人に失望されるだけでしょ。あんなやつらがなにを思ったって、僕には関係ない」
「……へぇ。案外おもしろいやつだな」
「それはどうも」
もういいだろうと思って、葛谷をさけて歩き出した。
早く望羽に会って
「なぁ、今性格が悪いやつらとひと遊びしようと思ってるんだが、お前、興味ないか?」
「興味ない」
「そうか。でも俺はお前に興味がある」
無視して歩くと、葛谷はそれ以上話しかけてこなかった。
変な趣味をしていたし、学校の連中になにか話すのかと思ったけど、翌日以降も俺の周りに変化はなく。
人と一緒にいるときに葛谷を見かけたこともあったものの、おたがい口を聞くこともなく過ごしていた。
だから、
「なぁ、猫かぶり」
「……なに? 今さら」
「お前、いつも人に囲まれてるし、人の情報、よく知ってるよな? 2年の
「辻本?」
少し考えたのは、辻本と今まで交わした会話をすべて思い出すため。
よくうらやましいと言われる記憶力のおかげで、人の名前を間違えたことはない。
秘密と言われて思い浮かぶもののなかで、俺がしゃべったところで追及されない内容を抜き出す。
「3年の
「ふっ、よく出てくるな。……今日の放課後、B棟2階と3階の間のおどり場に来い。手前側の階段だ」
「はぁ? どうして」
「この前お前のあとをつけたんだが……妹がいるんだな。中学生くらいか」
視線をそらして、時間を確認するように望羽のことを口にした葛谷をにらみつけると、葛谷は視線を俺に戻して笑った。
「妹が大切か?」
「二度と俺の家に近づくな。妹にもだ」
「あぁ、分かった。……なるほど、お前にも大切なものがあるわけだ」
葛谷は振り返って、廊下の先へ歩いていく。
舌打ちをしてから、俺は葛谷と反対方向に向かった。
そして、放課後。
言われた通り、B棟の階段に来てしばらく待つと、3階のほうから足音が複数聞こえてきた。
「さて、ここならいいだろう」
「話ってなんだよ……?」
「私、3年の堀内先輩と仲がいいんですよ。今度一緒に遊ぼうってさそわれてて」
「は……?」
「友だちを連れてきていいって言われてるんです。先輩、来ませんか?」
葛谷の声と、辻本の声、それから知らない女の声。
一体なにを聞かせたいんだと、眉をひそめて上の階を見た。
「ど、どうして、俺を?」
「私、人の恋は応援したいタイプで。先輩、堀内先輩のことが好きなんですよね?」
「な、なんで知って……」
「女の秘密です」
「とはいえ、辻本。うまい話はタダじゃない」
「俺たち、辻本くんにお願いがあるッス。聞いてくれるッスか?」
この声と、
よく問題を起こしてるって聞くが。
「……お願い?」
「お前が持ってるものを欲しがってる人間がいてな。この写真に写ってるものなんだが……」
「そ、それは……っ!」
「デート1回と引き換えでどうだ? 悪い話じゃないだろう」
「でも、それは……」
「先輩、堀内先輩とのつながり、ないですよね? この機会を
「チャンスはつかみとるものッスよ。これを手放すだけで、好きな人と付き合える可能性だってあるッス」
「……」
葛谷たちがなにを要求しているのかは知らないけど、ずいぶんとあくどいことをしているな、とあきれた。
辻本はその後、葛谷たちの要求を飲んで去っていく。
壁にもたれて3階を見上げていると、葛谷が階段の前に現れた。
「俺たちの話はよく聞こえたか?」
「あぁ」
「わぁ、本当に天衣先輩だ。学校の人気者なのに、そんなに冷たい顔をするんですね」
「笑わない天衣くんって初めて見たッス。雨蓮くん、よく捕まえてきたッスねぇ」
葛谷の横から顔を出したのは、美人な1年とうわさの
面倒だから演技をせずに腕を組んでいると、葛谷は俺を見下ろして笑った。
「こいつらと、不良相手になんでも屋を始めてな。興味がないなら仲間になれとは言わないが、俺たち、こういう関係になるのはどうだ?」
「……お前らに情報を流せと?」
「あぁ。ストレスたまってるんだろう?」
「……」
はぁ、とため息をついて、俺は壁から背中を離す。
「聞きたいことには答えてやる。そのあとは見せるな、興味ない」
「ふっ……いいだろう。これから仲良くしようじゃないか、茅都」
その声は無視して、俺は家に帰るために階段を下りていった。
長く付き合ううちに、あいつらの性格の悪さも、雨蓮が群を抜いてクズなのもよく知るところとなったものの……。
望羽にさえ関わらなければいいと、あいつらの存在を放置していたことを後悔するのは、3年になってからのことだった。
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