()いも甘いも、イケメンぞろい。

番外編1、きれいな先輩の困りごと③

約2,200字(読了まで約6分)


 ごくりとつばを飲んだ春宮(はるみや)先輩が空き教室に入っていったあと、わたしたちはもっと空き教室に近づいた。
 耳を澄ませれば、なかの会話が聞こえてくる。


藤井(ふじい)くん……? あなたが、私の盗撮(とうさつ)写真を?」

「そうだよ。やっと来てくれたね」

「……なにが、目的なの?」

「そんなに怖い顔しないで。僕たちがしたことのある話って、ひとつだけだろ」


 藤井……その男の人が、春宮先輩を盗撮写真でおどしてたんだ。
 藤井さんと春宮先輩がしたことのある話って……?


「……まさか」

「告白の返事、考え直してくれないかな。僕がどれだけ春宮さんのことを見ているかは、充分に伝えたつもりだけど?」


 え……告白の返事って、まさかおどしの目的は春宮先輩と付き合うことなの!?
 びっくりしすぎて、思わずお兄ちゃんや先輩たちの顔を見て、聞き間違いじゃないか確認しようと思ったら。
 雨蓮(うれん)さんたちは、カラカラと扉を開けて空き教室のなかへ入っていった。


「なるほど。予想通りだが、こんなことをするやつと付き合う気なんて起きないだろうな」

「情熱的ではあるけど、狂気が過ぎるね、きみの告白は」

「そッス、好きな女の子をおびえさせちゃダメッスよ!」

「な、なんだよっ、あんたたち……!」


 ぽかんと口を開けて先輩たちを見送ったあと、あわてて追いかけようとしたら、お兄ちゃんに抱きしめられた。
 顔を上げてお兄ちゃんを見れば「なにがあるか分からないから、望羽(みはね)はお留守番(るすばん)だよ」とほほえみかけられる。
 でも、なかの様子が気になるよ……!


「なんでも屋だ。依頼があれば、なんでもする」

「そ、その写真は……っ!?」

「ふ……好きなだけ見るといい」


 パサパサッと、たくさんの紙が落ちるような音がした。


「僕たちも地道にがんばったからね。よく撮れてるでしょ? きみの姿も、きみが春宮さんを写してるスマホの画面も」

「盗撮してるところだけじゃないッス、彼女の下駄箱(げたばこ)に写真を入れてるところだって撮ってあるッスよ」

「なっ……!」

「お前に選ばせてやろう。この写真を教師に見せるか、警察に見せるか。あるいは家族に見せるか? まぁ、どれにせよお前の計画はパァだ」


 笑っているんだろうな、と分かる雨蓮さんの声にハラハラしながら、こっそりなかの様子をのぞき見る。
 雨蓮さんたちと、春宮さんの前の床に散らばった写真の奥に、男の人が1人いて……。
 盗撮犯の藤井さんは、頭を抱えてひざをついた。


「どうして、こんなことに……っ。これで、春宮さんと付き合えるはずだったのに……っ!」


 どうして? 本気で、そう思ってるの?
 わたしはムッとして、振り返りながらお兄ちゃんを見つめる。
 行かせて、っていう思いが伝わったのか、お兄ちゃんはため息をつきながら笑って、わたしを離してくれた。


「正体も分からない人に盗撮されて、毎日たくさんの盗撮写真を送られて、やめて欲しかったら空き教室に来いだなんて……」

「あ、望羽ちゃん……」


 なかに入って春宮先輩のもとにかけよると、お兄ちゃんもうしろについてきたみたいだった。
 先輩たちの視線を横から感じながら、眉根を寄せて藤井さんを見る。


「そんなの、誰がやられたって怖いに決まってます! そんなふうにおどして付き合おうだなんて、間違ってますよ!」

「お前は……」

「本当に春宮先輩が好きなら、怖がらせたことを謝って、先輩たちから告白の仕方を教わってください!」

「「望羽ちゃん……」」

「ふっ」


 先輩たちを()して言い切ると、雨蓮さんに笑われて、え、と先輩たちのほうを見てしまった。
 犬丸(いぬまる)先輩も未來(みらい)先輩も、おもしろい話を聞いたような顔で笑っている。


「望羽ちゃんはどんなときでもかわいいッスね。大好きッスよ」

「それって僕たちの告白は百点満点ってこと? うれしいな、このあと一緒にお昼食べない?」

「おい」

「えっ……そ、そういうことはあとでお願いします!」


 こんなときなのに……!と、かぁっと赤面しながら注意すると、未來先輩に「かわいい、望羽ちゃん。好きだよ」と甘く言われてしまった。
 もう、どうして急にスイッチが入っちゃったの……っ!?


「お前が……お前のせいで、こんなことに!」

「えっ」


 藤井さんの怒った声がして視線を戻すと、藤井さんは床に落ちた写真をかき集めて、わたしに向かって投げてくる。
 目を見開いた直後、うしろに抱き寄せられて、先輩たちがまだ動こうとした藤井さんを押さえこんだ。


「望羽に責任転嫁(せきにんてんか)するのは、この状況で一番の悪手だな。よくもまあ、最悪な行動ばかりできるものだ」

「ねぇ、こいつ警察行きでいいんじゃないですか。生温(なまぬる)いことはナシにしましょうよ」

「そッスねぇ。望羽ちゃんに危害を加えようとするのはアウトッス」

「お前ら、やるなら徹底的(てっていてき)にやれ」


 みんなの冷たい声をぽかんと聞いて、苦しそうにしている藤井さんをながめる。
 ぱちり、ぱちりとまばたきをしたあとに、わたしはようやく声を出すことができた。


「み、みなさん! わたしなら大丈夫ですから! 藤井さんをどうするかは、春宮先輩に聞いてください!」

「え……わ、私?」

「そうですよ。被害者は春宮先輩なんですから。春宮先輩は、あの人をどうしたいですか?」


 お兄ちゃんに抱きしめられたまま、となりの春宮先輩を見て、にこ、と笑う。
 春宮先輩は戸惑(とまど)った顔で藤井さんを見ると……。


「……学校に伝えるだけで、充分です」


 そう、静かに言った。


ありがとうございます💕

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