酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
番外編1、きれいな先輩の困りごと③
ごくりとつばを飲んだ
耳を澄ませれば、なかの会話が聞こえてくる。
「
「そうだよ。やっと来てくれたね」
「……なにが、目的なの?」
「そんなに怖い顔しないで。僕たちがしたことのある話って、ひとつだけだろ」
藤井……その男の人が、春宮先輩を盗撮写真でおどしてたんだ。
藤井さんと春宮先輩がしたことのある話って……?
「……まさか」
「告白の返事、考え直してくれないかな。僕がどれだけ春宮さんのことを見ているかは、充分に伝えたつもりだけど?」
え……告白の返事って、まさかおどしの目的は春宮先輩と付き合うことなの!?
びっくりしすぎて、思わずお兄ちゃんや先輩たちの顔を見て、聞き間違いじゃないか確認しようと思ったら。
「なるほど。予想通りだが、こんなことをするやつと付き合う気なんて起きないだろうな」
「情熱的ではあるけど、狂気が過ぎるね、きみの告白は」
「そッス、好きな女の子をおびえさせちゃダメッスよ!」
「な、なんだよっ、あんたたち……!」
ぽかんと口を開けて先輩たちを見送ったあと、あわてて追いかけようとしたら、お兄ちゃんに抱きしめられた。
顔を上げてお兄ちゃんを見れば「なにがあるか分からないから、
でも、なかの様子が気になるよ……!
「なんでも屋だ。依頼があれば、なんでもする」
「そ、その写真は……っ!?」
「ふ……好きなだけ見るといい」
パサパサッと、たくさんの紙が落ちるような音がした。
「僕たちも地道にがんばったからね。よく撮れてるでしょ? きみの姿も、きみが春宮さんを写してるスマホの画面も」
「盗撮してるところだけじゃないッス、彼女の
「なっ……!」
「お前に選ばせてやろう。この写真を教師に見せるか、警察に見せるか。あるいは家族に見せるか? まぁ、どれにせよお前の計画はパァだ」
笑っているんだろうな、と分かる雨蓮さんの声にハラハラしながら、こっそりなかの様子をのぞき見る。
雨蓮さんたちと、春宮さんの前の床に散らばった写真の奥に、男の人が1人いて……。
盗撮犯の藤井さんは、頭を抱えてひざをついた。
「どうして、こんなことに……っ。これで、春宮さんと付き合えるはずだったのに……っ!」
どうして? 本気で、そう思ってるの?
わたしはムッとして、振り返りながらお兄ちゃんを見つめる。
行かせて、っていう思いが伝わったのか、お兄ちゃんはため息をつきながら笑って、わたしを離してくれた。
「正体も分からない人に盗撮されて、毎日たくさんの盗撮写真を送られて、やめて欲しかったら空き教室に来いだなんて……」
「あ、望羽ちゃん……」
なかに入って春宮先輩のもとにかけよると、お兄ちゃんもうしろについてきたみたいだった。
先輩たちの視線を横から感じながら、眉根を寄せて藤井さんを見る。
「そんなの、誰がやられたって怖いに決まってます! そんなふうにおどして付き合おうだなんて、間違ってますよ!」
「お前は……」
「本当に春宮先輩が好きなら、怖がらせたことを謝って、先輩たちから告白の仕方を教わってください!」
「「望羽ちゃん……」」
「ふっ」
先輩たちを
「望羽ちゃんはどんなときでもかわいいッスね。大好きッスよ」
「それって僕たちの告白は百点満点ってこと? うれしいな、このあと一緒にお昼食べない?」
「おい」
「えっ……そ、そういうことはあとでお願いします!」
こんなときなのに……!と、かぁっと赤面しながら注意すると、未來先輩に「かわいい、望羽ちゃん。好きだよ」と甘く言われてしまった。
もう、どうして急にスイッチが入っちゃったの……っ!?
「お前が……お前のせいで、こんなことに!」
「えっ」
藤井さんの怒った声がして視線を戻すと、藤井さんは床に落ちた写真をかき集めて、わたしに向かって投げてくる。
目を見開いた直後、うしろに抱き寄せられて、先輩たちがまだ動こうとした藤井さんを押さえこんだ。
「望羽に
「ねぇ、こいつ警察行きでいいんじゃないですか。
「そッスねぇ。望羽ちゃんに危害を加えようとするのはアウトッス」
「お前ら、やるなら
みんなの冷たい声をぽかんと聞いて、苦しそうにしている藤井さんをながめる。
ぱちり、ぱちりとまばたきをしたあとに、わたしはようやく声を出すことができた。
「み、みなさん! わたしなら大丈夫ですから! 藤井さんをどうするかは、春宮先輩に聞いてください!」
「え……わ、私?」
「そうですよ。被害者は春宮先輩なんですから。春宮先輩は、あの人をどうしたいですか?」
お兄ちゃんに抱きしめられたまま、となりの春宮先輩を見て、にこ、と笑う。
春宮先輩は
「……学校に伝えるだけで、充分です」
そう、静かに言った。
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