酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
20,恋か、錯覚 か
「
「どうしたの、望羽ちゃん?」
今にも笑顔を捨て去りそうだったお兄ちゃんも、先輩たちも、みんなわたしを見て、話を聞く姿勢をとってくれる。
わたしは、「とりあえず周りの人の目がないところに移動しませんか……?」と遠くからこっちを見ている人たちをちらりと見て言った。
わたしの提案が受け入れられて、みんなでB棟の備品室に来たあと。
わたしはドキドキする胸を落ちつかせるように深呼吸をして、目をつぶりながら言った。
「あのっ! わたし、好きな人ができましたっ!」
「え。まさかこいつらじゃないよな、望羽!?」
すぐにお兄ちゃんが横からわたしの肩をつかんできて、わ、とおどろく。
「う、うん……その……」
かぁっと赤面しながら、ちらりと、奥にいる
それだけで、お兄ちゃんにも、先輩たちにも伝わったらしい。
パシッと音がしてから、わたしはお兄ちゃんが雨蓮さんになぐりかかって、手のひらで受け止められたことに気づいた。
「ふっ……」
「はぁ!? なんでよりによって一番クズなこの人に!?」
「どうしてッスか、望羽ちゃん!? あれから1回も会ってないのに!」
「雨蓮、お前! 望羽になにをした!?」
「わ、わ! あの、ごめんなさい! 何日か前に、
みんなの反応にあたふたしながら説明すると、みんながそろって「“雨蓮さん”?」と雨蓮さんをにらむ。
雨蓮さんは涼しい顔をして、わたしと目が合うと妖しくほほえんだ。
ドキッと、鼓動が速くなるのを感じながら、わたしは視線を落として「そ、その……」と目をつぶる。
「そのとき、わたし……雨蓮さんと、キス……して、そしたら、雨蓮さんのことで頭がいっぱいになって……」
ブォン、と音がしたから目を開けて顔を上げると、お兄ちゃんも
雨蓮さんはうしろに下がってよけてたから、無事みたいだけど。
「てめぇ、雨蓮……!」
「望羽ちゃん、それはとつぜんのことにびっくりしちゃっただけだよ」
「そッス、雨蓮くんは女の子をたらしこむのが上手ッスから、ドキドキさせるのはお手の物なんッスよ!」
「そ、そうですか……?」
「うん。強引に望羽ちゃんをドキドキさせて、好きになったって
「おい、お前ら……」
「だまれ雨蓮! 一発なぐる、ぜってぇなぐる! 望羽に手ぇ出しやがってこの野郎!」
お、お兄ちゃんがすごい怒って、大変なことになってる……!
雨蓮さん大丈夫かな、とハラハラしていると、未來先輩に備品室のすみへ連れていかれた。
「あの人は
「望羽ちゃん、本当に雨蓮くんが好きなのか、実験してみようッス!」
「じ、実験?」
「そう。まず、望羽ちゃんとクズ先輩はこれから絶対に接触禁止。僕とイヌ先輩が望羽ちゃんにアプローチするから……」
「望羽ちゃんがドキドキしたら、雨蓮くんを好きになったわけじゃないってことッス!」
「は、はあ……」
「クズ先輩と2人きりになりそうだったら、すぐに逃げてね。また反則技を使われたら、実験にならなくなっちゃうから」
反則技……?
わたし、キスされてものすごくドキドキしただけで、雨蓮さんを好きになったわけじゃないのかなぁ……?
雨蓮さんが好き……だと思うんだけど、なにしろ初めてのことだし、未來先輩たちのほうが恋についてはよく知ってるはずだから……。
わたしの気持ちを確信するためにも、実験をしてみるの、大事かも。
「……分かりました。実験、してみます!」
「よし、それじゃあ決まりね。僕はクズ先輩と違って、同意なしに大事なことはしないから安心して」
「俺も許可を取らずにキスなんてしないッス! そんなことするのは雨蓮くんだけッスよ」
「は、はあ……」
雨蓮さん、散々な言われようだなぁ……。
せまい備品室のなかで、まだお兄ちゃんと格闘している雨蓮さんをちらりと見ると、指をからめるように左手をにぎられた。
「僕は望羽ちゃんを大切にする。おたがいの好きなものを知って、大事にしたいことを知って……誰よりも、居心地がいい男になるよ」
「俺は望羽ちゃんが望むことをなんでもかなえるッス。俺の気持ちも、たくさん伝えるッスよ。俺がどれだけ望羽ちゃんのこと好きか、知って欲しいッス」
左手は未來先輩につながれて、右手も犬丸先輩につながれて。
からめた指にキスをして、2人からまっすぐに見つめられると、胸がドキッと音を立てた。
「あ……わたし、今、ドキッとしちゃいました」
「ほらね。クズ先輩を好きになったっていうのは、錯覚だよ」
「そッス、刺激が強いことをされて、誤解しちゃったッスよ」
「おい、望羽をだますのもそこまでだ。望羽は俺に
「そんなこと認めるか!」
「雨蓮さん……でもわたし、実験の結果、勘違いだったみたいです!」
未来先輩たちにドキドキしちゃったから、雨蓮さんが好きなわけじゃないんだよね……?
「ざまぁみろ!」とうれしそうに言うお兄ちゃんや、雨蓮さんをあおる未來先輩と犬丸先輩を見て、あわわ、と眉を下げる。
「はっ……負け犬どもはそこでほえてろ。……来い、望羽」
「えっ? は、はい! ごめんなさい、未來先輩、犬丸先輩っ」
「あ!? おい、待て!」
「「望羽ちゃん!」」
イラっとしたように眉根を寄せて冷たく笑った雨蓮さんは、お兄ちゃんから
呼ばれて、とっさに返事をしてしまったわたしも、先輩たちの手をほどいて備品室を出ると、雨蓮さんに手を引かれる。
とたんに、胸がドキドキと呼応し始めて。
あれ……? やっぱりわたし、雨蓮さんのこと好きなのかな……!?
「待ちやがれクズ野郎!」
「逃がしませんよクズ先輩! 望羽ちゃんをもてあそぶのもそこまでです!」
「そッスよ! 望羽ちゃんを返すッス!」
追いかけてきたみんなと不本意に始まった鬼ごっこは、先生に見つかって怒られるまで続いた。
結局、わたしは雨蓮さんを好きになったのか、キスされてそう錯覚しただけなのか、はっきり分からず。
わたしたちの恋愛
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