酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
1,人気者のお兄ちゃん
「なんでも屋、依頼だ」
B棟2階、備品室にて。
ブレザーのそでをまくった腕を伸ばして、1000円札をぴらり、と突き出した不良生徒は、悪だくみをするように笑った。
「OK、話を聞こう」
奥の段ボール箱に腰かけて、長い足を組んだ男は、クールな
壁に沿って置かれたスチールラックに背中を預けた美女は、「ふふ」と笑い声をもらした。
「今回はどんな内容かしら?」
「俺たち、なんでもやるッス! 任せて欲しいッスよ!」
あぐらをかいて床に座りこんでいた男は、手に持った袋からポテトチップスを取り出して、ピンと腕を上げる。
その後、パリパリッという、そしゃく音がひびくなか、男たちの商談は始まった。
「この前――」
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Side:
コツコツ、コツコツ、と鳴るローファーの音を聞きながら、わたしはとなりを歩くお兄ちゃんの笑顔を見上げた。
「それでね、チョコバナナクレープが一番おいしいんだって。
「うんっ、行ってみたい!」
「よしよし、それじゃあ今日のおやつはクレープね」
美人なお母さんに似て美男子なお兄ちゃんは、わたしの頭をなでて、きれいに笑う。
最近学校で話題の、駅前にできたクレープ屋さんの話を聞いて、朝ご飯を食べたばっかりなのにちょっとお腹がすいてきた。
かっこよくて、やさしくて、頭がよくて、運動もできるお兄ちゃんが人気者なのは、幼いころからの日常。
学校が近づいてくると、わたしは少しお兄ちゃんから離れた。
「
「きゃー! 今日も
「あ、天衣! はよーっす。ははっ、今日もモテモテだな~、この野郎!」
「茅都先輩! この前はありがとうございました!」
同じく学校へ向かう制服姿のみんなが、一度はお兄ちゃんを見て、遠くから声をかけたり、近くに寄ってきたりして。
お兄ちゃんの周りは、あっという間に、にぎやかになる。
「おはよう。あ、ネクタイまがってるよ。はは、ひっぱらなくても聞いてるって」
「ねぇ茅都、この前言った新商品が今日出るの! 一緒に行かない?」
「あぁ、あれ今日出るんだ。ごめん、今日は妹と約束してるんだ、明日でもいいかな?」
「え~、まぁしかたないか……茅都ってシスコンだもんね?」
「かわいい妹を大事にするのはあたりまえだよ」
堂々とそんなことを言ってくれるお兄ちゃんに、いつも照れちゃう。
見た目で言えば、お父さんに似たわたしはとりわけ美人でもなくて、“
「お兄ちゃん! クレープ屋さんは明日でもいいよ」
歩道からはみ出さないように、うしろに下がったわたしはお兄ちゃんの背中に声をかけた。
すると、お兄ちゃんは振り向いて眉を下げる。
「だーめ。望羽はすぐにそうやって自分をあと回しにするんだから。僕が望羽と、今日クレープを食べに行きたいの」
「……うん、分かった」
そんなふうに言われちゃったら、もう明日でいいよ、なんて言えない。
わたしは、はにかんで笑った。
お兄ちゃんをさそった女の人は、残念そうな顔をしながら笑って「ありがと~、妹ちゃん」と軽く手を振る。
わたしは、「いえ」と頭を下げた。
「クレープって、もしかして駅前のお店ですか? あたしも一緒に行きたいです!」
「ごめんね、大勢で行くと妹があと回しになっちゃうから。また今度でいいかな?」
「分かりました……今度、絶対一緒に行きましょうね!」
2年生っぽい女の人は、お兄ちゃんにそう言ったあと、ジロリとわたしをにらむ。
あわてて視線を落とすと、にぎやかな話し声に混ざって、その女の人の明るい声が聞こえた。
こっそり、ふぅ、と息を吐き出して、また集まってきた人に場所を空けるため、わたしはうしろに下がっていく。
校門が目の前に来ると、もうお兄ちゃんの周りには二重、三重に人の輪ができて、一切近づけなくなるのが常。
だからわたしは学校につくと、静かにお兄ちゃんから離れて1人で教室に向かう。
お兄ちゃんはそれが気になるみたいで、いつも[ほったらかしにしちゃってごめんね]ってメッセージをあとから送ってくれるんだけど。
教室につくと、わたしに気づいた女の子たちは「おはよう」とあいさつして近づいてきた。
「ねぇ、天衣さん、今日の天衣先輩の時間割教えてくれない?」
「今日はお昼、私も一緒に食べていいかな?」
「お願い、天衣さん! 茅都先輩を紹介して! 3年と1年じゃ全然接点ないし、昼休みも茅都先輩すぐ出て行っちゃうし!」
「わ、う、うん、お兄ちゃんに聞いてみるね……?」
いつものことだけど、ついつい勢いにびっくりしちゃう。
お兄ちゃんは学校中の人気者だから、教室でも
みんな、お兄ちゃんと仲良くなりたいみたい。
わたしもみんなの力になりたいからできることはしてるんだけど、人が多いから毎日同じようなことをしている気がする。
一番すごいのは、それだけ大勢の人を
わたしは今日も、みんなと
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