酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
18,残ったしこり
先輩たちと仲直りしてから……そして、先輩たちに告白されてから、数日。
いいなんでも屋さんに変わることになった先輩たちは、“今までの清算をする”と言って、いそがしくしているみたいだった。
わたしはすべてが終わるまで、B棟の備品室にも、先輩たちにも近づかないように、と言われて、今まで通り過ごしている。
まぁ、“今まで通り”と言うには……みんなからお兄ちゃんのことを聞かれたり、頼みごとをされたりしなくなったんだけど。
「あ……」
「どうしたの?」
休み時間、日直の女の子を手伝って、クラス全員分のノートを職員室に運ぶとちゅう。
渡り
「あ、ううん、ちょっと知ってる人を見つけて。行こう?」
「うん。……本当にありがとう、
「そうかな? 気にしないで、1人じゃ大変だから」
「ありがとう。みんな、天衣先輩のことばっかり話してるけど……私は天衣さんだってすごくやさしいと思うな」
職員室まで歩きながら、日直の女の子に
わたしは、わたしにできることでみんなのお手伝いができれば、って思ってるだけだから……。
こんなふうに言われると、すごくいいことをしてるように
実際には、ただノートを一緒に運んでるだけなのに。
女の子と話しながら職員室にノートを届けたあと、わたしはトイレに行くからと、1階で日直の女の子と別れた。
用を済ませてトイレを出ると、
「あ……」
「あん? なに見てんだ」
「あ、すみません。
「あ? てめぇ、なんで俺の名前を知ってる?」
「え?」
なんでって、
あ、そっか。そういえば自己紹介してなかったっけ。
「改めまして、
「天衣、望羽? ……そうか、お前か! あのときの女は!!」
「えっ……!?」
な、なんか急に怒り出した……!?
びっくりして半歩後ずさると、中武さんは勢いよく近づいてきて、わたしの肩をつかんだ。
「お前の
「あ、あの男……っ? って、
ヨリを戻した……って、確か、別れた2人がまた付き合うことだよね?
っていうことは、栗本さんたち、やり直してくれたんだ!
「よかったぁ……」
「よくねぇ! せっかく金払って別れさせたのに……! てめぇのせいだろ! なんでも屋が店じまいしたのも!」
「えっ……そ、そうとも言えなくはないですが……!」
「おかげでこっちはイライラしてんだ! 多少は痛い目見せてもいいよなぁ……!?」
中武さんはわたしを横の壁に押しつけて、こめかみに青筋を浮かべながら拳を上げる。
え、え、またなぐるつもり……っ!?
やだ、どうしよう……っ。
「や、やめてくださいっ……!」
「うるせぇっ、一発なぐらねぇと気が済まねぇんだよ!」
拳を引いたのを見て、もうダメ、なぐられる!と思って目をつぶると、「う゛っ」と中武さんのうめき声が聞こえた。
肩をつかむ手が離れたのを感じて、そぉっと目を開ければ、中武さんの頭が沈んでいく。
え……と目を丸くすると、くずれ落ちた中武さんのうしろに、
「く、葛谷さん……?」
「まったく……1回だまらせたって言うのに、今度は望羽にからむとは。これだから休むひまがないんだ」
葛谷さんはため息をつくと、どうやら気を失ったらしい中武さんを廊下に寝かせて、ブレザーのポケットから出したペンのふたを取る。
ペンなんてなにに使うんだろう、と思って見ていたら、葛谷さんは中武さんの横にしゃがみこんで、顔にペン先をつけた。
「えっ、ちょ、ちょっと……!」
“葛谷に負けました(2回目)”って……人さまの顔になにを書いてるの!?
ペンをしまった葛谷さんは、立ち上がってわたしの手をつかむと、階段のほうへ歩いていく。
「く、葛谷さんっ」
「あいつは放っておけ。もう望羽にからみに行くこともないだろう」
「は、はあ……じゃなくてっ、いいんですか、あれ!?」
「あぁ。油性だから数日は落ちない。プライドがあればあるほど表を歩けなくなる。また向かってくるようなら同じことをすればいい……不良にはいい薬だ」
「そ、そうなんですか……?」
もしかして葛谷さんたちって、今こんなことをして回ってるの……?
それっていいのか悪いのか……。
「葛谷さんたち、大丈夫なんですか? 危ないことは……」
「……心配する必要はない。望羽には飛び火しないよう気を遣ってるからな」
「そうじゃなくて! 葛谷さんたちは、怪我をしたりしてませんか? あんなふうにからまれたら……」
さっきのことを思い出して手がふるえると、葛谷さんが足を止めて振り向き、わたしのほおに触れた。
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