酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
17,なんでも屋の転身
「と、とにかく! わたしは先輩たちとちゃんと仲直りしたよ、ってことを言いたかったの!」
困ってるのだって、告白されたことだけで、わたしなんかに告白してくれるくらい、先輩たちもわたしに好意的……ってことだしっ。
これで、お兄ちゃんも分かってくれるよね?
「
「お兄ちゃん……!」
やさしくほほえんでくれたお兄ちゃんを見て、よろこんだのもつかの間。
お兄ちゃんは、「でも」と言って、やっぱり先輩たちをにらんだ。
「不良相手になんでも屋なんてやってるこいつらなんかと関わらせてはおけない。いつ望羽に飛び火するか……!」
「そ、それは……っ」
確かに、先輩たちがなんでも屋さんをやってるのは変わらないけど……。
困って先輩たちを見ると、
そして、犬丸先輩はにこっと笑って、腰をかがめながらわたしに顔を近づける。
「俺は望羽ちゃんが望むことをかなえるッス。
さっきの話の続きをする犬丸先輩に目を丸くしながらも、ふと思いついたことがあって、先輩たちの顔を見回した。
みんな、わたしを見ていて……きっと、わたしのお願いを聞いてくれる、って思ったから、わたしは先輩たちを見つめて口を開いた。
「みなさん、いいなんでも屋さんになってください!」
「望羽、そんなのこいつらが聞くわけ――」
「分かった」
「――はぁ!?」
「望羽ちゃんに、はじない僕になるよ」
「分かったッス、望羽ちゃん!」
目を伏せて答えた葛谷さん以外、みんな笑顔で答えてくれて、わたしも笑顔を返す。
お兄ちゃんを見ると、目も口もぽかんと大きく開いて、先輩たちを見つめていた。
「まずは手始めに……この事態でも
「そうですね、クズ先輩」
「わぁ~、階下にもけっこう集まってるッスよ」
「え?」
ふ、とほほえんだ葛谷さんがどこを見ているのか分からなくて……階段の横に近づいて下をのぞきこんだ犬丸先輩につられて振り返ると。
階段のおどり場から顔を出して、こちらをのぞいている生徒がたくさんいた。
「わ!?」
「お前が大声を出すからだぞ、
「……チッ」
「あら、茅都先輩、舌打ちなんてしたらイメージが
「みんなやっほーッス~」
い、いつの間にこんなに人が……。
わたしを隠すように、お兄ちゃんがわたしの頭を胸に抱きこんだものだから、もう見えなくなってしまったけど。
おどり場だけでも、10人くらいはいたよね……?
先輩たちは気づいてて反応してなかったんだ……。
「お前たちの疑問に答えをやろう。天衣茅都は、妹を傷つける人間にはすぐキレて、この通り性格が大きく変わる」
「望羽ちゃんに悪いことをしなければ、天衣くんがキレることはないッスよ~」
「私たち、一度は望羽ちゃんを泣かせちゃったから……茅都先輩がこんなに怒るのも当然だわ。私たちだって後悔したもの」
階段を下りていく足音がすると同時に、先輩たちの声が遠のいていく。
お兄ちゃんが先輩たちに怒ってたのは本当だけど……性格が変わったわけじゃなくて、いつもしてる演技をしなくなっただけだよね?
なんだか、先輩たちの言い方じゃ、お兄ちゃんがわたしのことで怒ったら今みたいになる、って言ってるように聞こえるんだけど……。
「俺たちが望羽になにをしたのかは、お前たちの想像に任せる。が、俺たちはそのつぐないと」
「望羽ちゃんの彼氏候補として、天衣くんに認めてもらうために!」
「ホワイトななんでも屋を始めるから、ぜひ依頼に来てね」
「誰が彼氏候補だ! 絶対に認めないからな!」
「お、お兄ちゃんっ……!」
「と、道のりは長いから、たくさん利用してくれると助かるわ。ちなみに私も望羽ちゃんの彼氏候補として名乗りを上げているからよろしくね」
うぅ、そんなに堂々と宣言されるとはずかしいよ……っ。
わたし、絶世の美女でもないし、性格がいいわけでも、なにか特技があるわけでもないもん……っ!
なんでわたしが3人に?って絶対みんなに思われるよ!
「営業開始は1週間後。忘れた教科書を用意したり、失くしたものを探したり、ケンカの
「要はなんでもやるッスよ! 困ったことがあったら、どんなことでも話しに来て欲しいッス」
「私たちの誰に依頼してくれてもいいわ。まぁ、学年が違うと話しかけづらいでしょうから……」
「1年は、望羽に相談しろ。俺たちが望羽から話を聞いて解決してやる」
「はぁ!? 望羽を巻きこむな!」
「お、お兄ちゃん、いいよっ! わたし、なんでも屋さん手伝う!」
「望羽……!」
わたしを離して、おどり場にいる先輩たちのもとへ行こうとしたお兄ちゃんを止めて、先輩たちにうなずいてみせた。
こっちを見上げた先輩たちは、笑ったり手を振ったりしてわたしに応える。
すると、お兄ちゃんはため息をついて、静かに階段を下りていった。
わたしもあとを追うと、お兄ちゃんは先輩たちの前に出て、階段や階段前にびっちり集まっているみんなに愛想のいい笑顔を向ける。
「さっきは、さわがしくしてごめんね。この3人を監視するために、僕もなんでも屋を手伝うから、安心して声をかけてくれていいよ」
「お兄ちゃん……」
「これでいいでしょ? 望羽」
お兄ちゃんは眉を下げてわたしの頭をなでた。
わたしは笑顔で「うん!」と答えて、改めて集まった生徒の数におどろきながら、頭を下げる。
「なんでも屋さんを、よろしくお願いします!」
顔を上げると、みんなは
先輩たちも、お兄ちゃんも、みんなにちらちらと見られてる。
「さ、もうすぐ授業が始まっちゃうよ。みんな、教室に帰ろう?」
それでも、気にせずにこりと笑ったお兄ちゃんの言葉で、イレギュラーなこの場は解散となった。
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