()いも甘いも、イケメンぞろい。

16,お兄ちゃんのうたがい

約2,200字(読了まで約6分)


 ハッと気を持ち直して振り返ると、険しい顔をしたお兄ちゃんが近づいてきて、わたしから先輩たちを引きはがした。
 守るように抱きしめられると、ホッと一息つくよゆうができる。


「お兄ちゃん……」

「チッ、もう来たのか。足止めしておいたのに……」

生憎(あいにく)だったな。お前らが望羽(みはね)に近づくようなことがあったらすぐに教えてくれって、1年に頼んでたんだよ」


 先輩たちをにらみながら、低く言ったお兄ちゃんの言葉で、もしかしてあの子が、と4階についたときに話した女の子の顔が浮かんだ。
 先輩たちも同じことを思ったのか、犬丸(いぬまる)先輩が「ははぁ、徹底(てってい)してるッスねぇ」とつぶやく。


「言ったよな、二度と望羽に近づくなって。望羽を泣かせたことは一生許さないぞ。さっさと消えろ、クズども」

「お、お兄ちゃん、ちょっと待って! そのことは謝ってもらって、仲直りしたから……!」

「はぁ……? 望羽、だまされてるんだ。望羽はいい子だから分からないかもしれないけど、世の中にはこいつらみたいな悪人もいるんだよ」

「た、確かに悪いことはしたけど、でも、本当の悪い人じゃないよ……! お兄ちゃんだって、先輩たちとは気が合う友だちなんでしょっ?」


 必死にうったえると、お兄ちゃんは目をつぶって、眉根を寄せながら顔を(そむ)けた。


「こんなやつらと関係を持った俺がバカだった。望羽を傷つけるようなゴミカスどもと関わってたから、望羽を泣かせることになって……」

「そんなことっ、言っちゃダメ!! わたしは先輩たちのことっ、好きだもん!」


 お兄ちゃんがひどい暴言を吐くものだから、思いっきりさけんで、眉を下げながらお兄ちゃんを見つめると、お兄ちゃんがハッと、困惑(こんわく)した顔をする。
 わたしを想ってくれるのはうれしいけど、先輩たちにひどいことは言って欲しくないよ。
 胸がギューッと()めつけられるのを感じていると、不意に“好き”と言ってしまったことに気づいて、あわてて先輩たちのほうを見た。


「あ、今のは違いますからね!? そういう好きじゃなくてっ、人として好きっていうことで……っ! だから今のはお返事とかじゃなくて!」


 赤面しながら弁解すると、みんな目を丸くしてわたしを見る。


「……望羽、かわいくないか?」

「かわいいです」

「かわいいッスね」

「望羽がかわいいのは事実だけどお前らがかわいいとか言うな! 望羽が(けが)れる!」

「お、お兄ちゃんまでなに言ってるの!?」


 そんな状況じゃないのに!
 わたしはパタパタと両手を振って場の空気を切り替えてから、まずお兄ちゃんを見つめた。


「お兄ちゃん、先輩たちはちゃんと謝ってくれたの! わたしは怒ってもないし、先輩たちを嫌ってもいないから、仲直りしたんだよ」

「でも、望羽……!」

「もう嫌なことだってしないはずだもん! ですよね、みなさん!?」


 振り返って聞くと、葛谷(くずや)さんも、未來(みらい)先輩も、犬丸先輩もしっかりとうなずいてくれる。


「あぁ」

「もちろん!」

「そッス!」

「お前らの言葉なんか信用できるか! そもそもの性格が悪いんだ、またくり返すに決まってる!」

「性格が悪いのはおたがいさまだろ。他のやつはともかく、望羽は大切にする」

「お前と一緒にするな、雨蓮(うれん)! お前らの“大切”は念入りにだまして傷つけることだろ。人を傷つけずに大切にすることなんてできない」


 お兄ちゃんは変わらず、先輩たちをにらんだまま。
 どうしたらみんなが悪い人じゃないって、分かってもらえるんだろう……?
 視線を落として考えていると、葛谷さんがため息をついた。


「他人に無関心なお前だって、望羽にはベタ()れじゃないか。望羽にはそういう魅力(みりょく)があるんだろう」

「……望羽ちゃんを傷つけて泣かせたこと、心の底から後悔しました。だから僕は、もう二度と望羽ちゃんを傷つけたりはしません」

「そッス、もう人を傷つける“イタズラ”なんてしないッスよ。望羽ちゃんには笑ってて欲しいッス。笑顔が一番似合う子ッスから」


 にこっと笑った犬丸先輩と、真剣な顔をしている未來先輩、いつも通りのクールな表情をしている葛谷さんを見て、心を打たれる。
 みんな……。


「……まさか、望羽に本気になったって言うのか?」

「あぁ」

「はい、茅都(かやと)先輩」

「はいッス」


 しっかり返事をする先輩たちに照れながらも、わたしはお兄ちゃんに顔を向けて笑った。


「ね、お兄ちゃん。先輩たち、悪い人じゃないんだよ。今は告白されて、ちょっと困ってるんだけど……」

「はぁっ!? 告白!?」


 お兄ちゃんは目を見開いてわたしを見つめたあと、ものすごい勢いで先輩たちをにらむ。
 あ、あれ……?


「あぁ、した。悪いか?」

「しました。愛をこめて」

「しちゃったッス」


 クールに流す葛谷さん、きれいに笑う未來先輩、にこにこ笑う犬丸先輩、みんなを見て、お兄ちゃんはおでこを押さえた。


「3人とも、だと……っ。ふざけるなっ、お前らみたいな性格の悪いやつなんかに望羽は渡さない!」

「怒っちゃダメッスよ、天衣(あまい)くん。それを決めるのは望羽ちゃんッス」

「僕は茅都先輩にも認めてもらいます」

「お前の許可なんて必要ない、望羽はさらっていく」

「み、未來先輩っ、葛谷さん……!」


 なんてことを言うの、2人とも!?
 かぁっと赤面すると、犬丸先輩が「俺はどうしようッスかね~」と考える素振りを見せた。
 犬丸先輩までなにか言うつもり!?


(※無断転載禁止)