()いも甘いも、イケメンぞろい。

15,仲直りは溺愛(できあい)の始まり?

約2,300字(読了まで約6分)


 にっこりと笑顔を向けると、先輩たちは目を大きく開いて、ぽかんとわたしを見つめる。
 どうしたのかな? 仲直りしにきたはずなのに。


「い、いいんッスか? 俺たち、望羽(みはね)ちゃんにひどいことして、泣かせちゃったのに……」

「謝ってくれたじゃないですか。みなさんも、わたしと仲直りしたいって思って来てくれたんですよね?」

「そ、そうだけど……でも……」

「……俺たちを許さないことだって、できるんだぞ」


 じっと葛谷(くずや)さんに見つめられて、手を引っこめながら、うーん、と考えた。


「もう一度考えてみましたけど、やっぱり怒ってもいないし、先輩たちを嫌だとも思っていないです」

「望羽ちゃん……」


 目を丸くしてわたしを見つめる未來(みらい)先輩を見て、にこっと笑いながら、もう一度手を差し出す。


「だから、仲直りしましょう?」

「……ありがとう」


 未来先輩は泣き笑いのような顔をして、わたしの手をにぎり返してくれた。
 未来先輩と仲直りの握手(あくしゅ)をしたあとは、葛谷さんと。
 手を差し出して見上げると、葛谷さんはなにも言わず、ただ、ギュッと手をにぎり返してくれる。
 最後に犬丸(いぬまる)先輩の前にも手を差し出すと、犬丸先輩は「望羽ちゃん、ごめんなさいッスー!」と今にも大泣きしそうな勢いで握手をしてくれた。
 しゅんと()れた耳としっぽが見えるような気がするから、犬丸先輩ってやっぱりわんちゃんみたい。

 あはは、と笑ったあとに改めて先輩たちの顔を見回すと、「そうだ」とあることを思い出して眉を下げる。


「みなさん、ほっぺは大丈夫ですか? 痛かったですよね……」


 未來先輩と犬丸先輩は赤みが引いてるけど、葛谷さんはひときわ強くたたかれたのか、まだ少しほおが赤かった。
 心配して葛谷さんのほおに手を伸ばすと、葛谷さんはじっとわたしを見つめて、手を重ねてくる。
 あ、触られるの嫌だったかな、と思ったのもつかの間。


「望羽。お前が欲しい」

「えっ?」


 わたしが欲しい? って、なに??


「あ、ずるい! クズ先輩ってほんとクズですね、望羽ちゃんは僕がねらってたんですよ!?」

「え?」


 “男の人の声”を出した未來先輩は、葛谷さんの手をはたき落としてわたしを抱き寄せると、長い髪を耳にかけてほほえんだ。


「望羽ちゃん、好きだよ。僕、きみの前ではずっと、花に恋焦(こいこ)がれる男でいたいな」

「へっ……!?」


 低い声で甘い言葉をささやいた未來先輩は、わたしの髪をすくいとって、チュ、とキスをする。
 かぁぁっと上がった体温は、絶対、顔だけじゃなくて首までわたしを真っ赤に染め上げたはず。


「えーっ、2人もッスか!? 俺だって望羽ちゃんにキュンと来たッスよ!」

「い、犬丸先輩!?」

「うわっ、ちょっと、怪力のイヌめ……!」


 うしろにひっぱられたわたしは、未來先輩の腕のなかから、犬丸先輩の腕のなかへと移った。
 わたしのお腹に、ぎゅーっと腕を回した犬丸先輩は、耳元から顔をのぞかせて、じっとわたしの目を見つめる。


「好きッス、望羽ちゃん。俺と付き合って欲しいッス」

「えぇぇっ……!?」


 わ、わたし! 2人の男の人に告白されちゃった!?
 ただでさえ初めてのことなのに、こんな変わった状況になるなんて!


「離せ、藤一(ふじいち)

「はいッス。……あ」

「わ、く、葛谷さん……?」


 するっと犬丸先輩の手が離れていったかと思えば、今度は葛谷さんに手をひかれた。
 そのまま、わたしの手は葛谷さんの顔の高さまで持ち上げられ……。
 ふに、と手首に葛谷さんの唇が押し当てられる。


「へ……?」

「望羽。好きだ。付き合うなら、俺にしろ。誰よりもかわいがってやる」

「っ……!?」


 流し目で見つめられたかと思えば、ふ、とほほえまれて、バクバクバクッと心臓が破裂(はれつ)しそうになった。
 吐息(といき)が手首にあたるせいで、頭がくらくらしてくる。

 葛谷さんまで……っ、どうしてわたしに!?


「どうせ今()れたくせにずうずうしいですよ!」

「ひゃっ、み、未來先輩っ……」


 また未來先輩に抱き寄せられて、ドキドキしながら顔を見ると、未來先輩はユリのように笑って、わたしのほおをなでた。


「ねぇ、望羽ちゃん、僕と付き合おうよ。僕は望羽ちゃんの笑顔を見たときから、望羽ちゃんに心をうばわれたんだ」

「わ、わたしの笑顔……!?」

「そうだよ。世界で一番かわいくて、ドキドキする」


 柔らかく目を細めてわたしを見つめる視線に耐えられなくなったとき、お腹に腕が回されて、少しだけうしろに倒れた背中が誰かにぶつかる。


「俺はとことん()くすッスよ。なんでもしてあげるッス、望羽ちゃん。……きみだけの俺になる。ね」

「い、犬丸っ、先輩……!」


 耳元で声が聞こえて目を向けると、犬丸先輩は大人っぽくほほえんでわたしのほおにキスをした。
 ひゃぁぁぁ、と悲鳴をあげそうになったとき、今度は葛谷さんにつかまれていた手が、ギュッと指をからめてにぎられる。


「望羽にたかるな、お前ら。望羽は最初から俺に見惚れてた。つまり俺のものだ」

「はぁ? クズ先輩なんて顔だけで性格は最悪じゃないですか!」

「そッス、もう素直に言うこと聞いたりしないッス! 誰と付き合うかは望羽ちゃんの自由ッス、そして望羽ちゃんは俺を選んでくれるッスよ!」

「なわけないし! 望羽ちゃんは僕としあわせになるんです、なにせ女の子の気持ちは僕が一番よく分かりますからね」


 どうしてわたしがモテモテな女の人みたいに、3人の先輩から言い寄られてるの!?
 しかもみんなイケメンぞろい!
 わたしにはキャパオーバーだよ~!!
 もう気絶しそう、と意識が遠のいていくのを感じていたら、「お前ら望羽になにしてるんだ!!」とお兄ちゃんの怒鳴り声が聞こえた。


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