酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
14,協力と謝罪
「ふふ、かんたんにだまされてバカな女ねって笑ってたのよ。この人は私の彼氏なのに」
「えっ」
急になにを言ってるの……!?
目も口も、ぽかーんと大きく開けたわたしの手を、
っと、っと、と動いて収まった先は、犬丸先輩の大きな体のうしろで、頭のなかがハテナで
「あなただって、私のうそをコロッと信じちゃって……ふふっ、楽しい
「薄っぺらい言葉でもあれだけよろこぶなら、気が向いたときにまた遊んでやろうか? アイドルにハマるような女だ、うれしいだろう?」
未來先輩も葛谷さんも、とつぜん、どうしちゃったんだろう……!?
「
弓崎さんと話してたのはこんなことじゃないのに、これじゃあまた誤解されちゃう……っ。
あわてて2人を追いかけようとすると、犬丸先輩に止められて、「しー」と口の前に人差し指を立てられる。
「このままそっとしておけば、あとは自然にくっつくッス」
「え……?」
腰をかがめた犬丸先輩にひそひそとささやかれて、目を丸くした。
「……もういいだろ。離れろ」
「私だってクズ先輩にひっつきたくなんかないですー。
「葛谷さん、未來先輩……」
葛谷さんに背中を向けるように離れた未來先輩のうしろで、葛谷さんが抱きつかれていた腕をパッパッと払う。
2人とも、わざとあんなことを言ったの……?
栗本さんたちを仲直りさせるために?
“依頼”のために別れさせたのに、どうして……。
じぃっと先輩たちを見つめると、わたしに気づいた未來先輩は気まずそうに目をそらして、振り返った葛谷さんは目を伏せた。
「ひとまず、場所を移すか。ここじゃギャラリーが多すぎる」
「そッスね。……望羽ちゃん、ついてきてくれるッスか?」
眉を下げて笑った犬丸先輩に言われて、わたしは「……はい」と答える。
3人の先輩のあとに続いて階段へ向かい、4階へ上がると、別のクラスの女の子に声をかけられた。
「
「え? あ、えっと、この先輩たちと少しお話があって。なにか用でもあった?」
「……ううん」
「そっか。それじゃあ、またね」
笑顔で手を振ると、心なしか硬い顔で手を振り返されて、どうしたのかな、と首をかしげる。
でも、今は先輩たちが待ってるから……女の子を気にしながらも、わたしは先輩たちと一緒に、屋上前へと上がっていった。
足を止めて振り返った先輩たちと対面すると、わたしはおずおずとみんなの顔を見回して口を開く。
「……どうして、あんなことをしたんですか?」
「やり直させようと、してたんだろ」
「わたしは、そうですけど……みなさんは、なんでも屋さん、ですよね」
「……そうよ。でも……、ごめんなさい、望羽ちゃん。うそをついて、だまして」
「え……」
未来先輩が、バッと頭を下げたのを見て、目を丸くした。
長い髪が
「俺も、望羽ちゃんを傷つけてごめんなさいッス!」
「い、犬丸先輩っ?」
「……すまなかった」
「……」
葛谷さんまで……。
みんながそろって、深々と頭を下げているのを見て、わたしはぽかんとしてしまった。
謝って、くれるなんて……。
悪びれることもなく、笑ってたのに。
「……みなさん、顔を上げてください」
そう言ってから少しして、先輩たちは顔を上げてくれた。
もう一度、みんなの顔をじっと見回すと、犬丸先輩がしゅんとした顔で口を開く。
「イタズラなんかじゃ済まされないことだって、ようやく気づいたッス。人を傷つけることは、“友だち同士のじゃれ合い”なんかじゃないって……」
犬丸先輩は、「本当は俺も、そう言いたかったッスのに」と、うつむいて暗い顔をした。
「……過ぎたことだ、しょうがないだろ」
「……」
目を伏せて静かに言う葛谷さんのとなりで、未來先輩は二の腕を抱いて悲しそうな顔をしている。
みんな……過去に、なにか辛いことがあったのかな?
なにを考えて、どういう気持ちで今、謝りに来てくれたのかは分からないけど……。
みんな、本当の悪い人ではなかったんだ。
「……まずは、お兄ちゃんの動画を消してもらえますか?」
あのあと、お兄ちゃんが誰に見られてもかまわない、って言ってたから、消してもらうために会いに行くことはしなかったんだけど。
誰かに悪用されるのは嫌だから、やっぱり消しておいてもらわないと。
「あれなら、もう消した。
「……ひどいです」
「すまない」
だましてたなんて、って思ったのに、素直に謝られたら怒りたい気持ちがどっかにいっちゃった。
わたしは息を吐きながら笑って、先輩たちの前に手を差し出した。
「いいですよ。仲直り、しましょう」
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