()いも甘いも、イケメンぞろい。

14,協力と謝罪

約2,100字(読了まで約6分)



「ふふ、かんたんにだまされてバカな女ねって笑ってたのよ。この人は私の彼氏なのに」

「えっ」


 未来(みらい)先輩がするりと葛谷(くずや)さんの腕に手を回して、親し()に体を寄せる。
 急になにを言ってるの……!?
 目も口も、ぽかーんと大きく開けたわたしの手を、犬丸(いぬまる)先輩がつかんでひっぱった。
 っと、っと、と動いて収まった先は、犬丸先輩の大きな体のうしろで、頭のなかがハテナで()めつくされる。


「あなただって、私のうそをコロッと信じちゃって……ふふっ、楽しい見世物(みせもの)だったわよ? お礼に新しい彼女でも紹介してあげましょうか?」

「薄っぺらい言葉でもあれだけよろこぶなら、気が向いたときにまた遊んでやろうか? アイドルにハマるような女だ、うれしいだろう?」


 未來先輩も葛谷さんも、とつぜん、どうしちゃったんだろう……!?


(すみれ)に触るな! 俺たちをバカにするのも大概(たいがい)にしろっ、もう二度と顔を見せるんじゃねぇ!」


 栗本(くりもと)さんの怒った声が聞こえてきて、あわわ、と犬丸先輩の背中から顔を出すと、栗本さんが弓崎(ゆみさき)さんの手を引いて去っていくところが見えた。
 弓崎さんと話してたのはこんなことじゃないのに、これじゃあまた誤解されちゃう……っ。
 あわてて2人を追いかけようとすると、犬丸先輩に止められて、「しー」と口の前に人差し指を立てられる。


「このままそっとしておけば、あとは自然にくっつくッス」

「え……?」


 腰をかがめた犬丸先輩にひそひそとささやかれて、目を丸くした。


「……もういいだろ。離れろ」

「私だってクズ先輩にひっつきたくなんかないですー。望羽(みはね)ちゃんのためじゃなきゃ、ここまで体張りませんから」

「葛谷さん、未來先輩……」


 葛谷さんに背中を向けるように離れた未來先輩のうしろで、葛谷さんが抱きつかれていた腕をパッパッと払う。
 2人とも、わざとあんなことを言ったの……?
 栗本さんたちを仲直りさせるために?
 “依頼”のために別れさせたのに、どうして……。

 じぃっと先輩たちを見つめると、わたしに気づいた未來先輩は気まずそうに目をそらして、振り返った葛谷さんは目を伏せた。


「ひとまず、場所を移すか。ここじゃギャラリーが多すぎる」

「そッスね。……望羽ちゃん、ついてきてくれるッスか?」


 眉を下げて笑った犬丸先輩に言われて、わたしは「……はい」と答える。
 3人の先輩のあとに続いて階段へ向かい、4階へ上がると、別のクラスの女の子に声をかけられた。


天衣(あまい)さん? ……どうしたの?」

「え? あ、えっと、この先輩たちと少しお話があって。なにか用でもあった?」

「……ううん」

「そっか。それじゃあ、またね」


 笑顔で手を振ると、心なしか硬い顔で手を振り返されて、どうしたのかな、と首をかしげる。
 でも、今は先輩たちが待ってるから……女の子を気にしながらも、わたしは先輩たちと一緒に、屋上前へと上がっていった。

 足を止めて振り返った先輩たちと対面すると、わたしはおずおずとみんなの顔を見回して口を開く。


「……どうして、あんなことをしたんですか?」

「やり直させようと、してたんだろ」

「わたしは、そうですけど……みなさんは、なんでも屋さん、ですよね」

「……そうよ。でも……、ごめんなさい、望羽ちゃん。うそをついて、だまして」

「え……」


 未来先輩が、バッと頭を下げたのを見て、目を丸くした。
 長い髪が()れるのだって気にせずに、未來先輩は頭を下げ続けている。


「俺も、望羽ちゃんを傷つけてごめんなさいッス!」

「い、犬丸先輩っ?」

「……すまなかった」

「……」


 葛谷さんまで……。
 みんながそろって、深々と頭を下げているのを見て、わたしはぽかんとしてしまった。
 謝って、くれるなんて……。
 悪びれることもなく、笑ってたのに。


「……みなさん、顔を上げてください」


 そう言ってから少しして、先輩たちは顔を上げてくれた。
 もう一度、みんなの顔をじっと見回すと、犬丸先輩がしゅんとした顔で口を開く。


「イタズラなんかじゃ済まされないことだって、ようやく気づいたッス。人を傷つけることは、“友だち同士のじゃれ合い”なんかじゃないって……」


犬丸先輩は、「本当は俺も、そう言いたかったッスのに」と、うつむいて暗い顔をした。


「……過ぎたことだ、しょうがないだろ」

「……」


 目を伏せて静かに言う葛谷さんのとなりで、未來先輩は二の腕を抱いて悲しそうな顔をしている。
 みんな……過去に、なにか辛いことがあったのかな?
 なにを考えて、どういう気持ちで今、謝りに来てくれたのかは分からないけど……。
 みんな、本当の悪い人ではなかったんだ。


「……まずは、お兄ちゃんの動画を消してもらえますか?」


 あのあと、お兄ちゃんが誰に見られてもかまわない、って言ってたから、消してもらうために会いに行くことはしなかったんだけど。
 誰かに悪用されるのは嫌だから、やっぱり消しておいてもらわないと。


「あれなら、もう消した。茅都(かやと)があれを見られたくないのは妹だけで、他の誰に見せても意味はないからな」

「……ひどいです」

「すまない」


 だましてたなんて、って思ったのに、素直に謝られたら怒りたい気持ちがどっかにいっちゃった。
 わたしは息を吐きながら笑って、先輩たちの前に手を差し出した。


「いいですよ。仲直り、しましょう」



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