()いも甘いも、イケメンぞろい。

13,やり直すために

約2,100字(読了まで約6分)


Side:天衣望羽(あまいみはね)


「ですから、中武(なかたけ)さんという人がなんでも屋さんに依頼して、栗本(くりもと)さんと弓崎(ゆみさき)さんを別れさせたんです。わたしはあの日初めて栗本さんと会って……!」

「だったらなに? どっちにしろ、あたしだって他に気になる人ができたんだからいいわ」

「で、でも、お2人は別れる必要なんてなかったんですよ!」


 弓崎さんが背中を向けて教室に入っていくのを見て、また失敗しちゃった、とうつむく。
 栗本さんと弓崎さんを別れさせてしまってから、もうすぐ1週間が経とうとしている。
 わたしは翌日から、2人の仲を取り持つために、栗本さんと弓崎さんにそれぞれ事情を話して、説得しようとしていた。
 栗本さんは、昨日自分でメイクをしていったことで、わたし本人だって信じてもらえて、説得できたんだけど。
 弓崎さんのほうは、取りつく島もないって感じ……。


「はぁ……」


 深くため息をついてから、ううん、あきらめちゃダメ!と自分に言い聞かせて顔を上げた。
 弓崎さんを追いかけて2年B組の教室に向かおうとすると、うしろから「なにしてるんだ?」と聞き覚えのある声がする。


「え……」


 この声、もしかして。
 おそるおそる振り返ると、階段のほうから葛谷(くずや)さんと未來(みらい)先輩、犬丸(いぬまる)先輩が歩いてきていた。


望羽(みはね)ちゃん……」

「……もう一度、やり直してもらおうとしてるんです。栗本さんと弓崎さんは、別れる必要のなかった2人だから」


 目をそらして答えてから、「失礼します」と頭を下げて、わたしは体の向きを戻す。


「待て」

「……なんですか?」


 ゆっくり振り返ると、葛谷さんたちはわたしの横を通り過ぎて、2年B組の教室に向かっていった。
 わたしは目を丸くして、あわてて3人のあとを追う。


「先輩たち、なにを……」

(すみれ)


 なにか悪いことをしようとしてるなら止めなきゃ、と眉を下げると、葛谷さんが教室のなかに呼びかけた。
 自分の席に向かっていた弓崎さんはパッと振り返って、明るい顔をする。


雨蓮(うれん)さん!」

「え……」


 あっさりと廊下(ろうか)に出てきてくれた弓崎さんを、わたしはぽかんと見つめた。
 わたしは最初しか、すんなり呼び出せたことがないのに。


「お前を栗本(くりもと)卓也(たくや)と別れさせたのは、俺たちだ。俺はお前が栗本に別れ話を切り出すように、お前に近づいて気を引いた」

「俺は望羽ちゃんにぶつかって、栗本くんに抱きつかせたッス」

「私は彼に話しかけて、あなたとこの人が一緒にいるところを彼に見せたわ。それから、望羽ちゃんのメイクアップもね」

「は……?」


 葛谷さんたちが急にしゃべりだした内容が信じられなくて、目を見開きながら3人の先輩を見る。
 みんな、どうしたんだろう……?
 弓崎さんだって、ぽかんとした顔でみんなを見てる。
 特に、葛谷さんを見つめているようだけど。


「ある不良生徒から、歩いてるときにぶつかった栗本にうさ晴らしがしたい、彼女と別れさせろ……と依頼があった」

「俺たち3人で、2人を別れさせるためにいろいろ動いたッス」

「うそをついて、望羽ちゃんを利用して……ね」


 未來先輩が悲しそうな目でわたしをちらりと見た。
 そんな視線を向けられるとは思わなくて、思わず未來先輩の横顔を見つめてしまう。
 もしかして、未來先輩……。


「……なに、それ。うそでしょ……? 信じられない、ねぇ、雨蓮さん」

「お前の好きなアイドルと、俺の雰囲気が似てるらしいな。俺の顔、好みなんだろう? だから俺がお前を誘惑した。思ってもいない()め言葉でな」

「う、そ……」

「お前の好みが違えば、こっちの男がお前を口説(くど)きに来てた。俺はお前のことを、ただのターゲットとしか思っていない」

「……」


 葛谷さんの冷たい言葉を聞いて、傷ついた顔をした弓崎さんは、グッと唇をかんでうつむいた。
 手を上げながら顔を上げた弓崎さんが、葛谷さんをにらみ、整った顔にビンタをしたのは一瞬のことで。
 パンッという音がひびき渡って、廊下にいた人も、教室の中にいる人もみんなこっちを見る。


「く、葛谷さんっ」


 思わず声をかけると、弓崎さんは、犬丸先輩にも、未來先輩にもビンタをした。
 痛そうな音がしたし、みんな、ほおが少し赤くなっているから、ああ、と中途半端(ちゅうとはんぱ)に手を上げて半歩近づいてしまう。
 でも、3人とも気にしていない様子でまっすぐ弓崎さんを見て、葛谷さんにいたっては落ちついた声を発した。


「俺みたいな顔だけのクズより、お前の趣味を受け入れてくれる栗本のほうが、お前にとってはいい男なんじゃないか」

「うるさいっ、勝手に別れさせて、勝手にくっつけようとして、あたしは、あんたたちのおもちゃじゃないから!」

「お、おもちゃだなんて……っ!」


 そんなつもりじゃ、と誤解をとこうとしたとき、「なに、してるんだ?」と栗本さんの声が聞こえてくる。
 廊下の奥を見ると、栗本さんが険しい顔をしてこっちに近づいてきた。


「あんたら……また菫に、なにかしようとしてるんじゃないだろうな!?」

「卓也……」

「ち、違うんです、栗本さん! 葛谷さんたちは……っ」

「望羽」


 あわてて説明しようとすれば、葛谷さんに名前を呼ばれて、まるで“静かに”と言うように、じっと見つめられる。
 わたしは思わず口を閉じてしまった。


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