酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
13,やり直すために
Side:
「ですから、
「だったらなに? どっちにしろ、あたしだって他に気になる人ができたんだからいいわ」
「で、でも、お2人は別れる必要なんてなかったんですよ!」
弓崎さんが背中を向けて教室に入っていくのを見て、また失敗しちゃった、とうつむく。
栗本さんと弓崎さんを別れさせてしまってから、もうすぐ1週間が経とうとしている。
わたしは翌日から、2人の仲を取り持つために、栗本さんと弓崎さんにそれぞれ事情を話して、説得しようとしていた。
栗本さんは、昨日自分でメイクをしていったことで、わたし本人だって信じてもらえて、説得できたんだけど。
弓崎さんのほうは、取りつく島もないって感じ……。
「はぁ……」
深くため息をついてから、ううん、あきらめちゃダメ!と自分に言い聞かせて顔を上げた。
弓崎さんを追いかけて2年B組の教室に向かおうとすると、うしろから「なにしてるんだ?」と聞き覚えのある声がする。
「え……」
この声、もしかして。
おそるおそる振り返ると、階段のほうから
「
「……もう一度、やり直してもらおうとしてるんです。栗本さんと弓崎さんは、別れる必要のなかった2人だから」
目をそらして答えてから、「失礼します」と頭を下げて、わたしは体の向きを戻す。
「待て」
「……なんですか?」
ゆっくり振り返ると、葛谷さんたちはわたしの横を通り過ぎて、2年B組の教室に向かっていった。
わたしは目を丸くして、あわてて3人のあとを追う。
「先輩たち、なにを……」
「
なにか悪いことをしようとしてるなら止めなきゃ、と眉を下げると、葛谷さんが教室のなかに呼びかけた。
自分の席に向かっていた弓崎さんはパッと振り返って、明るい顔をする。
「
「え……」
あっさりと
わたしは最初しか、すんなり呼び出せたことがないのに。
「お前を
「俺は望羽ちゃんにぶつかって、栗本くんに抱きつかせたッス」
「私は彼に話しかけて、あなたとこの人が一緒にいるところを彼に見せたわ。それから、望羽ちゃんのメイクアップもね」
「は……?」
葛谷さんたちが急にしゃべりだした内容が信じられなくて、目を見開きながら3人の先輩を見る。
みんな、どうしたんだろう……?
弓崎さんだって、ぽかんとした顔でみんなを見てる。
特に、葛谷さんを見つめているようだけど。
「ある不良生徒から、歩いてるときにぶつかった栗本にうさ晴らしがしたい、彼女と別れさせろ……と依頼があった」
「俺たち3人で、2人を別れさせるためにいろいろ動いたッス」
「うそをついて、望羽ちゃんを利用して……ね」
未來先輩が悲しそうな目でわたしをちらりと見た。
そんな視線を向けられるとは思わなくて、思わず未來先輩の横顔を見つめてしまう。
もしかして、未來先輩……。
「……なに、それ。うそでしょ……? 信じられない、ねぇ、雨蓮さん」
「お前の好きなアイドルと、俺の雰囲気が似てるらしいな。俺の顔、好みなんだろう? だから俺がお前を誘惑した。思ってもいない
「う、そ……」
「お前の好みが違えば、こっちの男がお前を
「……」
葛谷さんの冷たい言葉を聞いて、傷ついた顔をした弓崎さんは、グッと唇をかんでうつむいた。
手を上げながら顔を上げた弓崎さんが、葛谷さんをにらみ、整った顔にビンタをしたのは一瞬のことで。
パンッという音がひびき渡って、廊下にいた人も、教室の中にいる人もみんなこっちを見る。
「く、葛谷さんっ」
思わず声をかけると、弓崎さんは、犬丸先輩にも、未來先輩にもビンタをした。
痛そうな音がしたし、みんな、ほおが少し赤くなっているから、ああ、と
でも、3人とも気にしていない様子でまっすぐ弓崎さんを見て、葛谷さんにいたっては落ちついた声を発した。
「俺みたいな顔だけのクズより、お前の趣味を受け入れてくれる栗本のほうが、お前にとってはいい男なんじゃないか」
「うるさいっ、勝手に別れさせて、勝手にくっつけようとして、あたしは、あんたたちのおもちゃじゃないから!」
「お、おもちゃだなんて……っ!」
そんなつもりじゃ、と誤解をとこうとしたとき、「なに、してるんだ?」と栗本さんの声が聞こえてくる。
廊下の奥を見ると、栗本さんが険しい顔をしてこっちに近づいてきた。
「あんたら……また菫に、なにかしようとしてるんじゃないだろうな!?」
「卓也……」
「ち、違うんです、栗本さん! 葛谷さんたちは……っ」
「望羽」
あわてて説明しようとすれば、葛谷さんに名前を呼ばれて、まるで“静かに”と言うように、じっと見つめられる。
わたしは思わず口を閉じてしまった。
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