酸 いも甘いも、イケメンぞろい。
11,お兄ちゃんの本音
学校を出て、アスファルトの歩道を歩きながらうつむく。
いつもはいろんなことを話すのに、今日はお兄ちゃんとの間に
「お兄ちゃんは、どうして“なんでも屋”さんに協力してるの……?」
「……」
答えてくれない、かな。
お兄ちゃんのことだから、きっと理由があるんだよね……?
「……悪い意味で、気が合う友だちだったから」
「悪い意味で……?」
顔を上げると、お兄ちゃんは眉を下げながらほほえんで、視線を落とす。
「俺は……ごめん、
「え……」
「
「……うん」
「でも、そんなこと、興味がないから。雨蓮たちに聞かれたことは、なんでも教えてきた」
「それは……悪いこと、だよ」
お兄ちゃんはちらりとわたしを見ると、「うん」とほほえんだ。
お兄ちゃんは、誰にでもやさしい、いい人だと思ってた。
……でも、それは演技だったんだ。
本当は、冷たいところも、悪いところもあって……。
「望羽、覚えてる? 保育園でも、小学校でも。みんな、片付けとか掃除は望羽に頼んで、別の場所で遊んでたんだよ」
「え……うん。みんな、遊びたかったんだよね」
きょとんとしてうなずくと、お兄ちゃんは悲しそうな顔をしてほほえむ。
「望羽はそうやって、自分のことをあと回しにして、頼まれたことはなんでも引き受けちゃって……それがつらいとも思わない子だから」
「……?」
「俺は、大好きな妹が損ばっかりしてるの、見てられなかったんだよ。誰よりもやさしくていい子なのに、嫌なことばっかり押しつけられてる」
やさしい声で話しながら、お兄ちゃんはわたしの頭をなでた。
わたしが、損ばっかり……?
別に、嫌なことを押しつけられたことなんてないんだけどなぁ……。
「大きくなってから、知ったことだけど。生きてる人間は、みんな一緒に生きてる仲間だ、
「そうなんだ……」
でも、一緒に生きてる仲間、隣人、か。
なんだか、よく分かるかも。
「あぁ、望羽もきっとこういう考え方をしてるから、笑顔でなんでも引き受けられちゃうんだろうなって思った」
「……お兄ちゃんは違うの?」
「うん。俺は、望羽を利用する他の人間なんて、みんないなくなればいいと思ってる」
やさしくわたしを見つめながら、ぶっそうなことを言ったお兄ちゃんにびっくりした。
お兄ちゃんがそんなことを考えてたなんて……。
「最初はね、俺が望羽のまねをして、望羽を利用するやつらから守ろうって思って、いい人の演技を始めたんだ」
「わたしを守る……?」
「俺が先に嫌なこと引き受けちゃえば、望羽はなにもしなくていいでしょ。……望羽も、みんなにやさしい俺が大好きだって言ってくれた」
確かに、お兄ちゃん大好き、とは、子どものころよく言った気がする。
今でもそう思ってるし。
「本当の俺を隠さなきゃって思ったのは、成長して、さっきの考え方を知ってから。俺がみんなを嫌ってるって知ったら、望羽、悲しむでしょ」
「……」
うん、とは言えなくて、眉を下げながら目をそらした。
「ごめんね、俺が、本当はこんな人間で。長いこと演技してきたけど……どうしても、望羽みたいにはなれなかった」
「……ううん。わたしを守ってくれてありがとう、お兄ちゃん」
お兄ちゃんがずっと、わたしのために、本当の自分を隠して人気者でいてくれたこと。
胸が
「でも……悪いことは、して欲しくないよ」
「……うん。俺も、雨蓮たちとはもう関わらない」
わたしは眉を下げながら笑って、お兄ちゃんの腕に手をからめる。
「お兄ちゃん。わたしは、どんなお兄ちゃんでも好きだよ。どんなお兄ちゃんも、私の自慢のお兄ちゃんだよ」
だって、お兄ちゃんがやさしいのは変わらないもん。
こんなにわたしのことを思ってくれるお兄ちゃんが、わたしだって大好き。
満面の笑顔を向けると、お兄ちゃんは目を大きく開いて、くしゃっと、うれしそうに笑った。
「望羽……ありがとう。俺は幸せ者だな、こんなにやさしい妹がいて。これからも、望羽は俺が守るから」
「えへへ、ありがとう! でも、無理はしないでね。わたし、お兄ちゃんがしたいことをして欲しい」
「無理したことなんてないよ。俺が望羽を守りたくてやってることだから」
「お兄ちゃん……ありがとうっ」
ぴたっと、お兄ちゃんの腕に顔をくっつけて歩くと、頭をなでられる。
それから、ほおに触れられた。
「帰ったら、メイクの落とし方調べないとな」
「あ……せっかくかわいくしてもらったのに、くずれちゃったよね」
「どんな望羽もかわいいから大丈夫だよ」
「えへへ……わたし、メイクの仕方、調べてみようかな」
「興味が出たの? だったらまずは、母さんに聞いてみたら?」
「うん、そうするっ!」
それからは、いつものようにいろんなことを話しながら、2人で家へと帰った。
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