不良ぎらいだけど面食いな私VS超イケメンな不良
7,ごほうびデーに、予想外の!?
きらいな不良しかいない滝高という場所で、日々空手の技をひろうする生活はなかなかに疲れる。
毎日
休日の今日は思いっきり自分にごほうびを与えるしかない、と私は意気ようように、検索して見つけた近場のファストフード店へ向かった。
「いらっしゃいませ」
今日はなにを頼もうかな、とスマホで公式サイトのメニューを見ながら店内へ入ると、どこか聞き覚えのある気がする声が飛んできて顔を上げる。
すると、レジカウンターににっこり笑顔がまぶしすぎる顔面国宝さまがいて、後ずさりながら目を見開いた。
「笑顔の大我先輩ッ!?!?」
「!」
はっ、しまった。
おどろきと興奮のあまり大声を出してしまった……!
私はあわてて他のお客さんに向けて頭を下げ、「すみません、すみません」と小声であやまりたおす。
それから、おそるおそるレジカウンターに視線を戻せば、やはりその内側にはお店の制服に身を包んだ大我先輩がいて。
後光すら見える営業スマイルを浮かべたまま「こちらへどうぞ」と言った。
え、私あの無敵顔面国宝さまに近づくの……??
むりだよむりむり、目がつぶれる心臓がはれつするっ。
悲鳴をあげないように口を押さえたまま大我先輩を見つめると、先輩はクールな無表情に戻って、口をパクパクと動かす。
“はやくこい”
根性で大我先輩の言っていることを理解すると、私はコクコクうなずいてすばやくカウンターの前に移動した。
「ご注文をどうぞ」
「ひゃいっ! だ、ダブルバーガーとチーズバーガーとポテトLサイズとナゲットとコーラLサイズを1つずつお願いします……っ」
ふたたび向けられた営業スマイルに目をうるませて赤面しながら、乙女の
ごほうびデーはファストフード店で大食いすると決めているけど、大我先輩の前でいつもの量は食べれない……っ。
それでも大我先輩がぽかんと目を丸くしたのを見て、これでも注文しすぎた!?とあわてた。
「あっ、ち、違うんですっ、いつもこんな量を食べてるわけじゃなくてっ! 今日はごほうびデーにしようと思ってたまたまっ」
「……たくさん食べるのはいいことだ」
「へっ?」
「うちの弟と妹にもそれくらい食べさせてやりたい」
「あ……」
大我先輩はレジのパネルをタッチしながら、営業モードで「ダブルバーガーとチーズバーガーと――」と注文を繰り返す。
私は確認の質問に「はい」と答えて、財布を出しながらおずおずと小声で聞いた。
「ここでバイトされてるんですか……?」
「あぁ。父親が早くに亡くなって、母親は病弱で長時間働けないから、俺も働いてる」
「そうだったんですか……」
大我先輩がそんな苦労をしてたなんて……。
確かに、思い返してみれば放課後に声をかけられたことってあんまりないかも。
今までも学校帰りにバイトしてたのかな?
「……俺は、家族を守るために最強でありたい」
「え?」
ぼそっと言われた言葉を聞いて思わず大我先輩を見つめると、クールな顔で見つめ返された。
「俺の目的だ。この街は治安が悪いから……強くなきゃ、鈴や爽、母さんを守れない」
「……!」
家族を、守るために……。
ただ、強さにこだわっていたわけじゃないんだ。
私は目をそらしてお金をはらいながら、どぎまぎする心を落ちつかせる。
大我先輩は、“だからタイマンに応じろ”って言いたいんだろうけど……私には、それが正しいことなのか分からない。
“不良”として強くなることが……正しいことなのかどうか。
「……大我先輩、バイト、何時までですか?」
「……18時だ」
ふしぎそうな目をしつつ答えてくれた大我先輩を見て、笑顔を向けた。
「私、それまで外で時間つぶしてくるので、よかったら一緒に帰りませんか?」
「……かまわないが、それは“答え”か?」
するどい視線を向けてくる大我先輩に、私は眉を八の字にしてほほえむ。
「分からなくなりました。正直なところ、どうするのが“正しい”のか悩んでいます。だから……大我先輩のこと、もっと知りたいです」
大我先輩は少し目を見張って、じっ……と私を見つめた。
それから、コクリとうなずく。
「分かった。終わるまで時間があるが、待っててくれ……
「えっ……!?」
大我先輩が私を名前で呼んだ!?!?
さけばないように両手で口を押さえて赤面すると、大我先輩は営業スマイルよりもひかえめに、ふっとほほえんだ。
「お前も俺のこと、名前で呼んでるだろ」
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