不良ぎらいだけど面食いな私VS超イケメンな不良

6,優衣(うい)先輩と大我(たいが)先輩

約2,100字(読了まで約6分)


 変態男を無人の廊下(ろうか)に放り出して、おたがいトイレに来た用事を済ませると、かがみの前にならぶ。
 私の前には、目にかかりそうな前髪をセンターで分けた、肩につかないくらいのストンと落ちた黒髪の女子が映っていた。
 活発そうとよく言われる平凡顔。
 その一方で、となりには眼福すぎる色素の薄い美少女が映っているから、思わずそっちをガン見しながら手を洗った。


「あの……どうかした?」

「はっ、すみません。あまりにもお顔が整っているので、つい見惚(みほ)れてしまって。美男美女のお顔を鑑賞するのが生きがいなものですから」

「えっ……えぇと、ありが、とう……」


 優衣(うい)先輩は目を丸くしたあとに、じゅわっとほおを赤くして、はじらうように目を伏せる。
 反応まで美少女!! 神!? 女神さまなの!?
 悶絶(もんぜつ)しながらおたがいに手を洗い終えると、私は優衣先輩に向き直った。


「優衣先輩、こんなぶっそうな学校ですから、今後もなにかあれば私を呼んでください。というか、優衣先輩の教室に行って男たちに忠告してやります!」

「あ、大丈夫なのっ。私、3年生の人に守ってもらえてて……今日は、たまたま1人になったところをねらわれたみたい、で……」

「そうでしたか……であれば、今後は一緒にトイレに行きましょう。私、空手をならっているので」


 にこっと笑いかけると、優衣先輩は眉を下げつつも「……うん、お願いしてもいい、かな?」とひかえめに言う。


「もちろんです!」


 一切のくもりなく、満面の笑顔で言い切れば、優衣先輩はふにゃっとほほえんでくれた。
 眼福がすぎる……!!
 連絡先を交換しようとしたら、優衣先輩はスマホを持っていないというので、トイレに行きたくなったときに教室へ来てもらうという話で落ちつく。
 レアな人だな……と思いながら一緒にトイレを出ると、1階の廊下には大我(たいが)先輩がいた。


「た、大我先輩っ!」

寺岡(てらおか)、に……笹森(ささもり)、だったか。これはなんだ?」


 不意打ちの顔面国宝は心臓に悪い、と赤面しながら、気絶したままの変態男を見る大我先輩に答える。


「あぁ、その男が女子トイレに入りこんで優衣先輩をおそっていたもので……」

「……なに? 大丈夫か?」


 大我先輩は眉をひそめて優衣先輩に目を向けた。
 けがの有無(うむ)を確認するように視線をめぐらせる様子を見ながら、私も優衣先輩を見る。


「あ、う、うん。真陽(まひる)ちゃんがすぐに助けてくれたから……」

「そうか……なにかあれば俺も力になる。えんりょなく頼れ」

「え……あ、ありがとう、仁木(にき)くん」


 大我先輩が優衣先輩にやさしい言葉をかけるのを聞いて、胸がもやっとした。
 “えんりょなく頼れ”なんて、私、言われたことない……。
 って、別に守ってもらう必要なんてないんだけど、私は。
 ちらっと大我先輩を見ると、心なしか、やさしいまなざしをして優衣先輩を見つめている。


「階段のところにいたの、笹森を待ってるんだろ。早く戻れ」

「う、うん。……それじゃあ真陽ちゃん、本当にありがとう。またね」

「はい、また! この変態男は職員室に突き出しておくので、ご安心ください!」

「あ……ありがとう。任せちゃってごめんね……」

「いえ!」


 優衣先輩はひかえめにほほえんで小さく手を振り、階段のほうへ歩いていった。
 笑い返して優衣先輩に手を振った私は、変態男を見下ろす。


「俺が運ぶ」

「えっ。そ、そんな、大我先輩の手をわずらわせるなんて!」

「寺岡が強くても、男1人を運ぶのは大変だろ」

「っ……あ、ありがとう、ございます……」


 大我先輩、やさしい……。
 ドキドキと胸が音を立てるのを聞きながら、私は変態男をかついだ大我先輩と一緒に、職員室へ向かった。
 この男が女子トイレに入りこんで優衣先輩をおそっていました、と話して処分を任せると、大我先輩と職員室を出る。


「寺岡」

「はい、なんですか?」

「俺とも戦え」


 私に体を向けて、闘志が宿る瞳でまっすぐに私を見る様子は、いつも通り。
 私はなんとなくがっかりしながら、いつものように「おことわりします」と答えた。
 1階にいたのも、私を追ってきてのことだったのかな……。
 大我先輩に追いかけられるなんてうれしいことのはずなのに、目的を考えるとすなおによろこべないのはどうしてだろう。


「あの男は相手にしたんだろ」

「それは優衣先輩がおそわれていたからです。大我先輩と野良試合をする意味はありません」

「どうして俺とだけ戦わないんだ。1年の校章はほぼ集め終わったのに、寺岡の校章だけ、いつまでたっても手に入らない」

「はぁ……何回も言っていますが、力は正しく使うものです。正式な試合でもないのに、ただ強さを誇示(こじ)するために戦うことなんてできません」


 まっすぐに大我先輩を見つめると、大我先輩は眉根を寄せて私を見つめ返し……。
 ぼそっと、つぶやいた。


「俺には、目的がある。“最強”になるために……滝高生、全員に勝たないといけないんだ」


 凛とした瞳に射抜かれてドキッとしたものの、私は「力は強さを誇示するために使うものではありませんよ」と言って大我先輩に背中を向けた。


ありがとうございます💕

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