不良ぎらいだけど面食いな私VS超イケメンな不良

12,滝高のトップ

約2,100字(読了まで約6分)



「……悩みっていうのは、これのことだったのか?」

「はっ……はい、すっかり、大我(たいが)先輩が優衣(うい)先輩のことを好きだと、思いこんでしまって……」


 大暴れする心臓を抱えながらうなずいて答えると、大我先輩は「俺は真陽(まひる)が好きだ」とあらためて言ってくれる。
 ドキドキしすぎるから、そのお顔で軽率(けいそつ)に好きだとか言わないで欲しい。
 私は“彼氏”になってくれた大我先輩を見つめて、興奮のあまり目をうるませた。
 片手で口を押さえながら、校章をにぎった手を差し出して、もう一度大我先輩に言う。


「これ、どうぞ。私、大我先輩に勝てる気がしませんので……!」

「……」


 大我先輩は私の背中を支えたまま、手のひらの上にある校章に視線を落として、人差し指と親指でつまみとった。


「……今は受け取るが。俺が滝高のトップになれなかったら、真陽が代わりに挑んでくれないか」

「えっ? わ、私がですか?」

「先週、一緒に(そう)を守ってくれただろ。1人で最強にこだわらなくても、真陽と爽たちを守ることもできるんじゃないかって思った」

「大我先輩……」


 そんなふうに思ってくれたなんて……。
 かよわい女子になりたいって思ってたのに、先輩に頼りにされてる今のほうがうれしいのはなんでだろう。


「それに、トップになれば滝高を変えられる。それだけの権力が、あの座にはあるんだ。真陽の考えを広めれば、誰かを守る必要もなくなるかもしれない」

「私の、考えを……」

「力で言うことを聞かせるのはいやかもしれないが……その選択肢も、考えておいてくれないか?」

「はい」


 大我先輩のお願いなら、ぜんぶ聞く。
 即座にうなずくと、大我先輩はきょとんとまばたきをしてから、ふっとため息混じりに笑った。
 笑顔が強すぎる!!


「た……大我先輩にも、お願いします。大我先輩が滝高のトップになったら、私と一緒に、力は正しく使うものだとみんなに伝えてくださいっ」

「……あぁ。そのための“暴力”は……少しのあいだ、見逃(みのが)してくれるか?」

「はいっ!」


 お父さん、すみません。恋の前に人は無力なのです!
 私は勢いよく答えて、大我先輩と一緒に立ちあがった。


****

 5時間目が終わり、休み時間に入ると、私は大我先輩に会いに、3階へ上がった。
 大我先輩は残りの校章を集めると言って、1日中野良試合をしていて。
 残りは遠藤(えんどう)先輩だけ、と聞いたところで、上の階からタイミングよく遠藤先輩と優衣先輩が下りてくる。


遠藤(えんどう)知暖(ちはる)

「ん? 2年のトップと1年のトップがおそろいで、どうしたの?」

「あんたにタイマンをもうしこむ。……残りは、あんたと笹森(ささもり)の校章だけだ」

「え……」

「遠藤先輩のそれ、大我先輩に渡していただきます」


 私も遠藤先輩に顔を向けて援護(えんご)すると、先輩は「ふぅん」と妖しく笑った。


「きみたち、手を組むことにしたんだ?」

「恋は盲目ですから! とは言え、私は大我先輩が(かな)わなかったときの代打です」

「ははっ、おもしろいね。でも俺たち、これから大事な用があるんだ。全校生徒分の校章を集めたその行動力に免じて、強二(きょうじ)への挑戦権はあげる」


 遠藤先輩はあっさりえりにつけた校章を外して、大我先輩に投げ渡す。
 それを見事片手でキャッチした大我先輩は、眉根を寄せた。


「優衣のはいいでしょ? ケンカとは縁がないかよわい女の子だし、回収したって“最強”の箔付(はくづ)けにはならないからさ」

「……あぁ」


 大我先輩は、目を丸くしている優衣先輩をちらりと見て答えると、遠藤先輩に視線を戻して口を開く。


「だが、俺が欲しいのは校章じゃなくて、あんたに勝ったっていう――」

「あのね、一番強いやつに勝てば最強って証明できるんだよ。覚えておきな、不器用くん?」

「……遠藤先輩は、吉田(よしだ)強二(きょうじ)さんに負けたことがあるんですか?」


 気になって尋ねると、遠藤先輩はほほえんで答えた。


「うん、負けたよ。病院送りになった。だからいいでしょ? 別に俺とは戦わなくて」

「知暖先輩……」


 遠藤先輩が病院送りにされるなんて……吉田強二って、どれだけ強いんだろう。
 まぁ、彼が言うことももっともだし、と私は大我先輩に顔を向ける。


「大我先輩、とりあえず吉田強二さんに挑みましょう」

「……分かった」

「もういいね?」


 遠藤先輩たちは、話が終わると2人で階段を下りていった。
 私は吉田強二に挑む条件を整えた大我先輩を見て、声をかける。


「大我先輩」

「……放課後は、あまり時間がない。今から挑みに行く」

「そうですか……私も、ついていっていいですか? その試合、見守りたくて」

「あぁ」


 大我先輩はうなずくと、私の手を引いておどり場に上がっていった。
 手をつながれたことにドキッとしていた私は、大我先輩に「真陽」と呼ばれて、赤面した顔を上げ……。
 後頭部に手を回されて、大我先輩から唇を重ねられ、はれつしたかと思うくらい、バクッと心臓が跳ね上がる。


「~~~っ!?!?」

「かならず勝つ。見ててくれ」


 (りん)とした瞳に射抜かれて、私は目をうるませながらコクコクコクとうなずいた。
 大我先輩は動けなくなった私の手を引いて、4階に上がる。
 それから、3年1組の前に立って、滝高トップの男に声をかけた。


「吉田強二。あんたに、タイマンを挑む――」



ありがとうございます💕

(※無断転載禁止)