不良ぎらいだけど面食いな私VS超イケメンな不良

エピローグ

約1,800字(読了まで約5分)



 涼やかな風が吹き抜ける。
 大我(たいが)先輩が吉田(よしだ)強二(きょうじ)と熱い戦いをくり広げてから、1週間と少しが経って、私は今、優衣(うい)先輩と屋上で女子会をしていた。


仁木(にき)くんが新しいトップになってから、なんだか校内が平和になった気がする」


「本当ですか? 優衣先輩が変化を感じるなんて、いい調子ですね!」


「うん。知暖(ちはる)先輩も、こうやって真陽ちゃんと2人で話してていいよって、別のところに行っちゃうくらいだし」


 ふわりと笑う優衣先輩を見て、今日も美少女だ……!と口を押さえる。
 遠藤(えんどう)先輩と付き合ってしまったのがつくづく惜しいけど、おたがいにのろけ話をしたりできるのが案外楽しくて、許せるような気も……。


「優衣、もうすぐ授業が始まるよ」


「あ、知暖先輩……っ」


 いや、やっぱりしない!
 屋上の扉をカチャッと開けて、優衣先輩を迎えにきた遠藤先輩に私は嫉妬(しっと)の視線を向けた。
 当の優衣先輩は、ふにゃっとほおを緩めて一瞬で恋する乙女の顔に変化する。
 それがまたかわいくて眼福……なんだけど私の前から美少女を連れ去ってしまう遠藤先輩はやっぱり許せない!


「じゃあ、またね、真陽(まひる)ちゃん」


「……はい、優衣先輩……! また……!」


「ははっ、視線が痛いな~。きみの彼氏も来たところだから、機嫌(きげん)直しなよ」


「えっ、大我先輩!?」


 かけ寄った優衣先輩の手を取り、にこにこ笑った遠藤先輩の言葉を聞いて、パッと扉の向こうに目を向けると、確かに大我先輩が現れた。
 数十分ぶりに見てもお顔がいい。


「……なんだ?」


「俺がきみの彼女の機嫌をそこねちゃったから、なぐさめてあげて。じゃあね」


 遠藤先輩は大我先輩の肩をポンとたたいて、優衣先輩と校舎に戻っていく。
 大我先輩は2人を見送りながら屋上に出てきて、私にクールなご尊顔(そんがん)を向けた。


「どうしたんだ?」


「いえ……優衣先輩を連れ去る遠藤先輩がちょっと憎くて……」


「……そうか」


 心なしかあきれた顔をした大我先輩は、私に近づいてそっと頭をなでる。


「っ!?」


「また会えるだろ。機嫌直せ」


「はぃ……っ!」


 キュン、として、両手で口を押さえながら、私は大我先輩のお顔を見つめた。
 “彼氏”の大我先輩って、どうしてこんなにも私を甘やかしてくれるんだろう……っ!


「好きです大我先輩……!」


「……俺も好きだ」


「はぅっ」


 顔面国宝からくり出される“好き”はやっぱり強くて、いまだに目をうるませてまっかになってしまう。
 私、夢のなかに生きてるんじゃないかな。
 これが本当に現実であっていいの?
 一瞬たりとも目を離したくないから、大我先輩のお顔を見つめながらほおをつねると、ちゃんと痛かった。


「……なにしてるんだ?」


「いえ、これ現実なのかなと思いまして……」


「……」


 大我先輩は目を細めると、私の耳裏に手を差しこんで、顔を寄せる。
 あれ?この感じ、まさか?と思った直後、大我先輩はゆっくり唇を重ねた。
 爆発したと錯覚(さっかく)するほど、心臓が勢いよく拍動する。


「……現実だろ?」


 大我先輩は唇を離すと、色気があふれ出した伏し目で私を見つめた。


「ひゃぃぃ……っ」


 こんな! 確認方法をとられると! 私! 心臓がいくつあっても足りないんだけど!!
 いっそ全身がまっかになっていそうな私を見た大我先輩は、ふっと笑ってもう一度私にキスをする。


「~~~っ!? な、なんで……っ!?」


「俺がしたかったから」


「っ!!」


 あ、私、今日が命日かも。
 いつはれつしてもおかしくない心臓を胸に抱えて、私は最後に感謝を伝えておこうと、気合で口を開いた。


「大我先輩……」


「なんだ?」


「優衣先輩が……校内が平和になった気がするとおっしゃってたんです……“力は正しく使うもの”だと広めてくれて、ありがとうございます……」


 死ぬ前に、これだけは伝えておきたくて、と真面目なトーンで言うと、大我先輩は生暖かい目で私を見つめる。


「……約束だからな。死んだりしないから、教室に戻るぞ。そろそろ授業が始まる」


「ま、待ってくださいっ、私、こんな状態で授業なんて頭に入ってきませんよっ!」


 私の手を引いて屋上の扉に向かう大我先輩へうったえると、キーンコーンカーンコーンとチャイムが聞こえてきた。
 はっ、もう授業の時間……!


「急ぐぞ」


「わっ、ま、待ってくださいって、大我先輩!」


 早足になった大我先輩に引っぱられて、せわしなく足を動かす。
 今日も、夢みたいな現実が、私を命の窮地(きゅうち)に追いやりながら、幸せをいっぱい運んでくれた。


[終]
ありがとうございます💕

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