不良ぎらいだけど面食いな私VS超イケメンな不良

11,かよわく、かわいく

約2,100字(読了まで約6分)


 顔の横にせまるスニーカーが目に入っているのに、腕が重くて防御が遅れる。
 一緒に顔も背けながらなんとか上段蹴りに耐えると、足を引いた大我(たいが)先輩が中段をねらってこぶしを構えた。
 それは見える。見えるのに……。
 どうして体がついてこないの?

 ……なんて、心のどこかでは分かっている。
 優衣(うい)先輩みたいに、かよわい女子のほうが好きになってもらえるんじゃないかって、思ってしまうから。


「っ……」


 みぞおちに食いこんだこぶしに息が詰まって、いつもはかんたんにたおされたりしないのに、衝撃(しょうげき)に押されるようにしりもちをついてしまった。
 大我先輩は私の前にたたずんで、「どうした?」と声を落とす。


「こんなものじゃないだろ」

「……っ」


 今さら、だよね。
 分かってる。
 今さらかよわいフリをしたって、大我先輩は私がかよわい女子じゃないってこと、もう知ってるもの。
 私はうつむきながら、えりにとめた校章を外して、前に突き出した。


「負けは、負けです。どうぞ」

「……真陽(まひる)


 ジャリッと音がして、地面にひざをつく大我先輩の足が見える。


「私じゃ……優衣先輩みたいに、かよわくてかわいい女子にはなれないんです」

「……なにを言ってるんだ?」

「これじゃ、女子として見られなくて当然ですよね。1年生のトップになんてなってしまいましたし……」

「……真陽は、女だろ」


 その言葉にドキッとしたけど、ゆるく首を振った。
 生物学上は女性とか、そういうことを言ってるんでしょ、大我先輩は。


「大我先輩に好かれる女子になりたかったです。空手をやってる私では、むりかもしれませんが……」

「……」

「校章、受け取ってください」


 校章を手のひらに乗せたまま、もう一度差し出す意思を言葉にすれば、大我先輩の手がおおい被さって、腕を下げさせられる。


「俺は、真陽が好きだ」

「……えっ?」


 今の、聞き間違い?
 おどろいて顔を上げると、目の前にしゃがみこんだ大我先輩は、まっすぐ私を見つめていた。


「強い女だから、興味を持った。信念を持って、こぶしを振るう相手をえらんでいるのも。俺の話を聞いて、歩み寄ってくれたのも」

「……え?」

「心まで強い女だと思ってる。明るいところも、よく笑うところもかわいいし、俺の顔を見て赤面するのも……かわいい」

「かっ……!?」


 かわいい!? 大我先輩がかわいいって言った!? 今!? 私のことを!?
 照れるように目をそらした大我先輩にキュンとしながら、私は赤面してまくし立てる。


「で……でもっ、私は優衣先輩みたいにかわいくないし、かよわくもないのにっ……大我先輩、優衣先輩のことが好きなんでしょう!?」

「は……? 別に、笹森(ささもり)には興味ないが」

「でも、優衣先輩にはやさしい言葉をかけるじゃないですか! “えんりょなく頼れ”とか“味方してやる”とか! 私には言ってくれないのに!」

「……それは、笹森がここでやっていくだけの力を持ってないからだろ」

「本当にそれだけですか!? あんな美少女なのに好きじゃないって言えるんですか!? 遠藤(えんどう)先輩じゃなくて自分が守りたいとか!」

「いや……笹森は遠藤(えんどう)知暖(ちはる)に任せるつもりだが。あの2人、付き合ったようだし」

「へっ? 付き合った? 優衣先輩が? 遠藤先輩と!?」


 なにそれっ、ショックなんだけど!!
 えっ、優衣先輩、不良なんかと付き合っちゃったの!?
 美少女が!! 女性版顔面国宝さまが!!


「あぁ、先週。痴話(ちわ)ゲンカのあとに」


 先週の痴話ゲンカって……もしかして、優衣先輩と大我先輩がおどり場で話してたときのこと?
 優衣先輩が遠藤先輩から離れたがってたって……恋のあれこれだったの!?


「そんな……ショックです……美少女先輩が……」

「……笹森に嫉妬(しっと)してたんじゃないのか?」


 大我先輩は心なしかあきれ顔で、放心している私を見る。
 それとこれとは別だと言いたい。

 ……でも、ってことは、大我先輩、本当に私を……?


「ほ……本当に、私のことが好きなんですか……? 私、本当にかわいくもないですし、そこそこ強いですよ……?」

「好きだ。強いところも、かわいいところも」

「っ……ちょ……ちょっと、待ってください……! そのお顔で“好きだ”とか言われると、心臓が……っ!」


 真顔の大我先輩に近距離で見つめられているこの状況、真面目に私の心臓がはれつしかねない。
 まっかになって、ずり、とうしろに下がると、大我先輩に一歩距離を詰められた。


「真陽は?」

「好きですもちろん大好きですっ!」

「……俺の“顔”が?」

「それもそうですけど大我先輩がっ! 私、恋! してしまいました!」


 目を細めて聞かれ、勢いよく答えると、大我先輩は、ふっと、かすかに笑う。
 さけび声がもれそうな口をとっさに両手で押さえると、体がうしろにたおれてしまって、大我先輩の手に背中を支えられた。


「◎$♪×△¥●&?#$!?」

「……なにを言ってるのか、分からないが。俺たち、“付き合う”ってことでいいな?」

「!!」


 私はドッドッドッとひびく心臓の音を聞きながら、コクコクコクとうなずいた。


ありがとうございます💕

(※無断転載禁止)