不良ぎらいだけど面食いな私VS超イケメンな不良
1,入学式、10分前
体育館のなかでくり広げられている乱闘におどろいたあとは、ふつふつと怒りがこみあげてきた。
これだから不良は……きらいなの!
「ちょっと! むやみやたらになぐり合うなんてっ、力は正しく使うものでしょう!?」
「あ、きみ――」
空手道場をいとなむ父の教えを口にしながら、私は乱闘さわぎの中心へ割って入っていく。
そのせいでほうぼうから飛んでくるこぶしや足は、腕や足で受け止めたり、体勢を低くしたり、半身になったりと、かわしてやりすごした。
そのたびに、 ショートカットの髪が左右にゆれる。
「やめなさい! こぶしは理由なく振るうものではありません!」
「あぁ? なんだお前。女が入ってくんじゃねーよ!」
中心のほうにいた男は私を見るなり顔をしかめて、にぎりしめた拳を顔に向かって振り抜いてきた。
私は左腕を顔の前に上げながら、横にずれてこぶしを受け流し、にぎりこんだ右こぶしで
「ぅぐッ!?」
「……はっ!」
くの字に折れてうしろにたおれる男を見てから、やってしまったと我に返って右手を背中に隠した。
たとえ正当防衛でも、暴力ざたとして認定されてしまうから、今後は手を出さないようにしようと思っていたのに……!
せっかく空手の成績で名門校の特待生枠をかくとくしたのに、カツアゲの
あぁぁ、と奥歯をかみしめてギュッと目をつぶると、一瞬、あたりが、しん……としたような気がした。
「あの女……」
どこからかそんなつぶやきが聞こえて目を開けると、周りの男たちが私をギラギラした目で見ている。
「あ、いえ、今のは正当防衛のつもりで、決して故意に手を出そうとしたわけでは……!」
「滝高最強は俺だぁ!」
「へっ!?」
なぞの発言をしながら、こぶしを振りかぶり走ってくる男を見て、目を見開きながら右足をうしろに引いた。
空振ったこぶしを見て、また別の男がなぐりかかってきて、なんなのこの
「あの女をたおせ!」
「あいつをやったやつが最強だ!」
「ちょ、ちょっと、なんなんですか!? 暴力はいけません!」
いつの間にか、体育館にいる男たちを全員敵に回してしまったようで、休むひまなく
一回の動きで一発の攻撃を防ぐだけでは間に合わなくて、二、三発の攻撃を一気にいなしながら、せわしない動きのなかで呼吸するひまを見つける。
反撃すれば暴力ざた、反撃すれば暴力ざた、ととなえつつ、防御と回避に
「あ、あの、いいですか! 力は正しく使うものであって、私的な感情で――」
「――そこまでだ」
「え……?」
体育館に大きくひびく
そのすきをねらってなぐりかかってきた男のこぶしをいなすと、私の周りをかこむ男たちのすきまから、体育館の入り口に立つ男の姿が見えた。
凛としたたたずまいに、ストレートの黒髪、Yシャツごと腕まくりした学ラン。
「1年ども。ありあまったその体力は、
「あぁ? なんだぁ、てめ――ぇげッ!?」
「「!?」」
ゆっくりこちらに歩いてくる彼は、つっかかった男をすばやい
どよめく周りの男たちの様子を見るに、彼の裏拳が見えなかった人もいるようだった。
信じられないような顔で彼になぐりかかっては、反撃されてたおれていく男たちが状況を理解してけわしい顔つきになったとき。
彼は私の前に来て、おどろいた顔で足を止める。
「女……?」
「……!!」
深海を切り取ったような濃い青色のつり目、細い筆でシュッと引いたような眉、まっすぐ通った鼻筋、薄く開いた血色のいい唇。
両耳につけたシルバーのフープピアスと、左の前髪をクロスして止めているヘアピンは、オシャレに気を遣っているあかしなのか。
まさかとつぜん現れた不良が、顔面国宝級のどイケメンさまだったなんて……っ!
そのご
たとえその正体が不良だったとしても!!
「……下がってろ」
「はいっ! ……はっ」
スッと、欠片もすきのない、するどい顔つきに変わったイケメンさまの言葉に元気よく返事をして、すばやく彼のうしろに移動してから、我に返った。
相手は不良なのに、イケメンさまだからってすなおにしたがってしまうなんて……!
わ、私はなんてぼんのうに弱い人間なの……っ!?
「――最強はゆずらない。俺が滝高のトップになる。……かかってこい、1年ども」
「くっ……ラアア!」
「「うおおお!」」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください!」
強い意志を持って凛とひびく声にもキュンとしているあいだに、乱闘が再開されてしまって、あわててイケメンさまとおそってくる男たちのあいだに入る。
「っ、あぶな――」
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