殺し屋×JKの恋
1,監禁 されちゃいました
背中に当たる硬い感触。手足に食いこむロープ。空調もなく、ムワッとした暑さに包まれて、こめかみに汗が伝った。
窓から差しこむ真昼間の陽光に照らされて、目の前に無数のほこりがただよっているのが見える。
大変なことに、なっちゃったな~……。
ふつうの高校2年生だったはずの私、
「んんんー! んんんんー?(どなたかー! いませんかー?)」
何回目かの声かけをしてみたけど、口元までしばられたこの状態じゃ、鼻にかかったうめき声しか出ない。
ため息が鼻から抜けていくのを感じながら、私はあちこちサビたり、ゴミが落ちたり、荒れきっている無人の廃工場を見まわした。
どうしてこんなことになったのか。
そのきっかけはやっぱり、あのイタリアの人に声をかけられたことかなぁ。
『コンニチハ、スミマセン』
『はい?』
9月に入ったのに夏が終わらないから、今日も今日とてアイスを食べようと冷凍庫をのぞいた11時すぎ。
からっぽのアイスエリアを見て落ちこんだ私は、お母さんからアイスストック補充の任務をあたえられて、スーパーまで出かけた。
そのとちゅうで、顔の
『コノホテル、ドッチアリマスカ?』
今にして思えば、声をかけられたのがアイスを買い終えたあとじゃなくてよかったなぁ。
ホテルまで道案内してるあいだに溶けてたかもしれないし、ここで一緒に監禁されてたら、全滅確定だもの。
スマホでホテルの場所を調べて、地図を見ながら案内してあげると、外国人さんは“
だから私も一緒にホテルの駐車場を探して、外国人さんが約束の相手と無事に合流するところまで見届けたんだ。
お相手はメガネをかけたスーツ姿の、理知的な大人の人だった。
外国人さんとスーツの人にお礼を言われて、手を振りながら さよならをしたあと。
《一般人を取り引き現場まで連れて来るとは。もうすこし
《どうせこれっきりの相手だ。それより、これが話したクスリだ。イタリアで あっというまに街を汚し、中毒者を
背後から聞こえてきたのは、イタリア語でのやりとり。
学校ではなぜか“残念な子”と言われがちな私だけど、勉強は けっこう得意なほうで、英語やイタリア語が話せるほか、フランス語を勉強中。
だから、その怪しげな会話もばっちり理解できて、思わず『え?』と振り返ってしまった。
《きみ……イタリア語がわかるのか?》
《あ……はい。えぇと……ドラマみたいな会話ですね?》
生でそんな会話が聞けると思わなかったから、ちょっとテンションが上がって、笑いながらイタリア語で答えたのが、もしかしたらよくなかったのかも。
私に問いかけたメガネの人も、イタリア人さんも、その瞬間目の色を変えて私を近くの車に押しこんだから。
どうやら私は、フィクションじゃない、裏社会に住まう方々の完全にアウトな取り引き現場に、居合わせちゃったみたい。
それからは、《この女、どうする?》とか、《始末するのにいい場所がある》とか、ドラマで聞いたことのある怖い会話を聞きながら車にゆられ。
この廃工場で、鉄骨の柱にくくりつけられて、1人、ずっと放置されていた。
――ブブ、ブブ
ショートパンツのポケットに入れていたスマホがまた
これで3回目。
たぶん、お母さんだろうなぁ……いつまで経ってもアイスを買ってこないから、怒ってる?
それとも、お昼ごはんできたよーってお知らせかな。今日のお昼、冷やし中華だったらうれしいな~。
そんなことを考えていたら、ギィィ、と廃工場の大きな扉が開いて、イタリア人さんがもどってきた。
窓から日差しが入ってきているけど、扉が開くと いっそう目の前が明るくなる。
まぶしさにすこし目を細めると、イタリア人さんの左手にキラリと光るものが見えた。
《待たせたな、暑かっただろう? 安心しろ……すぐ、永遠の眠りにつける》
コツコツと足音をひびかせながら、イタリア人さんは左手のナイフをヒラヒラと持ち上げ、肩をすくめる。
「んんっ……!」
私、もしかしてかなりピンチかも~……!?
背中がじわりと しめっているのは、暑さのせいか、
一歩一歩近づいてくるイタリア人さんを見て、このまま死んじゃうのかな、と一気に感情が波打った。
《心配はいらない。苦しむのは……ほんの一瞬だ》
「んーっ! んんーっ!」
円を描くように、ナイフの切っ先を小さく回したイタリア人さんは、私の目の前で足を止めて、ニヤリとした笑顔をグッと近づけてくる。
それから、ナイフを持った左手をうしろに引いた。
アイスも冷やし中華も食べられないまま、お腹をすかせて死ぬなんていやだ~……っ!
目に浮かんだ涙ごと、ギュッとまぶたを閉じた次の瞬間。
《コズモ。
《なっ……!?》
目の前のイタリア人さんとはちがう、低く冷たい声が廃工場にひびいて、私は思わず目を開けた。
うしろに顔を向けているイタリア人さんのさらにうしろ、廃工場の入り口に、片手でピストルを構えた茶髪のお兄さんが立っている。
《殺し屋、ジョット……!?》
《カリアファミリーの名を背負いながら、クスリを盗んで国外に逃げるとは……ボスは、炎のようにお怒りだ》
くるんと毛先がカールした前髪からのぞく するどいつり目は、背筋がゾクリとふるえるほど
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