2,恋するタイムリープ―中―
笑顔の私を背景に、つかさのスマホに表示されているのは、たしかに9月20日土曜日……昨日の日付。
今度は私が「えっ」と声を出して、バッグから自分のスマホを取り出した。
こっちはちゃんと9月21日日曜日、と表示されている……そう思っていたのに、私のスマホにも9月20日と書かれている。
「え、うそ、なんで? だって昨日……」
「江奈?」
つかさと誕生日をすごした記憶が、ただの夢だったとは思えない。
「まさか……昨日にもどってる!?」
「えっ?」
信じられない気持ちでさけぶと、つかさの顔がおどろきの表情にそまった。
二人のスマホがこわれている、なんてことはないはずだけど、確認のために急いで部屋へもどり、ノートパソコンを開く。
電源をつけて表示されたのは、やっぱり9月20日の日付だし、今日は何日と検索しても、最新のネットニュースを見ても、9月21日の文字は出てこなかった。
「江奈……昨日にもどってるって、どういうこと?」
ノートパソコンを前にぼう然としていると、あとを追ってきたのか、つかさの声が背後から聞こえる。私はふるえる指先でノートパソコンの電源を落として、うつむいた。
「私、昨日1日、つかさと一緒に誕生日をすごしたの。朝、つかさが家にむかえに来て、バラの花束をくれて、つかさの家に着替えを置いて、遊園地に行って……」
昨日の鮮明な思い出をひとつひとつ口にして、混乱が強くなっていく。
私は確かに昨日、誕生日を、9月20日をすごしたはず。
「夜になってつかさの家へ行って、お風呂に入って……そうだ、ドライヤーを探そうと思って、時計を見つけたんだ! ひよこの!」
私はバッと振り返って、うしろに立っていたつかさを見上げた。
つかさはなんだかこわばった顔をして、私を見つめ返している。
「洗面台の下にひよこの時計、置いてたよね? 私、昨日それを見つけて……そのあとの記憶がないの。気がついたら、家で寝てて……」
「そ、そう、なんだ……」
「つかさ、私、昨日にもどってきちゃったみたい……! なんで!? こんなことありえるの!?」
頭を抱えて混乱を吐き出すと、肩につかさの手が乗った。
なだめるような体温に、すこしだけ気持ちが落ちつく。
「江奈……その、時計、なんだけど。裏にあるボタン、押したりしちゃった……?」
「ボタン……?」
問われて、顔を上げながら記憶をたどった。
そういえば……。
「あ……カチッて、なにか押しちゃった感触、したかも」
「そ……そっか……」
つかさはますますこわばった顔で、目を泳がせる。
いつもはこんなに
「つかさ? あの時計に、なにかあるの?」
「えっ……い、いやぁ……実は、もらいもので、僕もよく知らなくて……あ、あの時計、調べてくるよ!」
「調べてくるって?」
「あ、あれを見つけたあとの記憶、ないんでしょ? も、もしかしたらあの時計に原因があるかもしれないからさ」
笑みを浮かべているけど、つかさの顔は引きつっていた。
その不自然なようすも気になりつつ、首をかしげる。
「時計が原因って……」
「え。あ、そ、そうだよね! だ、脱衣所! 脱衣所も見てくるよ! 江奈の記憶がない原因、探してくるから!」
私の話を信じて、すぐに原因を調べに行こうとしてくれるのはたのもしいけど……。
私はつかさの言葉で決意して、グッとこぶしをにぎった。
「それじゃあ、私も一緒に行く! 張本人の私がいたほうが、わかることあるかもしれないでしょ?」
「えっ……う、うん……そう、だね……」
つかさは目をそらしながら、ぎこちなくうなずく。
つかさ……どうしたんだろう?
いつもとちがうようすを疑問に思いながら、私はつかさと一緒に、彼の家へと向かうことにした。
つかさの家に着いた私たちは、まっさきに脱衣所へ向かい、洗面台の下をのぞきこんだ。
でも、昨日はそこにあったはずのひよこの時計が、今日はどこにもなくて。
「あれ?」
「お、おかしいな~……どこかに、移したんだっけー……? あ、江奈はリビングを探してくれる? 僕は寝室を見てくるから」
「うん、わかった」
家に着いても挙動不審なつかさをふしぎに思いつつ、私は昨日、お風呂が沸くまでつかさと一緒にテレビを見ていたリビングに向かう。
一緒にリビングへ来たつかさは、手前にある扉を開けて寝室に入っていった。
テレビの前のテーブルに、ソファー。テレビ台の下なんかをのぞきこんで、ひよこが描かれた時計を探しながら、そういえば、と思い出す。
昨日のテレビで、ちょうどタイムマシンの話をしてたんだっけ。
過去にもどれる、なんて物語のなかだけだと思ってたけど……実際、私は昨日にもどってきちゃったわけだから、タイムマシンが実在しても信じられるかも。
「はっ……! ていうか、あの時計がタイムマシンだったりして!?」
よつんばいになっていた体を起こしてひらめきを口にしてから、そんなわけないか、と肩を落とした。
あんな“お子さま向けです”って顔した時計がそんな大層な代物なわけがないし、そもそもタイムマシンができるのは50年後だって話だし。
「はぁ……ないな~」
私は床に座りこんだままリビングを見回す。
時計がありそうなところは一通り見たんだけど……。
寝室のほうはどうだろう。あの時計の持ち主はつかさなんだし、どこに置いてあるか思い出したりしてないかな。
ちょっとつかさのようすを見てこよう、と決めて、私は立ち上がった。
寝室へ続く扉に近づいて、「つかさ、こっちはどう?」と声をかけながら、カチャッとドアノブを下げる。
開いた扉の向こうには、クローゼットのなかに埋めていた上体をちょうど引き抜いたつかさが立っていた。
バッと、おどろきに満ちた顔を私に向けるつかさの手に、昨日の夜に見た、ひよこの時計がにぎられている。
「あ!」
見つかったんだ、と笑顔で声をかけようとした私よりも先に、つかさはギュッと目をつぶって、いきおいよく頭を下げた。
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