禁断の想いを、演技に隠して。

8,本当の告白

約1,400字(読了まで約4分)


 台本読(せりふよ)みに付き合ってもらえたのは、昨日まで。
 つまり、今日からは、もう佐々木(ささき)先生との接点が授業しかなくなってしまう。
 ……大丈夫、あの台本のようにやればいい。


「佐々木先生。私だって、演技が上手いほうじゃありません。“特別なこと”をしていたのは、私のほうです」

藤田(ふじた)さん……?」


 前髪がすこしかかったメガネの奥で、佐々木先生はパチリと目を丸くする。
 今まで何回も告白してきたのに、“演技だから”ではごまかせない状況に、緊張(きんちょう)が湧いてきた。
 すー、はー、と深呼吸をして、グッと手をにぎりながら熱い顔を佐々木先生に向ける。


「私、ずっと本気でした。名前がおなじなのは、ぐうぜんじゃありません。佐々木先生と……“祐介(ゆうすけ)”先生と、こうなれたらいいなって」

「……え?」

妄想(もうそう)してただけなんです。でも、祐介先生は気持ちわるいとか、なにも言わなかったから。夢を見たかった」


 祐介先生はポカンと口を開けて、おどろいた顔のまま私を見つめていた。
 ドッドッとうるさい鼓動(こどう)が体にひびく。
 私はもう一度深呼吸をしてから、正真正銘(しょうしんしょうめい)の告白をした。


「――好きです。私は祐介先生のことが、大好きです。台本読みを通じて、がまんできないくらい、気持ちが大きくなりました」

「藤田、さん……」

「生徒と先生だから、許されないことだって分かってます。それでも……っ、私と付き合ってください、祐介先生!」


 ガバッと頭を下げて、ふるえる右手をまっすぐに差し出す。
 1秒、2秒、としずかな空気が痛くて、泣きそうになりながら、右手を伸ばし続けた。


「……藤田さんを、傷つけたくない。その気持ちに(こた)えてあげたい。それが俺の本音だよ」

「っ……祐介、先生……」


 台本のセリフをなぞった言葉に、どんな結論が続くのか分からなくて、怖くなる。
 ことわられるのかな……。
 ううん、ことわられる確率のほうが高いはず。
 先生に告白してOKしてもらえるなんて、ありえないもん……。


「本気の気持ちをこめてたのは、俺も一緒。……ふつうのデートも、できないよ。恋人らしくできる時間だって、ほんのわずかだ。それでもいい?」


 鼓膜(こまく)を通った言葉が信じられなくて、床を見つめたまま目を極限まで開いた。
 3秒経ってから顔を上げる。
 祐介先生は、真剣なまなざしで私を見つめて、すこしほほえんでいた。


「……はい。はい……!」

「それじゃあ……俺と付き合ってください、藤田愛(ふじたあい)さん」


 にっこりと笑って、祐介先生は私の右手を両手でにぎり返す。
 伝わる体温も、大好きな先生の声でつむがれた言葉も信じられなくて、涙がこぼれた。


「よろこんで……!」

「ふふっ、泣かないで」


 祐介先生は片手を離して、私の涙をぬぐう。
 そのあとで、ポンポンと頭をなでてもらえたのもうれしくて、ますます泣きたくなった。


「“祐介さん”、好きです……っ」

「俺も好きだよ、愛さん」


 “愛さん”。
 ただの先生じゃ、名前でなんて呼ばない。
 それに、ちゃんと言葉にして“好き”って言ってくれた。
 私はいよいよ涙腺崩壊(るいせんほうかい)して、祐介さんの腕のなかでしばらくなぐさめられていた。

 禁断の想いを、演技に隠して。
 夢を見たいと望んだ結果、夢みたいな現実を手にすることができた。
 イチャイチャできる時間なんて、かぎられてる。
 学校で顔を合わせたって、私たちは生徒と先生。

 それでも、両想いだって何度でも実感できるこの秘密の関係は、私の人生で一番の幸せだ。


[終]
ありがとうございます💕

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