自信を失ったら、
自信を、無くしてしまった。
ここに、自分がいる必要はないんじゃないか。
自分がやる必要はないんじゃないか。
そんな気持ちに
「おい、そこのお前。
「……はい?」
当たりの強い言葉が胸に刺さる。
顔を向けると、
「せっかく星を見てたのに、お前のせいで真っ暗になったじゃないか」
「は……?」
俺のせいで、と言われても。
「お前が
「……」
なんなんだ、この少年は。
ちょっと口が悪くないか?
「聞いてるのか? さっさと気持ちを切り替えろ、って言ってるんだ」
「いや……」
そんなことを言われても困る。
「……はぁ。ダメなやつだな」
少年の溜息と悪口が、思ったよりも胸をえぐった。
ダメなやつだなんて、言われなくても分かってるよ。
「あぁ、うっとうしい。
「うわ」
驚いて一歩下がろうとすると、手首を掴んで引き留められる。
「何をバカなこと考えてるんだ」
「は……? バカなこと、って」
一体なんのことだ。
「自分の価値を見失ってるんだろう。自分がいなくても、自分がやらなくてもいいなんて思ってるんじゃないか?」
図星を突かれて、肩がぴくりと動く。
「いいか、分からないなら教えてやる。お前の価値は……」
あぁ、この口の悪い少年のことだ。
とんでもない悪口が飛び出してくるんだろうな、と覚悟をした。
「お前が思ってる100倍はある。0に何をかけても、とかくだらないことは言うなよ。そもそも人の価値なんて論じること自体間違ってるんだ」
「……え?」
「おれは知ってる。お前がどれだけ魅力のある人間か。おれはずっとここでお前に見惚れてたんだからな」
「は……?」
人格が変わったのか?
一体何を言われてるんだ?
「なんだその顔は。おれが俺を
「……あの、何を言ってるのかよく……」
「落ち込むのはいいさ。でも自分の価値を
「う……君、ちょっと言葉が強くないか」
「お前だってあの星を見れば分かる。お前が覚えてない、お前がしてきた
「は……? 君は一体……」
「バカな質問だな。くだらない。いいか、お前は“まだ”未熟なんだ」
未熟……。
その言葉がぐさりと胸に刺さった。
「落ち込んで、何かに気づいて、ひとつ輝きを増やす。お前が落ち込んだときっていうのは、さらに魅力的になるタイミングなんだ。自分の価値なんて疑ってるな」
「そんなポジティブには……」
「水は本当に水なのか? 人間に必要なのか? なくてもいいんじゃないか? お前はどう思う?」
「は? ……そんなの考えるまでもないだろ」
水は水だし、人間が生きるために必要だ。
なくなったらそれこそ大勢の人が、動物が、植物が死んでしまう。
「ほらな、お前だってバカなことだって思っただろ。おれは誰か? お前がやる必要はあるのか? お前はいなくてもいいんじゃないか? 答えは一緒だ」
答えが一緒?
どういうことだ。
「世界にとって、周りの人間にとって、自分にとって、おれは俺で、お前にやる必要があって、お前はいる必要がある」
「……
「何億と人がいたって、お前と全く同じ考えをして、お前と全く同じ行動をするやつはいないんだ。世界
周りと……。
そう言われて、思い当たる人を頭に浮かべてみた。
「本当にお前は必要ないのか? お前の代わりなんているのか? お前と全く同じ思考をして、全く同じ行動ができるやつが」
「……それは、いないかもしれないけど。でも、世の中にはもっといい人がいて、もっとできる人がいて、俺である必要なんて……」
「それがくだらない考えだって言ってるんだ。
さっきから水に例えるのはなんなんだ。
「……比べるものじゃないだろ? 軟水には軟水の使い道があって、硬水には硬水の使い道がある。ひとつの視点で見たときに
「はぁ、なんでこれが自分に適用できないんだ。お前は本当にバカだな」
……バカバカ言われすぎて、むかついてきた。
そもそも年下のくせに……。
「“もっといい人”も、“もっとできる人”も、ひとつの視点で見たときの感想でしかない。全部ひっくるめたお前と優劣を
……めちゃくちゃ、褒めてくれるんだよな。
こんなに口が悪いのに。
俺を俺として、認めてくれる。
「お前はお前のままでいろ。だってお前が必要なんだ。お前じゃなきゃダメなんだ。1回じゃ納得できないなら、何回でも言ってやる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「お前がお前のままでいることが、必要なんだ。お前の代わりなんていないんだ。お前じゃなきゃできないんだ」
本当にいいのか、俺。
口の悪い少年に褒められて、こんなにくすぐったい思いをして。
ちょっと元気が出てくるなんて……。
「ん? 闇が晴れてきたな。ほら見ろ、お前自身を。お前の魅力を映し出したこの場所を」
「俺自身……?」
一体なんのことだと思いながら、辺りを見る。
景色をよく見ようと思う俺の心に比例したように、どんどん闇が薄れていって……。
俺は息を飲んだ。
そこに、満天の星空が現れたからだ。
「説明しても分からないかもしれないが。ここは精神の世界だ。そしてこの空間はお前自身。じゃなきゃ、おれはここにいられないからな」
「俺、自身……」
無数の星が浮かんでいて、キラキラと光っている。
誰が見ても、見惚れて溜息をつくような綺麗な景色だ……。
「あの星ひとつひとつが、お前の魅力。これだけ魅力があるのに、“まだ”未熟なんだ。お前が成熟したら、どれだけ輝く人間になるんだろうな?」
少年を見ると、可愛げのある笑顔を浮かべていた。
「おれはお前自身だ。って言っても、お前の一部らしいけどな」
「君が、俺の一部……」
それならきっと、この少年は俺の自信が具現化した存在なんだろう。
“自信”だけにしては、口が悪いのが気になるけど……。
「これだけ綺麗な景色なんだ。たまには自分を見るのもいいだろ。おれはたまにと言わず、ずっと
あぁ、だからこの少年は自信に
自分のいいところをずっと見ているんだから。
これが自分なんて、まだ実感が湧かないけど……。
本当にこれが俺自身なら、俺も多少は、自信を持っていいのかもな。
そう思いながら、俺はずっと、星々を眺めていた。
目が覚めて、現実に帰るまで、ずっと、ずっと……。
「……いなくてもいいんじゃないか、なんて
いつの間にか突っ
あの星々を眺めていたら、忘れていた色んなことを思い出した。
人に褒められた経験。
人に感謝された経験。
誰かに見られていなくても、自分で満足した出来事。
あの少年に横から口を出されて、特に意識もしていなかった出来事が、“あの時あの人は感謝していたはずだ”なんて
くすぐったくて、涙が出そうになった。
俺は、いていいに決まってる。
俺がやることに意味を見出してくれる人も、俺がやることで喜んでくれる人もいるんだ。
「諦めないで、やってみよう。俺ができること、俺にできることを忘れずに」
決意を口にして、よし、と俺は顔を上げた。
(※無断転載禁止)
この物語は、別名義でノベルゲームとして作った物語を、小説版として改変したものです。
→ノベルゲーム版「チルする5分」